'

日本芸術文化振興会トップページ  > 国立劇場あぜくら会  > 特別連載Vol.2 「脚本・演出のことば 山田庄一さん」

トピックス

文楽版「テンペスト」『天変斯止嵐后晴』特別連載
Vol.2 「脚本・演出のことば 山田庄一さん」

シェイクスピア作品を文楽にするということ

脚本・演出を担当する山田庄一氏

『天変斯止嵐后晴』の脚本・演出を担当する山田庄一氏にお話を聞きました。

 私が「テンペスト」を文楽に脚色するにあたり、時代は中世、場所は南海の孤島という設定に置き換えました。
登場人物の名前は、プロスペローを阿蘇左衛門藤則、ファーディナンドを春太郎、ミランダを美登里、エアリエルを英理彦など、原作の名前を意識しながら付けました。
 シェイクスピアの原作は非常に哲学的な意味の強い作品で、非常に微妙な感情というものが作品の中心です。それをそのまま義太夫節で語ると、表現が非常に限定されてしまうということがあり、微妙な意味合いというものが表しにくいんです。
また、そういったものはやはりその土地で育った人でなければ本当に理解することができないと思えるんです。そのような思いもあって、私は最初から思想的なものはあまり入れないで、日本的な感覚で処理をしてみました。

 そして、文楽らしく物語の流れを追うように心がけました。時代物として脚色したので、立役には「物語」や女形には「クドキ」という見せ場も必要です。そこを意識して台本をつくっていきました。
今回は原作のエピローグにあるプロスペローの独白を新たにつけ加えます。演出する上で、この部分は面白いと思います。ここでは通常の文楽では見られない、舞台に一人だけ残った阿蘇左衛門がお客様に語りかけるような新しい演出も考えていますが、全体的にできるだけ古典に近い舞台となるように心がけて演出するつもりです。
 ぜひ『天変斯止嵐后晴』にご期待ください。

VOL.3では作曲を担当する鶴澤清治さんが登場します。
次回は6月28日ごろの更新の予定です。

脚色・演出◆山田庄一

大正14年(1925)大阪生まれ。幼い頃から歌舞伎や文楽の世界に親しむ。昭和41年(1966)、国立劇場の開場にあたり、創立メンバーとなり、文楽公演の制作を担当する。平成3年(1991)に定年退職。以後、歌舞伎・文楽の演出を多数手掛け、古典の復活上演や新作文楽のための台本制作にも取り組む。代表作には『西遊記』や三島由紀夫作『椿説弓張月』(脚色)がある。