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国立能楽堂

トピックス

【千駄ヶ谷だより】国立能楽堂6月主催公演がまもなく発売です!

 

地蔵舞

 西国巡礼の旅の途中、僧がとある家で一夜の宿を借りようとします。けれど「この土地では往来の人に宿を貸してはならないという決まりがあるので泊められない」と断られてしまいました。一計を案じた僧は「ならばせめて笠だけでも」と頼み、家の主人に笠を預けます。夜になって不審な気配に気づいた主人が家の中をあらためると、忍び込んだ僧がちゃっかり座敷に座っており…。

古本による 水無月祓

 都から播磨国・室の津に赴任していた男は、現地で親しくなった遊女に「必ず迎えに来る」と約束をして帰京します。
 都に戻った男は、六月晦日(みそか)、糺(ただす)の賀茂明神の水無月祓に詣でました。道々、知人から、近頃境内に水無月祓の茅(ち)の輪の謂れを語る物狂の女が現れて面白い舞を見せるという話を聞いて、興味を持った男はその物狂を待つことにします。
 そこに男との再会を願って物狂となった女が現れます。けれど、あまりに様子が変わっていて男はそれが室の津の女とは気づきません。女は、古歌をひき水無月祓や茅の輪のご利益を語り、やがて烏帽子をつけて舞を舞います。その姿に、男もようやく女の正体に気づき、再会を喜んだ二人はともに社を後にするのでした。
 観世流のみに残る作品です。通常は省略される前場を復活しての上演となります。

 

ぬけから

 主人から買い物を命じられ、外出をした太郎冠者。出がけに飲ませてもらった酒にすっかり気分をよくし、酔って道端で横になってしまいました。心配して様子を見に追いかけてきた主人は、路頭で眠りこけている太郎冠者を発見! 二度とこのようなことがないよう懲らしめようと、太郎冠者に鬼の面をかぶせ、戻って行きました。やがて目が覚めた太郎冠者が、水を飲もうと清水に向かうと、水面に映ったのは…。

放下僧

 利根信俊に父を討たれ仇討の機会を探っている牧野小次郎は、幼少時に出家し禅僧として修行中の兄に協力を求めます。一度は思い留まるよう説得をした兄も、小次郎の熱意に打たれ、ともに仇を討つことにします。兄弟は、敵を欺くため、放下(僧形の芸人)に身をやつし利根に近づくことにしました。一方、近頃夢見の悪いことを気に病んだ利根は、三嶋明神に参詣し、そこで放下を装った兄弟と出会います。警戒しつつも二人の正体に気づかないまま、彼らとの禅問答の面白さに興じる利根。兄弟は舞や謡を披露して利根を油断させると、隙をつき、みごと本懐を遂げるのでした。

 

柿山伏

 修験道の聖地・葛城山での修行を終えた山伏が、故郷に帰る途中です。空腹を感じてあたりを見回すと、たわわに実をつけた柿の木が目に留まったので、よじ登って、実を取り食べはじめました。ちょうどそこに、柿の木の持ち主が見回りにやってきて、樹上の山伏に気づきます。懲らしめにからかおうと、木の持ち主は「おや、木の上にいるのは人かと思ったが、鳥だったか?」と、わざと山伏に聞こえるように独り言を口にします。その言葉を聞いて、うまく隠れおおせたと思いこんだ山伏は…。

安達原

 廻国巡礼をする熊野那智の山伏・祐慶とその一行が、奥州の安達原で一夜の宿を借ります。野中にぽつりとあるわびしいその家には、女がひとりで暮らしていました。女は、快く一行を迎え入れると、求めに応じて賤女(しずのめ)の営みである糸繰りのさまを見せてもてなします。深夜になると女は、暖を取る薪を採ってこようと立ち上がり、「決して閨(ねや・寝室)は開けないように」と言い残して出て行きました。女の言葉が気になって仕方ない一行の能力(のうりき・従者)は、約束を破って閨を覗いてしまいます。するとそこには累々たる死骸の山が! 女が安達原の鬼女だと悟った一行は、一目散に逃げ出しました。正体を知られて本性を現した鬼女が猛烈な勢いで一行を追いかけます。対決の末、山伏の力で調伏(ちょうぶく)された鬼女は、安達原の深い闇の中へと消えていくのでした。

 

