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【5月文楽】『夏祭浪花鑑』夏の雰囲気を盛り上げるお神輿に注目!

5月文楽公演第三部では、大坂の市井を舞台に町人たちの生きざまが描かれた人気作『夏祭浪花鑑』を好評上演中です。
クライマックスの「長町裏の段」では、主人公・団七(だんしち)と強欲な義父・義平次(ぎへいじ)の緊迫したやり取りから、ついに堪えきれず舅殺しへ至る、迫力満点の展開が繰り広げられます。

この場面の雰囲気を一層盛り立てるのが、やむなく舅を殺してしまい茫然とする団七に近づいてくる高津宮祭礼の祭囃子と神輿です。
高津宮(大阪市中央区)の祭礼は、毎年7月17日が宵宮、18日が本宮です。この時期は梅雨明け前後の最も蒸し暑くて不快な季節。
まとわりつくような湿気と暑さの中で繰り広げられる凄惨な殺しの場面で、心がはやるような祭囃子と、激しく動き
回る神輿とその掛け声は、絶望的な主人公の心情と対照的で、凄惨な段切れに濃厚な明と暗のコントラストを浮かび上がらせます。
舞台を陰で支える技芸員による裏話から、この場面の秘密に迫ります!




段々と近づく「てうさ ようさ」の掛け声
義父・義平次を殺めてしまって茫然とする団七のもとへ、遠くから近づく神輿の掛け声「てうさ ようさ」が聞こえてきます。
これは若手太夫たちが総出で舞台袖に集まり、「てうさ」「ようさ」と二種類の声をかけるため、二手に分かれて声をかけているのです。


豊竹咲寿太夫

豊竹咲寿太夫「“てうさ”と“ようさ”で3人ずつ、計6人で声をかけています。遠くから聞こえる声と近くで勢いよく聞こえる声を同じ場所から出すので、語り分けが重要となる勉強の場です。大阪出身の自分も高津神社のお神輿を担いだことがあり、その風景や暑さを思い出せるのはそこで育った人間の特権かもしれませんね。」

伸縮自在に舞台の雰囲気を作るメリヤス
文楽では、舞台の雰囲気を表現するために、舞台での動きに合わせて旋律を繰り返す「メリヤス」という三味線の演奏があります。 状況に合わせて長さを調節しながらの演奏で、この場面でも舞台上手の上方にある御簾から人形の動きを見て、それに合わせて演奏が進んでいきます。


左より野澤錦吾、鶴澤友之助

鶴澤友之助「この場面のメリヤスはテンポが遅く、とても緊張感があります。盛り上がってどんどん速くなった後、お神輿が居なくなって最初の1音がとても重要です。臨機応変に人形の動きに合わせながらも、全員が止まりやすいところで曲を止めなくてはいけない難しさがあります。」
野澤錦吾「長町裏は音が鳴っていないところが1番大切、というくらい間が大切です。神経を使って集中すること、気を抜かないことも勉強です。先輩方に細かくご指導いただくこともあり、重要な修行の場です。」


吹き飛びそうな力強さの若中
近づいてくる掛け声と盛り上がっていくメリヤス、そして下手から若中(街の若者たち)の担ぐ神輿がやってきます。
「てうさ ようさ」に合わせて上へ下へと激しく動く神輿は、担ぐ6人と先導する1人、後ろからはやし立てる1人の合計8人のツメ人形によるもの。とにかく力強く激しい動きのツメ人形と神輿は、絶望する団七と対照的で、この場面の特徴的な雰囲気を強調するのです。


左より吉田簑太郎、吉田玉彦、吉田玉誉



吉田玉誉「とにかくめいっぱいやる場面です。これまでに何度も転んだことがありますし、幕につっこんでしまうことや持っている団扇が折れたこともあります。」
吉田簑太郎「今回は神輿の後ろにいる人形を遣っていて、団七の着替えの様子を見て、てぬぐいと団扇を取る場面はしっかりと間を守らないといけません。ツメ人形は自分で選ぶのですが、自分と顔が似ているのを選ぶようにしています。」
吉田玉彦「神輿を担ぐ人形は、“てうさ ようさ”にさえ合わせれば特に動きは決まっていないです。前に行くのか後ろに行くのか、誰が動かしているのかもわからない、お祭り独特の高揚感がありますね(笑)」

やがて団七は最高潮となった祭りの人波に紛れ、走り去っていきます。
夏祭りの興奮と熱量が生み出す充実の舞台をご堪能ください。



5月文楽公演は30日(火)まで!


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