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文楽版「テンペスト」 『天変斯止嵐后晴』特別連載
Vol.4 「出演者のことば 吉田玉女さん」

吉田玉女さん

阿蘇左衛門はひとつの世界を支配するようなスケールの大きな役

『天変斯止嵐后晴』で、筑紫大領と弟・刑部景隆の陰謀によって国を追われて南海の孤島に流れ着いた阿蘇左衛門の役を遣う人形遣い・吉田玉女さんにお話を聞きました。

 平成4年の初演の時には、私の師匠の吉田玉男が阿蘇左衛門を遣っておりますが、私はそのときは別な仕事が入っており、残念ながらその舞台を見ておりません。

 阿蘇左衛門という役は、シェイクスピアの原作のプロスペローにあたり、今回のお芝居では九州の元大名で、九州探題・筑紫大領と弟の刑部景隆の姦計によって、国を追われて、娘の美登里とともに南海の孤島に流れつき、そこで復讐の機会をうかがっているという人物です。

 今は台本を読みながらこの阿蘇左衛門という役についていろいろ考えているのですが、まず思い浮かんだのは、『菅原伝授手習鑑』天拝山の段の菅丞相や、『嬢景清八嶋日記』日向嶋の段の景清や、『平家女護島』鬼界が島の段の俊寛といった文楽の古典の役柄でした。
 今回は人形の首(かしら)も頬がこけ落ち目が鋭く凄みのある顔をした「丞相」(天拝山の段の菅丞相に使う首)を使いますから、これらの役と共通したものがあると思います。
 ただ、阿蘇左衛門は妖術を使って復讐をするためにさまざまな策略を張り巡らします。南海の孤島という一つの世界を支配するスケールの大きさが必要な役なのだと思います。

特に今回は脚本・演出の山田先生が、物語の最後に初演にはなかった阿蘇左衛門の独白を台本に新たに加えられましたが、この独白というのが、これまでの文楽にはないものなので、この物語をどのように締めくくるのか難しいところです。

VOL.5は7月24日ごろの更新の予定です。