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国立能楽堂

トピックス

【千駄ヶ谷だより】国立能楽堂7月主催公演がまもなく発売です!

 

文荷

 主人が思いを寄せる千満殿(せんみつどの)という若衆に手紙を届けるよう命じられた太郎冠者と次郎冠者。恋文の中身が気になるふたりは、あろうことか道中で盗み読みをはじめます。面白がって奪い合ううちに、手紙はふたつに裂けてしまい…。
 取り返しのつかないこの状況を、ふたりはどう切り抜けるのでしょうか。

弱法師

 讒言(ざんげん)を信じて息子の俊徳丸を家から追放したことを悔やむ高安の長者・通俊は、天王寺で七日間の施行(せぎょう・施し)を行っています。結願(けちがん)の今日は、春の彼岸の中日(ちゅうにち)で、天王寺では、落日を見つめて西方極楽浄土を観想する行事「日想観(じっそうかん)」が催されます。人でにぎわう境内で、通俊は、施行を受ける乞食の中に変わり果てた我が子がいることに気づきますが、人目をはばかって声をかけることができません。やがて時刻となり、今は弱法師とあだ名される盲目の俊徳丸は、心眼で夕日を見つめ、日想観に臨みます。瞼の裏に、かつて見た難波の海の景色を感得して、感極まる俊徳丸。やがて西海の彼方に日が沈むと、再会を果たした父と子は、ともに高安の里へと帰っていくのでした。

 

飛越

 茶の湯に招かれた男は、茶の作法にはとんと疎いので、その道に詳しい新発意(しんぼち・新米僧)を誘って出かけることにします。途中、橋がかかっていない小川に行き当たると、男は軽々と飛び越えましたが、臆病な新発意はどうやっても飛べず、ついに川に落ち、ずぶぬれになってしまいました。その姿を見て男が大笑いすると、ムッとした新発意は…。

 摂津国芦屋の里を訪れた旅の僧が、化生(けしょう)が出ると噂のある海べりの御堂で一夜を過ごすことになります。やがて一人の男が朽ちた小舟に乗って僧の前に現れ、自らを妖怪・鵺の亡魂だと明かして姿を消してしまいました。
その晩、鵺の魂を弔う僧の前に鵺の亡霊が現れ、国を傾け仏法を妨げようとしたため源頼政に討たれた顛末を語ります。討った頼政が名を上げた陰で、討たれた自らの亡骸はうち捨てられて淀川を漂い、朽ち果てた口惜しさ。鵺は、今なお闇をさまよう苦しみを語り、救済を願いながら闇に消えてゆくのでした。

 

 能・狂言を初めてご覧になる方にも親しみやすい作品を選んで、コンパクトに上演する入門向けの公演です。公演当日の上演前には、ロビーに能楽体験コーナーを設け、舞台では能楽師による簡単なプレトーク(解説)があります。
※ 体験コーナーは午後5時30分~午後6時30分、プレトークは午後6時30分開始

附子

 外出する主人は、太郎冠者と次郎冠者に“附子”を預け、「これは命を落とすほど危険な猛毒だから近づいてはならない」と言い残して出かけます。ダメと言われるとよけいに気になって仕方ないふたり。恐る恐る附子の入れ物の蓋を開けてみると、中に入っていたのは…。

熊坂

 美濃国・赤坂の宿にさしかかった旅の僧は、僧形の男に呼び止められて、「ある人の回向」を乞われます。案内された庵に着くと、中には拝むべき像もなく、おびただしい武具がずらりと並んでいるばかりでした。怪訝に思う旅僧に、男は「この辺りは盗賊がよく出没して人を襲うので、そのための備えだ」と説明します。そして「今夜はひとまず休みましょう」と男にうながされて、旅僧がまどろむと、不思議なことに男も庵も消え失せてしまいました。
 目を覚ました旅僧に、通りかかった土地の人が、かつて牛若丸によってこの土地で討たれた大盗賊・熊坂長範の話をし、先ほどの男はその亡霊であろうと語ります。僧の弔いで再び姿を現した熊坂の亡霊は、牛若丸との戦いで命を落とした顛末を語り、さらなる回向を頼むのでした。

