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吉田簑紫郎編(その5)
吉田簑紫郎編(その4)よりつづく
いとうそんな形で、簑紫郎プレゼンツなことができるシアターをもう自分で作るしかないじゃないですか?
簑紫郎うーん、それは大変でしょ、これ(笑)。
いとういやそうでしょ、そうでしょうけど(笑)。こっちはもう勝手なこと言ってんだけど。
簑紫郎まあでも、そういうチャレンジする意識とか、役に対する意識は後輩に持ってほしいですよね。まだ僕もこれから修業がずっと続いていく身分ですけど。
いとううん。
簑紫郎若い人には、「急にこういう役来るで」っていう実感をもっと持ってほしいなって。実は年に1回、そういう企画を、配役から何から僕がやらせてもらう企画をやってます。
いとうあ、そうなんですね。それはどこでやってるやつなんですか?
簑紫郎フェニーチェ堺です。いい劇場があるんですよ。今年も10月にやるんですけど、後輩たちも毎年楽しみにしてくれてると思うし、そこでちょっと大きな役が来る、こんな役が急に来んねや、うかうかしてられへんなっていう、
いとうそうか、だから勉強しとこうっていう気持ちになるっていう。
簑紫郎そうです。舞台の見方が変わってくると思うんですよ。
いとううんうん。
簑紫郎足だけやっていたら、舞台の何を勉強したらいいかも分からへんのですよ。
いとうそうか、なるほど。
簑紫郎だから、主遣いやった時に「足もうちょっと、こうやってやってくれたら動きやすいのにな」とか、「左こうやってくれたら動きやすいな」とか、そういうのを勉強してもらえたら、次、自分が足遣い、左遣いやる時のためになると思うんです。あとやっぱり、「俺、人形遣いなんや」っていう実感が湧くっていうことがすごい大事なことで、それでまた舞台の見え方が、景色が変わってくるんじゃないかなと。
いとううん。でもそれだけじゃ満足しないでしょ。もうこの愚痴がなくなるってことはないでしょ?(笑)
簑紫郎ないですね(笑)。
いとうとはいえ、どうにかしてあげたいなとは思っても、どうにもしてあげられない。
簑紫郎まあなんか自分でもこういうことしたいなとか、考えていることはありますけどね。
いとううん。
簑紫郎例えば、飲みに行く友達で、ゲイの友達も多いんですよ。みんな文化意識というか、いわゆる感度が高い人たちで、芝居、バレエとかも好きなんですよね。
いとううん。
簑紫郎で、話の中で、「簑さんさあ、男同士の心中物とかってどう?」みたいなことを言われたことがあるんです。
いとうあー、それはあり得ますよねー。
簑紫郎それね、先に役者さんとか、他の芝居でやられたくないから、SNSで写真撮って出しちゃったんです。Coming soonみたいな。
いとうあははは。やりもしないのに(笑)。
簑紫郎今はまだ。でも、手つけられたら、こっちが先に発案してたっていう(笑)。
いとうしかもやっぱり、女方を遣える人形遣いが、それ遣った時のリアリティが違うから。いわゆる人間同士が動いてる芝居だったら、ゲイの芝居はいくらでもあったと思う。でも人形ではこれ、ないんじゃないですか?
簑紫郎ないと思うんで、ちょっと男同士がこう、背中合わせで、近づきそうなんだけど距離が……みたいな写真をこう、バッと撮ってSNSに出しました。「簑さん、本当にやるの?」って言われたんですけど(笑)、誰に書いてもらおうかなと、それをね。
いとうもうね、それ言っときゃ誰かが書きますって、うん。
簑紫郎だから三浦しをんさんとか、色々考えたりしてるんですけど……。
いとうそうね、うん、あるかもね。
簑紫郎自分のイメージとこう、こうはまるような人に書いていただきたいなと。どうですか?
いとういや、まあまあ、そういう目で見てきてるなと思ったんだよね(笑)。やべえな、やべえなと思ってるけど(笑)、いやでも魅力的な話ですよ。
簑紫郎まあ、最初は道行だけやるとか。
いとうああ、うんうん、そうなると思う。
簑紫郎きれいなものとして、道行をやりたいなとか、色んなアイデアっていうのが出てきたりするんですよ。ちょこっと、この役の好きなところを抜粋して、コンテンポラリー的なものにしてみるとか。今、来年にできそうな企画を1つ考えてるんですけど、『関寺小町』の改作として『お夏狂乱』を参考に取り入れて、エピローグで『鷺娘』を見せるみたいな。過去、1回ピアニストの人と(「関寺」を)やってみたことがあるんですよ。でも、今回はエピローグの前に『お夏狂乱』を入れて、「関寺」につなげていくという感じです。
いとう「お夏清十郎」、いいですねー。
簑紫郎ある意味、ちょっと無理やりつなげて、言葉なしで音だけで抽象的に流して見せれたらいいかなっていう。
いとう心中物の一番の、なんて言うか、芯のところって感じがしていいですね。それで、簑紫郎さんが、かさねやお夏を演じる時に、ああいうふうに女性を演じる、遣っている時ってどういうところが一番の注意点なんですか?
