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国立劇場

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【8・9月文楽】文楽公演舞台裏のご紹介!

10月末で閉場する国立劇場。
最後の文楽公演の舞台裏、そして人形遣いの隠れた仕事をご紹介いたします。
案内役は人形遣いの吉田玉翔です。



吉田玉翔

まずは、人形遣いが舞台で履く「舞台下駄」を置いているところにきました。




舞台下駄置き場

玉翔「人形を手すりの上まで上げるために、主遣いは下駄を履きます。木でできた下駄の前と後ろに1足ずつわらじが付いていて……付ける、じゃなくて『すげる』って言いますね。下駄にわらじだから、今でいうとブーツにサンダル、みたいな。程よい滑りがあって、舞台での足音も目立たない。段々擦り減ってくるので、若い人が新しいのをすげます。ゴムとかも試したけど、滑りが悪くて、今でもわらじを使ってますね。実は三味線の二の糸で止めているんです。三味線弾きさんが使い終わったやつをリサイクルしてます。」




舞台下駄の裏面にはわらじ



わらじは二の糸で止めている

「舞台下駄は色んな高さがあって、人形遣いの背の高さや役柄によって使い分けます。今月の『菅原伝授手習鑑』「天拝山の段」で菅丞相の玉男さんが履いてる下駄は高いですね。牛や馬に乗る時は手すりよりさらに上に上げないといけないので、大きいのを履きます。」




「天拝山の段」菅丞相で使用する下駄



続いて衣裳部屋。公演中は人形置き場として使用しています。



人形が並ぶ衣裳部屋


「主役級の人形は楽屋の中に置きますが、入りきらない分はこの部屋に入れています。出番の前に足遣いが取りに来て、舞台に持っていきます。ちなみにさっき紹介した下駄は大体左遣いが持っていきますね。
衣裳さんから渡された衣裳を人形に着付けるのも人形遣いの仕事です。僕は一番苦手な作業ですね……。慣れてないうちは時間がかかるし、若手の時はご飯食べる暇もないような中で作らなあかん、っていう経験があるので、トラウマみたいなもんですかね(笑)」



ツメ人形の頭の後ろには釘が


「こっちはツメ人形です。頭の後ろに釘がついてて、文楽劇場にはひっかけられる場所があります。東京は棚に寝ています。駕籠かきなんかは駕籠と擦れてかしらが結構汚れるんで、ちょっとかわいそうですね……。 それぞれのツメ人形に捕手、駕籠かきなどの役割はありますが、同じ役割の人形であればその中から好きなのを選びます。かわいい顔のやつ、とかね。重いのはしんどいので、僕は軽いのが好きです。」


続いては小道具部屋。ここから小道具係さんや人形遣いが小道具を舞台へ持っていきます。
「基本的に全部人形サイズで小さくなってるんで、歌舞伎で使う駕籠を見たら大きくて驚きますね。
今回の公演だと『大内天変の段』の蛇なんか珍しいですね。あとは『天拝山の段』の梅ね。これは手元のレバーを引くと、ぴろーっと花が取れる仕組みになってて、かいしゃく(舞台上で、小道具の出し入れなどの細かな手伝いをする人形遣いの仕事)で持っていくときに『絶対引っ張んなよ!』て言われましたね。
これは「寺入りの段」で千代が持ってくる煮物。メニューはいっつもこれなんで、僕が千代やる時があったら毎日作ろかな……(笑)。
こっちは白太夫の眼鏡ですね。人間と違って耳が無いんで、こうして後ろをひねって止めてます。ちなみに度は入ってません!(笑)」

「大内天変の段」の蛇

「天拝山の段」の梅


「寺入りの段」の煮物

「訴訟の段」の白太夫の眼鏡



そして舞台へと向かいます。



文楽の舞台(第三部『曾根崎心中』「生玉社前の段」)


「文楽の舞台は『船底』といって一段低くなっていて、客席側に手摺という仕切りの板がついています。船の底みたいになっているので“船底”です。これが作れる劇場はなかなかありませんね。手摺の中では人形遣いがかいしゃく(小道具の出し入れなど細かな手伝い)をしていて、床を這ったり、中腰で移動しています。お客さんからは見えない、若手人形遣いの苦労が詰まった空間ですね。たまに手摺の中が見える会場や、手摺の無い舞台だと、『キチンと座れ!』と言われるので、気を使いますね。」


「人形が出入りする部分は「小幕」がついていて、これの開け閉めも人形遣いの仕事。下手側の幕を開けた後は、お客さんに見えないように、こうやって隠れます。(写真右)音を出して勢いよく開けたり、ゆっくり静かに開けたり、場面の雰囲気や人形の性根に合わせて開け方を変えてるんですよ。入ったばかりの何もわからない頃から小幕をやるんですが、いつ入ってくるのか分からなくてずっと舞台を見てる、なんてこともありました。小幕から人形が出るときは主遣いが『ハイ』と言ってくれて、それで幕を開けます。昔、『ハイ』と言ったら開けてくれと言われたのに、そのタイミングで『ヨイショ』と言われて、混乱したこともあります。」

下手側の小幕から舞台をのぞく
※実際はここまで開けません

幕を開けたら見えないように隠れる

「幕開きの口上とツケ打ちも人形遣いがやってます。長い方が幕柝で、短い方がツケです。今月の『天拝山の段』の最後に道具が転換する場面では『二枚ツケ』と言って二人でツケ打ちをしていて、これは珍しいですね。一人(今回は簑太郎さん)が菅丞相の動きに合わせたツケを打ち、もう一人(今回は勘介さん)が効果音にあたる音を出しています。
口上もツケも小幕も、詳しく教わることはなくて、先輩がやってるのを見て、自分なりに真似してやってみて、怒られて……。何事も『芝居心』が大事や、とはよく言われますね。散々語ってますが、僕はやった事ありません!」

口上はこのあたりで

ツケ打ちの様子

手前がツケ、奥が幕柝

珍しい二枚ツケ(右が吉田簑太郎、左が桐竹勘介)



◆◆◆


「僕らはまず小幕の開け閉めで舞台がどう進んでいるのかを学び、やがて草履運び(草履を脱ぐところと履くところが出入りの都合で異なるときに、履くところへ草履を持ってゆく)、そしてかいしゃく、足遣いへと修行してきました。この舞台には本当にいろいろな思い出があるんですよ。」

陰で支える人形遣いも、心動かす舞台を作る上で重要な役割です。
様々なところに散りばめられた見えない「芝居心」にもご注目ください!

8・9月文楽公演は24日(日)まで!

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