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シリーズ企画

いとうせいこうが聞く“文楽鑑賞の極意!” 国立劇場5月文楽公演その2 「絵本太功記」 「生写朝顔話」

いとうせいこう(以下いとう)
さて、文楽マニアさん、今回もまた今月の文楽の見どころを教えて下さい。
文楽マニア(以下マニア)
はい。今回は第二部について。名作『絵本太功記』と『生写朝顔話』です。『絵本太功記』は、織田信長(芝居では小田春長)を討った明智光秀(芝居では武智光秀)を主人公とし、光秀を春長の命で森蘭丸が打擲する発端から、光秀が羽柴秀吉(真柴久吉)に討たれるまでを六月一日から十三日までの一日一段構成の全十三段で描いた時代物です。
いとう
 その中で今月の公演は……?
マニア
「夕顔棚の段」、「尼ヶ崎の段」に注目です。全体の十段目(六月十日)に当たり、光秀の息・十次郎と許婚の初菊の婚姻を目前に控えた武智家が、一転して戦乱に渦に巻き込まれる。
いとう
悲劇ですね。
マニア
はい、それも重厚な名場面ぞろいです。
いとう
何度も上演される人気作品です。
マニア
その「尼ヶ崎」、今回は最近では演じられることが少なくなった形で上演します。浄瑠璃の文章には、段切(一段の終わりの部分)に「その黒髪をあへなくも、切り払うたる尼ヶ崎」とあるのですが、これは初菊が十次郎の死を悼み、髪を切って尼になるという意味で、ここでは「尼になる」と「尼ヶ崎」が掛詞になっていて、実は、この「尼ヶ崎の段」の段名の由来となっているのですが、今回は久しぶりに初菊が段切に髪を切って登場するという丁寧な形での上演です。
いとう
いいですね。そういう形の復古は大歓迎です。そして、『生写朝顔話』ですが、僕の好きな「笑い薬の段」でも有名。
マニア
ええ、この作品は大内家のお家騒動を描いた作品ですが、今回はその中から、宮城阿曽次郎(後に駒沢次郎左衛門)と深雪(後に朝顔)という二人のすれ違いの恋の物語を中心に上演します。
いとう
文楽は笑いをまぶしながら悲劇を色濃く描くのがうまいですよね。
マニア
そう思います。再会を果たしたのに嵐のために再び別れ別れになってしまう「明石浦船別れの段」から、悲しみにくれて盲目になってしまった深雪と島田宿で再会を果たすも、阿曽次郎は名乗ることができず、再び別れることになってしまう「宿屋の段」「大井川の段」。
いとう
どちらも見逃せませんが、僕が劇場関係者から聞いたところでは、東日本大震災を受けて出演者の方々からも有効な節電をしたいという声が上がったそうで。
マニア
よく御存知で。私も聞いています。ゆえに、「大井川の段」を古風な瑠璃灯を使った演出による上演の提案があったそうです。
いとう
ただ、その後、首都圏における電力使用量の減少を受けて、当面は舞台上で節電する必要はなくなりました。
マニア
ええ、しかし最近では珍しい上演法なので、その瑠璃灯を使った舞台でご覧いただくことになったそうですよ。
いとう
いわゆるロウソクのうまい使い方ですよね。江戸時代の舞台演出。
マニア
舞台の天井からロウソクを並べて吊るす演出ですが、ただし現在では消防上の問題から本火の替りに電球を使用しています。
いとう
なんにせよ、江戸時代の工夫をなるべく多く受け継ぐべきだと僕は思っているので楽しみです。

公演情報詳細 

国立劇場5月文楽公演 その1 「源平布引滝」へ⇒