簑紫郎なんやろ……その性の境界線を取っ払うってことですかね。例えば「梅川忠兵衛」、どっちもやりたいです。梅川やる時は、もうほんまに一言で言ったら「恋は盲目」で、究極の愛がもう死っていう、もう多分それだけです。
いとううんうん。
簑紫郎ただもう忠兵衛が、もう大好きで大好きで、
いとう好きで好きでしょうがないと、一緒になりたいけど、なれないんだったら死ぬと。
簑紫郎死ぬ方がいい。そこですよね。
いとう「死ぬのがいいわ」ですよね、藤井風的に言うと。
簑紫郎逆も同じだと思います。忠兵衛から見ても。
いとううーん、それは変わらないと、
簑紫郎変わらないと思います。はい。
いとうでもまあ、動きは全然違う動きだから、
簑紫郎変わってきますよね。寄り添い方なんかは特にじゃないですか。この間の『曾根崎心中』でも、徳兵衛とどんどん近づいて体が合わさった時に、もう全てをもう預けるっていう形で、
いとう委ねる形だ。
簑紫郎徳兵衛の胸に、お初は頭をこう預けるっていう。
いとううんうん。
簑紫郎もう全部そこに向けて、そこが着地点っていう感じですよね。僕が少なくとも、あれをやらしてもらう時は、そこを大事にしています。
いとうそうなんだ。
簑紫郎それがね、面白いのが、あれは玉助兄さんに教えてもらったんです。
いとう僕も入らせてもらっているあの企画では、玉助さんとずっとコンビですよね。
簑紫郎立役の人から「こう来てほしい」って教わるのも、すごく勉強になるんですよ。あの形は、僕はあまり意識したことなかったなって。
いとう委ねるっていうことですね?
簑紫郎そう。これ、僕はすごい得したなって。だから、絶対教えたくないなって。
いとうあははは(笑)。そうですよね、これは載せない方がほんとはいいんでしょうけどね。残念ながら載せます、これ(笑)。載せると別分野の人間の得にもなりますからね(笑)。
簑紫郎そういう、ほんまにちょっとした違いやと思うんですよ。なんか違うなって。
いとううんうん。
簑紫郎それはもう文楽に限らず、歌舞伎でもそうじゃないですか。「もう玉三郎さん、すごい、全然ちゃうなと」とか。『かさね』やった時も、鳴物が「ドロドロドロドロ」ってなる時の形、「なんか違う。あ、玉三郎さん逆やわ」って。右近さんとも「こっちだ」とか言ったんですけど。
いとうあー、右左がですか?
簑紫郎そうなんです。藤間の御宗家とも話してたら、「そこなんですよ、簑紫郎さん」言うて。何目線やねんて思われるかもしれないけど、御宗家はすごいなと思いましたね。
いとう工夫が違うんですね。
簑紫郎違う。全然違います。
いとうでもそれも性根から出てきた、なんかなんでしょうからね。
簑紫郎なんかあるんですよ。髪を捌く時も、きっとそのやり方がもう違うんですよ。捌き方が……。
いとうこれ、どうやって伝えればいいかも分からないけど(笑)、違うんですね、動きが。
簑紫郎なんでもないところが全然違う。だから映像でも1回2回観てスルーしてたところが、何回も見ることで、「ここやん」って。もう文楽はその発見の連続です。
いとうそういう意味じゃ、国立劇場がアーカイブ持っててくれてることはもう、助かる。
簑紫郎助かります。ほんとにもう、それがないと僕なんにも引き出しないです。
いとうっていうか、一番の引き出しは、やっぱり過去の名人たちのやってたことってことになりますもんね。
簑紫郎それをそばで見てこさしてもらって、そういうことに気づく目を作ってもらえたっていうのは、やっぱり足の修業を長くさせてもらえた分なのかなと思います。それで今の自分があるかなって。逆にそう言わんと、そう思わんとやってられない。俺の20年返せってなりますけど(笑)、それ言ったらおしまいでしょ?
いとううんうん。今から言っても、もうしょうがないからね。明日の公演(『遠野物語』を語る)もこれからお稽古でしょ?この間もボソボソって「大変だ」みたいなことを廊下で言いながら歩いてきた。
簑紫郎言ってました?
いとううん、なんで俺に言うんだろうなと思った(笑)。やっぱり、今、新しく作んなきゃいけないっていうのは、過去に参照例がない場合は非常に難しいんですね?
簑紫郎試されるのが一番そこやなと思うんですよ。今まで無かったものをどう組み立てられるのか、自分にそのスキルがあるかっていうことですよね。
いとううん。
簑紫郎『かさね』やらしてもらった時もそうやったし、今回もそうですし、違うジャンルの人とコラボする時も、「どれだけ自分は作れるかな」っていうのを意識しますよね。この35年以上修業をやってきた中でね。なぞるのって誰でもできると思うんですよ、上手い下手関係なく。そうじゃなくて、作るっていうことを経験しないと、僕は自分に納得いかないです。っていうのは、やっぱりお師匠はん方は映像がない時にそれ、やってきたわけじゃないですか。
いとうあー、なるほどなるほど。そうですね。
簑紫郎それがあるからやっぱ名人なんじゃないかなと。先代玉男師匠、うちの師匠、文雀師匠、もっと上なら先代勘十郎師匠、紋十郎師匠とかですよね。だから、作るっていうことができない限りはほんまもんじゃないなって思ってます。
いとうなるほど。そうか、そうですよね。映像観てないのにやれてたんですもんね。
簑紫郎そう。
いとうそこから作ったんですもんね。
簑紫郎そういうふうに自分で何かを作れるっていうことができないと、自分はほんまもんじゃないっていう意識がやっぱすごい強いから、だからそういう意味では、いい経験はさしていただいてるなって、そういうお仕事をいただけてるなって。
いとうもう作っていくしかないじゃないですか、じゃあ。
簑紫郎そう、作ります。
いとううん。それを見てますけど、こっちは(笑)。できることがあれば、もちろんやらせていただきます。全体の文楽のことをそういう視線で見てらっしゃる方は、そんなにいないと思いますので、なんかこう、お役に立てることがあればと。今後も一つよろしくお願いします。
簑紫郎ほんとに、ほんとによろしくお願いします。
いとうあははは。真剣な目が怖いよ(笑)。
(了)
5月文楽公演は5月25日(月)まで!
(休演日:18日(月))
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