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【7月文楽素浄瑠璃の会】解説書の一部を無料先行公開!(作品解説『紙子仕立両面鑑』)
読む・知る・聴く――素浄瑠璃の魅力をより深く楽しむ

大阪・国立文楽劇場では、7月4日(土)に「文楽素浄瑠璃の会」を開催いたします。
義太夫節の名曲・大曲・稀曲を取り上げ、太夫と三味線の芸を、心ゆくまでご堪能いただける公演です。
文楽公演では人形とともに演奏される義太夫節ですが、当公演は語りと三味線そのものに没入できる場として、高い評価を得ています。
このたび、当日有料で販売する解説書の中より、現在では上演機会の少ない稀曲『紙子仕立両面鑑』の作品解説・あらすじを特別に無料で先行公開いたします。
はじめての方も物語の流れを押さえることで、語りと三味線が描き出す世界を一層味わい深くお楽しみいただけます。
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筆者=久堀裕朗(大阪公立大学大学院文学研究科教授)
■作品解説『紙子仕立両面鑑』
大文字屋の段
『紙子仕立両面鑑』は明和五年(一七六八)十二月、大坂北堀江市之側芝居(豊竹此吉座)初演、菅専助作の世話物で、外題の角書きに「助六/揚巻」とあるように、助六物の一作品です。「助六」というと、市川團十郎家の歌舞伎十八番を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、助六物のもとになっているのは、もともと上方で起こった心中事件(実説の詳細は未詳)で、本作もまた、その事件を題材とする作品の一つです。直接には、並木丈輔作・並木宗輔添削、享保二十年(一七三五)『万屋助六二代*がみこ (*ころもへんに氏と巾)』を先行作として成立しました。
タイトルは、助六が紙子を与えられて勘当を受けることや、助六に操を尽くす貞女の鑑とも言うべき二人(両面)の女性(お松・揚巻)の存在を踏まえたものです。紙子とは、紙で作られた安価な防寒着のことで、零落の象徴でもあり、助六劇に付き物のアイテムとなっていました。
本作は、上・中・下三巻構成で、「大文字屋」は中之巻の切場に当たります。上演史をたどると、主に、助六が勘当される上之巻の「新清水」と、この「大文字屋」が伝承され、昭和以降は専ら「大文字屋」だけが上演されるようになりました。もっとも全体に上演機会は少なく、国立文楽劇場でも、平成十五年(二〇〇三)四月公演以降、上演されていません。やや地味な演目で、うまく人情の機微を語り活かさないと、「詞 (ことば)」(節が付かない語り)も長く単調になりがちで、聴衆を引きつけるのが難しいからかもしれません。
しかし、明治時代には、竹本摂津大掾(一八三六~一九一七)が「お松と言へど色変はる」と語ると、「満場水を打たように」静まり返ったといい(『浄瑠璃素人講釈』)、また五代竹本住太夫(一八四七~一九〇九)が語った栄三郎や助右衛門の長ゼリフは、「其間些 (すこし)もダレず幾度か見物を泣した」と評されています(『浄瑠璃雑誌』五十号)。優れた芸によって真価を発揮する、演者の力量が問われる演目と言えるでしょうか。
「大文字屋の段」の舞台となるのは、大坂本町筋、木綿を商う大文字屋。助六の妻お松の実家です。助六は親の助右衛門に勘当され、妻のお松は夫不在の中、舅によって実家に遣わされます。「舅去り」(夫に代わって舅が嫁に申し渡す離縁)が本段の一つのキーワードかと思いますが、お松が実家に戻って来てから、後に舅助右衛門もやってきて、その真意が明らかになるまでのドラマが展開していきます。
本段は大きく三つのパートに分けることができるでしょう。最初は、冒頭のマクラから、実家に戻されたお松と兄栄三郎のやりとり、そして母妙三も加わった愁嘆(三人の泣き) まで。この部分は、栄三郎がお松に身売りを迫るやりとりが中心になります。先述の通り、栄三郎の長ゼリフは「詞」中心に進みますが、一方のお松のセリフは「地合 (じあい)」(節の付いた語り)中心に進行します。廓勤めを承諾する「よう勤めさしてくださんす、兄さま嬉しい忝い」以下は、お松のいじらしさが胸に染み入るクドキです。そして、妙三も加わる「落滝津瀬に春雨のなほ降りかゝる、ごとくなり」の愁嘆も、三者三様の泣きが表現され、一つの聴きどころとなっています。
二つ目は、助右衛門の登場から、お松を「縁切つて戻します」という「舅去り」の言葉、さらに「去り状」の正体が明らかになり、悲嘆に沈んでいた親子三人が、今度は「忝涙」を流すまでです。ここでは、「去り状」が実は揚巻の「年季証文」であったと判明する意外性を軸に、老父助右衛門の先代への義理、そして妙三・栄三郎・お松の﹁親子三人の志﹂への感謝の情が、ドラマの中心となっています。
最後は、万屋の番頭伝九郎と大文字屋の手代権八という悪党二人が、お松の拉致に失敗する一種のチャリ場です。ここまでとはがらりと気分を変え、滑稽味を交えながら段切に至ります。絵尽にも描かれているように、最後に権八が、八方行灯(天井の梁などに吊るす平たい大型の行灯)の縄で吊り上げられ、「宙にぶらぶら」となるところがいかにも滑稽です。
以上、現在では稀曲となっていますが、聴きどころの多い世話物の佳作です。ただし、切場だけをいきなり聴くと、人物関係や事情がつかみにくいところもありますので、あらかじめ大まかな内容を押さえておくと、より味わいやすいでしょう。
▼あらすじはこちら
当日500円でお求めいただける解説書には、その他の演目の作品解説・あらすじに加え、上演台本である「床本」も収録しております。
ご鑑賞後に読み返すことで、舞台の感動をより長く心に留めてお楽しみになれます。ぜひお求めください。
文楽素浄瑠璃の会
7月4日(土)
午後1時開演
チケット好評販売中!
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