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文楽版「テンペスト」 『天変斯止嵐后晴』特別連載
Vol.3 「出演者のことば 作曲・鶴澤清治さん」

文楽の新しい試みとしての『天変斯止嵐后晴』

作曲を担当した鶴澤清治さん

 『天変斯止嵐后晴』の作曲を担当し、筑紫大領の息・春太郎と阿蘇左衛門の娘・美登里が森の中で出逢い、恋に落ちる「第四景 森の中」と、春太郎を連れ帰った美登里に阿蘇左衛門が十二年前の追放劇を物語る「第五景 元の窟の中」を、豊竹呂勢大夫さんとともに勤める文楽三味線弾き・鶴澤清治さん(人間国宝)にお話を聞きました。

 山田庄一先生の台本はしっかりとした義太夫の文章になっていたので、作曲は無理なくできました。
 場面が全部で七景にわかれていますが、物語はひと続きですから、この流れを切らずにスピーディーにテンポよく最後まで運んでいきたいですね。
 今回は山田先生も台本を再検討されて、台本も全体的にスピードアップしましたので、曲の方も改めて手直しをしました。

シェイクスピアの作品らしく、文楽にはなじみのない妖精が登場する場面があるのですが、今回は十七弦や半琴の音や今までにないリズムを使って妖精の雰囲気を表現する、といった新たな工夫にも挑戦してみます。
 また、初演の際には、序曲である「第一景 暴風雨」は演奏の録音を使用しましたが、今回は六挺の三味線と新たに十七弦を加え、総勢七人が舞台正面に並んで、迫力ある演奏で冒頭の激しい嵐を表現します。
 シェイクスピアの『テンペスト』が本来持っている味というのは翻訳している時点である程度は失われてしまうわけですし、原文の持っている香りを日本語で同じように出すというのは不可能ですよね。それは近松門左衛門を英訳すると、近松の文章の美しさを英語で再現するのが難しいのと同じことではないでしょうか。
 ですから、僕はシェイクスピアの『テンペスト』という物語の本質、それは言葉を超えたものだと思うのですが、山田先生がそれを抜き出して、新たに『天変斯止嵐后晴』として書き上げた新作を、いかに文楽の作品として作り上げていくかということが僕の使命だと思っています。
 シェイクスピアを題材にした新しい作品ですし、お客様がどのような反応をされるのか、今から楽しみにしています。

VOL.4では阿蘇左衛門藤則の人形を遣う吉田玉女さんが登場します。
次回は7月10日ごろの更新の予定です。