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吉田簑紫郎編(その1)
いとう今日はよろしくお願いします。
簑紫郎よろしくお願いします。もうなんかちょっと性格ひん曲がってきてるんで、変なこと言いそうで怖いですよ(笑)。
いとうえ、そうなんですか? 何が原因で?
簑紫郎お蔭様で番付でも太字に上がらせてもらって、でも文楽の未来を思うと、どうにかしたいことも色々あるんですけど。
いとううんうん。
簑紫郎僕、13歳で入門して、その時は先代玉男師匠、僕の師匠の簑助、文雀師匠といった方々がいて、もちろん人形だけでなく名人がいっぱいおられた時代を経験してきましたし、その頃に比べて出来る芝居、演目も少なくなってるんちゃうかなって思います、ほんまに。
いとうあー、限られてきてるってことですか。
簑紫郎限られてきます、やれる演目が。
いとうもっと違うのがあったわけですよね? ちょっと妙なやつとか。
簑紫郎そうなんですよ。通し狂言だってあまりやらないですよね、何回かに分けてやったりはしてますけど。通しで出来なくなる演目も出てくると思いますよ。
いとうそれは何が原因で?
簑紫郎第一に国立劇場が閉まってますよね。それと、三業それぞれの人数とか、そういう状況もありますよね。
いとう誰々がこの役なら、あの役は誰が……みたいな? バランスを取れる層の厚さの問題とかも。
簑紫郎そんなこともあるんじゃないかなって。
いとう出だしから、話が核心に(笑)。この間、どこかで簑紫郎さんの記事を見て、やっぱり何かに噛みついてましたね(笑)
簑紫郎噛みついてる感あったでしょ(笑)。
いとう「あ、噛みついてんな」って思った(笑)。
簑紫郎何十年やってる先輩でも、やっぱり舞台をやるからにはライバルやと思ってるんで。
いとううんうん。
簑紫郎だって、上の人たちが、今の自分と同じキャリアの時に、こんなことやってたって思ったら、焦るしかないじゃないですか。
いとうそれはそうですよね。
簑紫郎じゃあどうするかって言ったら、環境は自分の力では変えられへんから、公演ない時でも常に映像を観たりとかしてます。
いとう自分を高めていくしかないじゃないかと。
簑紫郎そうです。
いとうそれは、たとえば太夫でもそういう気持ちの人はいて、まあ自分でやってる人はやってるんじゃないですか。
簑紫郎じゃないですかね。太夫でも三味線でも人形でも、経験を踏まん限りは……。本公演で大きい役、重い人形なんかを持ち慣れてないと、これから10年やって、60歳くらいで急にバーンと大役がまわってきたら、一気に肩壊しますもん。
いとうあ、そうか、人形遣いの場合は実際に肩が壊れる。
簑紫郎今だって、肩壊れたりしますもん。
いとうそのぐらい物理的にも重い。
簑紫郎そこまでに引き算の修業をしていないといけないっていう。
いとう引き算の修業ってのは、どういうことですか?
簑紫郎例えば、ずーっと力を入れっぱなしだと持たれへんので、どこで力を抜くか。
いとうあーなるほど。
簑紫郎それでいて、ここぞという時にどう感情を噴出させる、出していくか。そのポイントっていうのを経験して覚えていく。
いとううんうん。それはやっぱり、お客さんの前じゃないと分からないことがあるってことですか?
簑紫郎実際に持たない限りは難しいです。常に人形があるわけじゃないので。
いとうああ、そうか。
簑紫郎そうなんですよ。だから、こんな感じの重量やろうなっていうことを想定して、ですね。舞台も観てると、「あ、ここ今休んではるな」とかが分かる。
いとうほー。
簑紫郎師匠の左とか行ってる時でも、「あ、今、胴串、持ち替えてるな」とかね。
いとうえー。
簑紫郎胴串もずっと握ってると思うじゃないですか。でも、小道具の介錯している時とかに、例えば先代玉男師匠なんかが遣ってる人形の脇から中が見える時があるんですよ。
いとうああ、中が見えるんだ。
簑紫郎もうこんな感じで、手の平に胴串を置いてる感じで。
いとうもはや握ってないってことですね。
簑紫郎そうですね。「あ、こうやって力抜いてんねんな」っていうことが分かる。そんなんもいきなりやったら絶対失敗すると思う。
いとう何回もやってるからできるんだと。
簑紫郎そうです。
いとうお客さんからも分からないし、人形の口が開いたりもしないでそうやって使えるんだ。
簑紫郎でも、やっぱりちゃんと性根が入っていて、かしらの角度なんかもいい具合になったままなんです。それをいきなり僕ら真似しようと思っても、絶対失敗するんで。それは何十年やってできる持ち方なのかなと。
いとうそしたら、公演をもう独自に増やしていくしかないってことですかね? 国立劇場とか文楽劇場の公演はもう数が決まっちゃってますよね。
簑紫郎たった1年で1公演だけでもいいんですけど、それか、例えば1公演が3部制なら、そのどこか1部だけでいいんで、ベテランの人が脇で受けて、僕ら中堅を抜擢してくれるチャンスがあればありがたいです。
いとううんうん。
簑紫郎簑助師匠は引退するまで、最後までそれを考えていらっしゃって。僕なんかもリレーで、桜丸みたいな大きな役をさしていただいたんですよ。動きがあって体力いる場面は、もう簑紫郎がやれっていう、そういう配役だったこともあります。だから師匠は、やっぱり文楽を愛していて、将来のことを考えて、この役はもうこいつにやらすみたいなことだったのかなと。
いとうそれは人形、だけのことですか? 太夫とか三味線の世界もそうなってます?
