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文楽人形遣い 桐竹勘十郎さんを迎えて、「あぜくらの集い」を開催しました。

5月13日、人形遣いの桐竹勘十郎さんをお迎えして、あぜくら会員限定のイベント「あぜくらの集い」が開催されました。入門間もない頃のエピソードや、舞台での心掛けなど、芸歴42年の勘十郎さんならではのお話しを、ダイジェストでレポートします。

人形遣いとしての勉強の第一歩 ・・・ツメ人形を遣う

 入門して、初めて人形らしきものを遣わせてもらえるのがこのツメ人形です。300年ほど昔、まだ三人遣いが始まる前の時代の名残と思われますが、大変に素朴な人形です。人形の首(かしら)についている棒を左手で持ちまして、右手を人形の袖に入れる。これだけでございます。足もありませんし、人形の左手は帯に留めてあります。
 体と人形を離して、前に出して構えるのが正しい構え方ですが、腕を絶えず曲げていなければならないのがしんどいですね。だらしない持ち方をしていると勉強にならない。あの玉男師匠もよく「三人遣いの人形のつもりで遣え」とおっしゃっていました。

ツメ人形を遣う桐竹勘十郎さん

ツメ人形にもいろんな役がありますので、入門したてのころは、鏡の前で自分なりに動きをつけてみたりする。いろいろやってみたくなるわけですが、いざ舞台に立ってみると、それどころではなく、この人形を構えているのが難しいのですね。ツメ人形が舞台に並ぶのですが、じっとしていると少しずつ腕が下がってくる。隣を見ると先輩方がさっきよりも高く人形を構えているので合わせなければいけない。同じ高さに保つのが、若いころには難しかったですね。

人形に表情を生み出すために

立役の首を持つ桐竹勘十郎さん

これは立役の首(かしら)で、 目や眉が動く仕掛けがありますが、仕掛けに頼り過ぎてはいけません。たとえば泣くときに眉の仕掛けを動かしますが、ただ動かしても全然気持ちは伝わらない。気持ちの昂ぶりを首の動きで表しながら、ここ一番の勝負どころで眉の仕掛けを用いるようにしています。

こちらは5月公演でつとめています『ひらかな盛衰記』の腰元千鳥(こしもとちどり)です。
入門から20年経ったときに師匠にお許しをいただきまして、自前の首を作りました。戦後の文楽人形づくりを一手に担ってきた人形師・大江巳之助(おおえみのすけ)さんに制作を頼みまして、完成までに2年半かかりました。特に、胴串(どぐしー首の握りの部分)は、手になじむように微妙な調整をしています。

女形は、とにかく力を入れないように遣っています。師匠には「手首から先の力をぜんぶ抜け!」と無茶もいわれましたが、実際その通りで、角のない動きをするには、首(かしら)を支えるため以外の力を抜くことが大切です。それから、人形の腰の位置がぶれないようにしっかりと支えます。腰の位置が動くと、人形の姿勢が崩れてしまいます。

『ひらかな盛衰記』の腰元千鳥(こしもとちどり)の人形を遣う桐竹勘十郎さん

人形を遣っていて、「何で今日はうまく動いてくれないのか」と感じることが時々あります。そんなときは、人形遣いがどこかで楽をしているときですね。自分がしんどいときにこそ、人形が美しく見える、そんな気がしますね。

精緻で複雑な人形の表現を、簡潔で分かりやすい言葉で語っていく勘十郎さんのお話しは、長年の経験による裏打ちと日々の工夫の厚みを感じさせ、参加の方からもたくさんの質問が出る熱のこもった「集い」となりました。
あぜくら会では、今後もこのような会員限定イベントを随時企画していきます。皆様のご参加をお待ちしております。