 

鬼瓦

 訴訟のために長らく京の都に滞在していた大名が、めでたく勝訴して国元に帰ることになりました。これも日ごろから信心する因幡堂(いなばどう)の薬師如来のおかげと、供の太郎冠者を連れ、暇乞(いとまごい)を兼ねてのお礼参りに向かいます。ふたりしてお堂の様子をつぶさに眺めているうちに、破風(はふ)の鬼瓦に目が留まります。その顔に、何やら見覚えがあるような気がして…。

定家

 旅の僧の一行が、時雨に降り込められて、近くの庵で雨宿りをすることにしました。そこにひとりの里の女が現れ、ここはかつて藤原定家が建てた時雨の亭(ちん)だと教え、定家と人目を忍ぶ仲であった式子内親王(しょくしないしんのう)の墓所へと案内します。石碑にびっしりと絡みついた蔦は定家の執心の表れで、式子内親王は死してなおその執心に縛られ、苦しみから逃れられずにいる――。そう語った女は、自らが式子内親王の亡霊だと明かし、姿を消してしまいました。
 夜が更け、弔う僧の前に現れた式子内親王の亡霊は、法華経の功徳により呪縛から解き放たれたことを喜び、報謝の舞を舞います。けれど、舞い終えるやいなや、蔦はたちまちにして墓碑に絡みつき、式子内親王の姿は再びその内に埋もれて行くのでした。
 袖神楽、六道、埋留の小書(特殊演出)で細部がより印象的な演出となります。

 

◎女性能楽師による

 第一線で活躍する女性能楽師による公演です。性別の差に拠らない、より普遍的な能の表現を探ります。

忠度

 かつて和歌の権威・藤原俊成に仕え、今は出家の身となった僧が、旅の途中、須磨に立ち寄ります。由緒ありげな桜の木を眺めていると、その桜に手を合わせる老人が現れました。僧が一夜の宿を請うと老人は、「この桜の下以上の宿はほかにない」と言い、俊成の弟子だった平忠度の歌を詠みあげます。さらに「この桜こそ忠度の墓標なのだ」と告げて、花蔭に消えて行きました。
 夜になり、僧の夢の中に忠度の亡霊が現れます。和歌の師・俊成が撰者をつとめた勅撰和歌集『千載集(せんざいしゅう)』に自作の歌が取り上げられたものの、朝敵の身をはばかり「よみ人しらず」とされた無念。腰の箙(えびら・矢を入れておく道具)に和歌を記した短冊をつけて戦った最期の様を語り、忠度の亡霊は、和歌の道への執心を抱えたまま、回向を頼みつつ姿を消してゆくのでした。

三輪

 三輪山の麓に庵を結ぶ玄賓僧都(げんぴんそうず)のもとに、毎日、樒(しきみ)と水を供えに通ってくる女がいます。ある日、女から衣を所望され、玄賓は女に衣を与えます。そして、住まいを訊ねられた女は、「自分の住まいは三輪の里で、杉の木が立つ門が目印です」と言って、姿を消してしまいました。玄賓は、女の正体が三輪明神の化身だろうと思いいたるのでした。
 やがて、与えた衣が三輪神社の神木の杉にかかっていると聞いた玄賓が神社を訪ねて行くと、三輪明神が姿を現し、闇となった世界に天照大神がふたたび光をもたらした天岩戸の神遊(かみあそび)の様子を見せ、神道の奥義を伝えるのでした。

【文/氷川まりこ(伝統文化ジャーナリスト)】

 
●7月主催公演発売日
  • ・ 電話インターネット予約:6月10日(月)午前10時~
  • ・ 窓口販売:6月11日(火)午前10時~
  国立劇場チケットセンター(午前10時~午後6時)
  0570-07-9900/03-3230-3000(一部IP電話等)
  https://ticket.ntj.jac.go.jp/