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【5月文楽】豊竹呂太夫が十一代目若太夫襲名への思いを語りました

4月大阪・5月東京の文楽公演では、豊竹呂太夫改め十一代目豊竹若太夫襲名披露を行います。襲名披露狂言は『和田合戦女舞鶴』。公演に先立つ3月、記者懇親会が行われ、豊竹呂太夫が襲名への思いを語りました。

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豊竹呂太夫



襲名に向けて
この度、豊竹若太夫を十一代目として襲名させていただきます。文楽の太夫では、若太夫は竹本義太夫の次に大きな名前といわれております。十代目は私の祖父で、57年ぶりに私が十一代目としてこの度継がせていただくことになりました。
文楽は世襲制ではなく、実力主義でございますから、私の祖父が若太夫だったからといって、私が自然に継いだというわけではございません。私も2年前に、文楽の太夫としての最高峰の位置にあたる“切語り”になりましたので、それでやっと、若太夫を継げるという自信が芽生えました。襲名は非常に光栄でありますが、若太夫を継いで終わりではなく、襲名してからも、もっともっとお客様に感動していただける舞台をつくりたいと思っております。

70歳で呂太夫を襲名したころから、何かちょっとわかってきたことがあります。文楽人形のかしらには、こども、侍、悪い侍、おばあさん、悪いおばあさん、若い娘、既婚の女性など、さまざまな種類があって、そのかしらに応じた音程がきっちり決まっているのです。20歳で入門して50年位経って、それがやっと整理できてきた、とでも言いましょうか。
そのような感じで、遠い道のりのトンネルの先に、明かりがちょっと見えたかなというのが70歳のとき。そうして、呂太夫を襲名して自覚ができてきて、一昨年、切語りになり、今まで教えてもらったことをもう一回洗い直して語るようになってきたら、なにかわかってきたんです。だから「まだまだ、これからやったるぞ」という気持ちがあります。

20歳のころは、大江健三郎や、倉橋由美子、庄野潤三などに傾倒して、シュールレアリスムみたいなものを目指した小説家になりたかった。祖父は太夫をやっておりましたけれど、義太夫はもう流行らん、と私は思っていました。非常に失礼な言い方ですけど、本音はそうだったんです。
でも待てよと、文楽をやれば小説の糧にもなるな、と思って…文楽は1年くらいでおさらばするつもりやったんですよ(笑)。改めて文楽を観ても、席はガラガラで、太夫は汗水たらして、訳のわからないこと唸っているし、三味線はおじいちゃんがベンベン、ちょっと聞きなれん音。人形いうたら、大の男が一つの人形を三人で操っているし、それで人形のとなりに人の顔が…なんでこんなところに顔を出すねん、みたいに(笑)。
ただ、見ているうちに、美術がすごくいい、この色使いは他とはちょっと違うぞ、と。そうすると人形遣いさんも含め、舞台全体が抽象画に思えてきたんです。これこそシュールレアリスム、アバンギャルドや、と思った。太夫もソウルミュージックや、これって待てよ…こんな芸能ないやんか!と、衝撃を受けましたよ、これはすごいと。

こういう運命的なものがあって、今この立場にいますけれど、太夫になったからには、私の祖父の若太夫が、おぼろげながらに目標になっていました。
70歳のときに、竹本住太夫兄さんに、呂太夫を継がないかと薦めていただきました。その襲名の口上で、亡くなられた咲太夫兄さんが、「“ろ”の次は“わ”ですから」と言ってくれたんです。つまり、“呂”(呂太夫)継いだら、次は若太夫やで、と(笑)。そういう風に思ってくださっていることが、私としては意外でした。その時から、「よっしゃ、そんなら、若太夫を継ぎたい」という気持ちが芽生えてきました。




襲名披露狂言について
襲名披露狂言には『和田合戦女舞鶴』「市若初陣の段」を選びました。初代の若太夫がこれを人気のある大きな演目に仕立て上げ、私の祖父もそれを知っていましたから、昭和25年に十代目若太夫を継いだときには、この演目を襲名披露狂言といたしました。私も若太夫の襲名披露狂言の演目とするならこれと決めていました。
今までにも素浄瑠璃では何度か勤めてきた演目ですが、改めて去年の12月に、2回東京と大阪で語りまして、その際もう一回、勉強し直しました。
やはり前回勤めた数年前にはわかっていなかったことが、だんだんと「そうか、こういうことやったか」と。祖父の録音を聞いても、年代によっての違いが、わかるようになってきたんです。「ああ、こういう仕掛けがあったんか」とか、発声のしかたでも「ここは気張ってないな、ここは読んでるだけやな」とか、「ここやな“矢声(やごえ=鋭い高音のこと)”は」、とかね、そういう整理がつくようになりました。


北千住・シアター1010の印象
会場となる北千住の「シアター1010」には、昨年の12月に若手中心の公演で伺いました。なかなか良い劇場だなと思いました。それと、北千住はすごく変わりましたね。駅に降りると、チョットしたらすぐ飲食街があるんですよ。だから芝居が終わってから、ながれて居酒屋に行けますし、これはこれでおもしろいですね。国立劇場の周りは、皇居で最高裁判所ですから(笑)。
国立劇場をしばらく離れ、いろんな所に行って公演するのも、ある意味プロモーションになるんじゃないかなと思います。先日、足立区の近藤やよい区長と話したときに、足立区に来てくれて嬉しい、区民の人も喜んでいるとおっしゃってくださって、すごく意義のあることやな、と私は思っています。




豊竹若太夫の紋
若太夫になり、紋も新しくなりました。文楽の舞台の上手と下手に小幕(こまく)がありますが、そこに竹本義太夫の紋と、豊竹若太夫の紋があって、その紋と同じものになります。これをつけるということは、身に余る光栄というか、これつけて座っているだけで、ドキドキしているくらい嬉しいんです(笑)。カタカナで“トヨ”と描かれている紋なんて、斬新ですよね。

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5月文楽公演は5月9日(木)~27日(月)、北千住・シアター1010にて開催いたします。
大名跡の復活、そしてシアター1010で実施する初めての襲名披露にぜひご期待ください!

さらに公演への期待高まる初日の前夜、ゲストに俳優の山村紅葉さんをお迎えして、意気込みを語り、襲名披露演目である『和田合戦女舞鶴』「市若初陣の段」の魅力をお伝えするトークイベントを開催します。
詳細はこちらをご覧ください。


チケットは4月14日(日)より予約開始です
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公演詳細は下記特設サイトをご覧ください。

\4月・5月文楽公演特設サイトはこちら/