簑紫郎うーん、どうなんですかね……でも、例えば同世代で織太夫さんなんかはもう切場ぐらいを語ってますしね。
いとうやってますね。
簑紫郎まあ清志郎君なんかも同世代ですけど、やっぱり重要なところを弾いたりとか。
いとううん。じゃあ人形まずいじゃないですか。
簑紫郎まずいですよ。
簑紫郎なんて言うか、お客さんだって、時にはいつもと違う配役で、若手が挑んでるような舞台も観たいんやないかと思うんですよね。自分がお客さんの立場なら観たい。
いとうあー。そうですよね、そもそも、古典芸能の面白いところは、お客が一緒に、この人いいなと思う人と育っていくっていうことですもんね。
簑紫郎そうです。それと、誤解を恐れずに言うと、お客さんも……、
いとうなんでも褒めてくれる(笑)?
簑紫郎そう。
いとう「あそこ違うなあ」って言ってくれるようなお客さんは、少なくなってる。
簑紫郎「せっかく褒めてくれてるんやけど……」っていう。
いとうすごいなー。
簑紫郎むちゃくちゃ言うてるでしょ(笑)。
いとういやいや。むちゃくちゃ言えるのがね、俺は文楽はすごいなと思います。実力主義の世界だし。これ歌舞伎だったらここまで公に言えないかも。
簑紫郎でも歌舞伎も花形歌舞伎みたいな感じで盛り上げるじゃないですか。
いとうまあプロデュース的に上手いから。
簑紫郎そう、上手いことやってるから、
いとう若手をすごくいい配役にして鍛えて、そうやって育ててるっていうことは確かにある。
簑紫郎そうですね。この前も(中村)壱太郎さんと(尾上)右近さんと『曽根崎心中物語』やったりとか。ああいうのを見たお客さんが、本公演にも来るようになるわけじゃないですか。
いとうああ、そうですよね。
簑紫郎文楽もそんな感じでやっていっていいと思うんですけどね。
いとう簑紫郎さんはもう、若い時からその調子?
簑紫郎この調子ですね。なんで僕、20代の頃から何十回、何百回も文楽やめようって思ってました。それでも、だらだら50歳超えてやってますけど。
いとうだらだらじゃないと思うけど。で、話戻りますけど、13歳でこの世界に入って、
簑紫郎入りました。
いとうそれは文楽をどこかで観たからですよね?
簑紫郎そうです。
いとう何歳で観てるんですか?
簑紫郎10歳の時に観たんですよ。
いとう10歳、小4ですね。
簑紫郎テレビで観ました。
いとうテレビで観た。じゃあ、NHKの教育テレビかなんかでちゃんと長く放送するやつだ。
簑紫郎なんかチャンネル変えたら文楽パッと出てきて、師匠が八重垣姫を遣ってるのを、
いとういきなり見たんだ。そして感じた。
簑紫郎これはどういうジャンルなのかなと。人形劇だけど、よくある人形劇って感じでもない。
いとうそういうのはだいたい人形の後ろから声が出てますからね。
簑紫郎そう。それがきっかけで人形に興味を持ちましたね。でも、最初仕組みとか、どっちかいうと作ったりとかする方に興味を持ったんです。
いとうあ、そうなんだ。でも興味持っても、調べようないじゃないですか、インターネットの時代じゃないんだから。
簑紫郎で、母親が近くにおったんで「これなに?」みたいな。そしたら「一遍、生で見てみるか」言うて。大阪での公演はしょっちゅう行くようになって、しまいには舞台稽古に潜り込んで(笑)。
いとうどうやったのよ(笑)。
簑紫郎ガードマンさんとこ行って、「稽古見させていただきまーす」みたいな感じで。
いとう「ええよ」ってなるんだよね。そこがいいですよね、特に大阪の文楽劇場は。
簑紫郎まあ、変わった少年やったと思うんですよ。
いとうもう目が違ったのかな。
簑紫郎うん。今思ったらね。
いとう見せてくださいって言うから、ガードマンも断る感じでもなく、
簑紫郎「はい、2階ね」みたいな。
いとう「行って行って」って感じだ。で、稽古も見ちゃって、それで「なんだこれ」と。
簑紫郎お客さん入ってないんで、人形が動いてる時の、カシャカシャって木のこすれ合う音が聴こえてすごく心地よかったんですよ。
いとうあー。フェチだね、もう。
簑紫郎そう、フェチです。
いとう人形フェチです、これ。
簑紫郎そう。ほんで、もう持ちたいってなって。
いとうすぐ持ちたいってなったんだ。すごいな。
簑紫郎で、中学入ってから、簑助師匠のところに「人形遣いになりたいです」って、
いとう言いに行って、
簑紫郎明日から楽屋に遊びに来ていいって言われました(笑)。
いとうもう明日からって言われたんですか。そういうふうに普通言われるもんなんですか?
簑紫郎普通かどうかわからないですけど、もう次の日から学生服のまま、放課後、大阪まで行きました。
吉田簑紫郎編(その2)へ(つづく)5月文楽公演は5月25日(月)まで!
(休演日:18日(月))
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