無布施経

 檀家を訪れ、毎月恒例の読経を終えた僧。ところが、どうしたわけか今日に限ってお布施が出てきません。催促するのもはばかられるので一度は帰りかけたものの、これが常となっては困ると思い直した僧は、引き返します。とはいえ、さすがに「お布施をいただきたい」とは言えず、すっかり忘れている檀家になんとか思い出してもらおうと…。

熊野

 池田の宿の熊野は、時の権力者・平宗盛の寵愛を受け、都に留め置かれています。そこに、遠く離れた故郷の老母の危篤を知らせる手紙が届きました。暇を願う熊野ですが、宗盛は認めず、「今日は花見に行くのだ」と言って、車を仕立て東山へと向かいます。清水寺に着き、母を思って仏前で祈る熊野。酒宴がはじまり、宗盛の命で熊野が舞い始めると、村雨が降り出します。雨に打たれて散る花に母の命を重ねて熊野が和歌をしたためると、心を動かされた宗盛は、ついに熊野の帰郷を許すのでした。
 母からの手紙を宗盛と熊野がともに読む「読次之伝」、降り出した雨で熊野の舞が止まる「村雨留」、和歌を短冊に記す熊野が墨を継ぎ足す所作をする「墨次之伝」、短冊を宗盛に渡す熊野が膝を突いて進む「膝行留」の小書(特殊演出)をつけての上演です。

 

誓願寺

 念仏の教えを広める時宗の開祖・一遍上人が、洛西の誓願寺で「六十万人決定往生」と書いた御札を配っていると、近づいてきたひとりの女が「六十万人しか往生できないのか?」と訊ねました。一遍が「六十万人は阿弥陀の慈悲の真髄を説いた熊野権現の託宣を略した文字のことで、人数を限定するものではない」と答えると、女はその言葉に不信を解き、深く胸を打たれます。そして、上人自筆の六字の名号(南無阿弥陀仏)を堂の扁額(へんがく)として掲げたいと請い、実は自らは和泉式部の霊なのだと名乗り、姿を消しました。
 やがて夜になると、和歌の徳によって歌舞の菩薩と変じた和泉式部の霊が現れ、一遍自筆の名号を拝み、念仏の功徳を讃嘆して舞うのでした。
 後半でシテが特殊な拍子を踏む「来迎拍子」の小書により、誓願寺の空間が極楽浄土に変じたことを印象付けます。「札之仕形」は宝生流のみの小書で、一遍が女に札を渡す所作が加わります。

茶壺

 酒に酔い、背負っていた茶壺の肩紐を片方だけ腕に通したまま道で眠り込んでしまった男。目覚めると、通りがかりのすっぱ(騙り者)がもう片方の肩紐に腕を通していて「これは自分の茶壺だ」と主張します。仲裁に入った目代(もくだい)は、茶壺に詰まっている中身についてふたりに訊ねるのですが…。

藤戸

 備前国・児島で、藤戸の浦の浅瀬を渡って平家の陣に奇襲をかけた佐々木盛綱は、軍功の褒美として児島を与えられます。領主として意気揚々と島に乗り込んだ盛綱が「訴訟のある者は何なりと申し出よ」と触れを出すと、ひとりの女が進み出て、「我が子を殺された恨み」と盛綱に迫ります。実はこの女こそ、盛綱に浅瀬の場所を教え、口封じのために殺された地元の漁師の母親だったのです。観念して経緯を告白した盛綱は、母親から「我が子を返せ」と激しく詰め寄られ、殺めた漁師の追善供養を約束します。
 供養がはじまると、読経の声にひかれて漁師の霊が現れ、死に際の様子を再現します。悪龍の水神となって盛綱に祟りをなそうとしますが、弔いの功徳によって怒りを鎮め、成仏を遂げるのでした。
 「蹉跎之伝」の小書で、シテの動きの随所に細かい所作が加わり、思いの深さを演出します。

【文/氷川まりこ(伝統文化ジャーナリスト)】

 
●6月主催公演発売日
  • ・ 電話インターネット予約:5月10日(金)午前10時~
  • ・ 窓口販売:5月11日(土)午前10時~
  国立劇場チケットセンター(午前10時~午後6時)
  0570-07-9900/03-3230-3000(一部IP電話等)
  https://ticket.ntj.jac.go.jp/