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鶴澤寛太郎編(その5)
鶴澤寛太郎編(その4)よりつづく
いとう楽しみですね。次の人のことを今、きちんと考えてる。そういう、教えるような立場になっていて、何人か教えてるんですか?
寛太郎あ、いえ、全然。ピンチヒッターで研修の授業にちょっと入る程度で、あとは、一緒に舞台出ている子に「ここはこうした方がいいよ」って伝えるくらいです。弾き方の基礎から教える、みたいなことはないですね。
いとうでも将来は、そういうふうにはなっていかざるを得ない。
寛太郎そうですね、誰かがやるわけで。
いとう誰かを教えて、誰かが教わるっていう。
寛太郎自ずとキャリアと年齢がいけば、ノウハウがなかろうが、やりたくなかろうが、やらないといけない。
いとういけない。それが今のそういう形でやっていれば、それこそ再現性がものすごく高くなって、そして早いよね。
寛太郎はい。今の子を見てると、教科書がないとか、基準になるものがないっていうのがすごく不安そうだなと思ったんですよ。気持ちは僕もわかるんです、祖父の稽古を受けてたから。だから、そういうのがちょっとあるだけでも、いいんちゃうかな。特に現代の子には、
いとううん。それは素晴らしいです。
寛太郎いやいやいや。
いとう昔のままではもはや伝わらないだろうと、外から見ても思ってはいたんで。
いとうこの後、自分で持って行きたいゾーンっていうのはもう、イメージとしてあるわけですか?
寛太郎うーん。まあ、かなり漠然とはしていますけど……自分にどういう演目が向いてるとか、どういう三味線弾きになりそうとかはちょっとよくわからないですけど、でもやっぱり祖父の芸に憧れて、この世界に入ったんで。
いとううんうん。
寛太郎祖父みたいな艶っぽい音を出したいなとか、柔らかく弾けたらいいなあとか思う部分もありつつ、テープを聴いていると、曾祖父のガッチリとして、大きくて重い、そんな部分に惹かれたりもします。
いとうああ、ドーンって来るやつね。
寛太郎調子すんごい低いんですよ。
いとうあ、そうなんだ。
寛太郎僕が弾いたら、共鳴が少なすぎて音がほとんど聞こえないだろうなっていうような調弦で。ズドーンて弾いてるんですよね。
いとううわ、まさにブルースじゃないの。
寛太郎そうなんです。もちろん技術も違う、してきた修業も違うし、道具も違うから、完璧に再現はできないにしても、それも1つの憧れです。
いとうそうだよね。
寛太郎それで、今の師匠みたいにカッチリと言葉にされているのもすごく現代的で、そういう全然色の違う人たちから勉強できるのなら、全部吸収はしたいなと。
いとううんうん。
寛太郎それができれば多分、得意不得意とかなくなって、大体全部の演目をやれると思うんですよ。あと、実は道具が今本当に危機的で……
いとうああ、撥も弦もってことですか?
寛太郎そうですね。調達すること自体もそうですし、調達できたとしても質の問題もそうですし。三味線っていうのはすごく消耗する楽器なんで、修繕とか、皮の張り替えも新調と言うなら、新調を繰り返していかないといけないものなんです。材料だけの問題ではなくて、職人さんも減ってかなり厳しいんですよ。この危機感が外部には全く伝わっていないと思っています。
いとううーん。
寛太郎なおかつ、皮自体の質が変わって、それとともに職人さんの感覚も変わっているような気がして……僕らも何もできない、みたいなところもあります。
いとうはあ、そうなんだ。
寛太郎実際に近年は、(三味線の音が)鳴る人ほど、「鳴らない、鳴らない」と悩んでるんです。そんなことも考えると本当に危機的で。始めの話に戻って、表現を突き詰めていくためには、まずは道具を含めた環境が整っていることが大前提になるんで、さっきの体の使い方同様、きちんと解明したいなと。
いとうそういう道具がなくならずに入ってくるようなルートを、きちんと我々は文化のために持ちましょうって、周りの人が言ってかないといけないっていうことですよね。
寛太郎そうですね。文化庁もアンケートを取ってくれるんです。僕は、バラエティ番組初出演の若手芸人さんみたいにみちみちに、びっしり書くんですよ(笑)。
いとうああ、エピソードトークみたいな感じでね(笑)。
寛太郎はい。だけど、やっぱりそれだけでは何も進まないっていうのも事実です。で、つい最近、文楽協会とか(日本芸術文化)振興会が立ち上がるときの歴史を調べてみたんです。個人的に。
いとううん。
寛太郎歴史を辿ってみたら、義太夫三味線の職人を養成しなきゃいけないってその時から書いているんですよ。
いとううーん。
寛太郎だけど半世紀経っても達成はされないし、多分この後も難しいと思うんです。本当に三味線の職人さんも後継者がいない。だから、危機感を持っている人間がやらないとしゃあないなと、今は考えています。
いとうなるほどねえ。
寛太郎我々が職人さんを育てるわけにはいかないし、僕らも職人さんが十分食べていけるだけの仕事を発注できないのであれですけれども、例えば、数値とかデータだけでも残しておけば。
いとうああ、そうか。
寛太郎あるいは、そのデータを使って代替品ができれば、
いとうたとえ皮が違っても、
寛太郎はい。例えばですけど、職人さんがゼロになるようなことがあっても、データがあればそれを復活の糸口にできる可能性もあるんじゃないかっていうことを考えて、今少しずつ動いている感じです。
いとうえ、どういうふうに動いてるの? 大学の研究室みたいな人に頼むとか?
寛太郎まだまだ個人で動いてる範囲ですね。スペインで世界各地の文化財のデジタル記録と復元を手がけている財団があるのですが、仲介者を通じてコンタクトを取ったところ、興味を示してくれていて話を進めているところです。
いとうああ、あのスパニッシュギターの激しい感じとかね、ちょっと似てるとかあるかもしれないしね。
寛太郎そうですね。その財団はストラディバリウスのデータの測定経験もあるらしくて。
いとうへえ。
寛太郎そこと組んで、まずはいろんなデータを取ってもらいたいなと。ただ、実現には当然資金が必要で、それも探しているというような状態です。
いとううんうん。
寛太郎三味線に必要な要素ってなんなのか。例えば皮の厚さが大事なのか、撥の材質はどれほど音に影響しているのか、三味線の構造、こういう角度で作って……、みたいなことの方が大事なのか。
いとううんうん。
寛太郎そこをはっきりとさせて、必要な部分を抽出するっていう意味でも、データは大事かなと。
いとう音響学的にね。
寛太郎そうですね。
いとう知っておかなければならない。あと、なんでサワリはここまで響くんだっていうこととかも、そうですよね。
*サワリ……一の糸を弾いた時に生じる共鳴音。また、二や三の糸を弾いた際に一の糸が共鳴して発生する音のこと。
寛太郎そうですね、サワリって、無闇につけたからいいっていうわけでもなくて、ちょうど良いところがあって、その「ちょうど」というのは、何をもって僕らはちょうどと思っているんだろうとかも、よくわからないですし。
いとうそうだよね。
寛太郎あとは文楽全体で言えば、かしらもそうですよね。新しいものが必要になれば、技術室の職人さんが新しく作っていらっしゃいますけど、じゃあそれを量産できるかっていうと難しいわけで、
いとうそうそう。
寛太郎そういう職人さんがいっぱいいるかっていうと、そうでもないし。せめて数値だけでもあればとか、何かしら目に見えて形に残ってるものがあれば、色々とやりようはあるんじゃないかなあと思う部分もあるんです。楽器の話に戻ると、三味線の皮は、人工皮革の研究がされてます。
いとうあ、そうなんだ。
寛太郎まだ舞台で使えるようなレベルではないらしいですけど。もし、皮の繊維の質が大事なんであれば、一緒にやれるところと組んで、「こういう繊維がいいです」っていうことも言えるでしょうし。厚み、強度の問題なら、それに対応したデータを残せればと。
いとううん。
寛太郎そうすれば、うちだけじゃなくて、よその業界にも使っていただけるんじゃないかなあと思ったり。「国が何もやってくれない」とか「どうしたらいいかわからない」って言ってても……。
いとうしょうがないんでね。
寛太郎そうなんです。時間ばっかり経っちゃって。
いとう先細っちゃうもんね。
寛太郎はい。どこかで自分たちが動いて、手を打たないと難しいよなあ、でも、お金と時間がないな、みたいな感じです。
いとうそっかあ、そうだよね。
寛太郎そんなところで悩みながら、ほんとに少しずつ、です。
いとううーん。それは周りの人たちの力もいっぱい借りながらやらないといけないと思うし、僕らだって、そういうことに役に立てればって思う人はいっぱいいるだろうから。
寛太郎はい。一人じゃ無理なんで。
いとううーん。
寛太郎会社なのか法人なのかよくわかんないですけど、団体を作って、たくさんの人たちも巻き込んでやらないと、僕個人では無理だなと思っています。部分的にでも協力してくれる人たちに、志を話して、集めて、動かしていけないかなあというところなんですけど。いずれ振興会にも協力してほしいと思っています。
いとう素晴らしいです。ていうか、もうそういう未来がね、先細っていってしまう儚さみたいなものを共有しないといけないなって思いますよね、やっぱりね。
寛太郎当事者としては、漠然と怖いってこともあります。値段もどんどん上がってきちゃってるんで。
いとうあ、そうなんだ、やっぱり。
寛太郎かなり厳しいですね。僕が入った時、25年前とは言わず、正規契約した18歳から考えると、今で20年ぐらいになるんですけど、
いとううんうん。
寛太郎20年前と比べても、大体の道具は、良くて1.5倍、悪いと3倍ぐらいに値上がりしてます。
いとううわ、まじか。
寛太郎3倍出して、それでも手に入るならまだいいんですけど、手に入らないものが出てきているとなると、これ消耗品やのに大事に使わなあかんのかなとか思っちゃいますよね。
いとうそうすると弾き方が変わってきちゃうもんね。
寛太郎そうなんですよね。すごく困ってて。もちろん、職人さんが仕入れる材料自体が値上がりしているので、いくらですって言われたら当然払うしかないです。そもそもの需要も少ないので、どこかでそれを適正なバランスに持っていかないと……。
いとうそうだね。
寛太郎だからチキンレースです。道具や材料がなくなるのが先か、職人がおらんようになるのが先か、演者がおらんようになるのが先かみたいな。
いとう本当だね。怖いね。
寛太郎水面下で危機が進行していることが、ある意味一番怖いことなんですよね。でも、もしすごく素早く物事が動いて、今いる先輩たちにも良い材料や技術を提供できれば、三味線弾き全体でもう一段上の花を咲かせられる気もしてます。
いとうよし、法人作ろう(笑)。それしかないよ、まずは。で、もうみんなにまずとにかく正直に訴えるっていうことがまず大事で。人々の心を動かしてっていうのは、だって、浄瑠璃がやってきたことじゃないですか。
寛太郎そう、そうですね。
いとうそれを今こそ、社会に対して使うときが来たんじゃない?
寛太郎はい。そうかもしれません(笑)。
いとううん。「クドキ」だよ(笑)。
寛太郎あはは(笑)。物語って、口説いて。
いとう僕も小さな力ですけども、手伝わせていただきますので、どうぞ突き進んでください。
寛太郎ありがとうございます。よろしくお願いします。
いとうこちらこそです。ありがとうございました。
(了)
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