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国立劇場

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【6月邦楽公演「現代邦楽名曲選」特別インタビュー】石垣清美(箏曲家)
「習い事ではない 音楽文化としての箏曲を」


石垣清美

―いつからお箏をお習いになったのですか。

石垣清美(以下、石垣) : 姉が習っていて、同じ先生に5歳から習い始めました。中学高校までは地元和歌山におりましたが、昭和42年に京都女子大学へ進学しました。当時、京都学生三曲連盟がとても勢いがありまして、意欲的な作品が多数上演されていました。
その中で、私も船川利夫先生の《尺八と箏のための複協奏曲》を弾かせていただいたのですが、偶然審査員でいらした沢井忠夫先生が聴いてくださって。「プロになりなさい」って推薦してくださったのです。でも、私演奏家になるつもりはありませんでしたから、せっかくのお言葉も響かなかったですね。


―その後はいかがなさったのですか。

沢井忠夫

石垣 : その頃も、学生時代の延長でお箏のお稽古は続けていたのですが、様々なご縁が重なって、結局沢井忠夫先生にお習いすることになりました。月1回大阪のお稽古場へ。そしたら今度は、「内弟子をしながらNHK邦楽技能者育成会(以後「育成会」)に行ってみないか」と沢井先生からご提案されまして。初めは躊躇しましたが、昭和50年2月一念発起し東京へ出ることになりました。


―内弟子生活はいかがでしたか。

初代石垣征山

石垣 : 昔の日本家屋は音が通りますから、沢井先生が練習していらっしゃると、全部音が聞こえてくるのですね。ご飯と寝る時間以外、朝から夜中までずっと練習なさっている。それも、一曲をさらりと弾くのではなく、同じ個所を徹底して弾かれるんです。何度も繰り返し練習することの大切さを、内弟子修行をしながら身をもって体感いたしました。
この頃、出会ったのが初代石垣征山です。征山はまだあこがれの山本邦山先生に師事する前で、忠夫先生から邦山先生にご紹介いただきました。こうしたご縁から私達の結婚式は、沢井夫婦、山本夫婦の両仲人という豪華版でした。


―ご結婚後はどのような活動をされましたか。

石垣 : 昭和52年9月にジョイント・リサイタルを初めて開催しました。賛助出演は忠夫先生と邦山先生で、お二人の作品によるプログラムでした。その後も古典曲、現代曲というこだわりは特にないのですが、好きな作品を選曲していくと、自然と現代曲中心のプログラムになりました。


―国立劇場に初めてご出演いただいたのは、昭和57年「舞楽法会」でした。

石垣 : 雅楽の大合奏に参加させていただいたんでしたね。大掛かりな舞台だったことを覚えています。また翌年には、《観想の焔の方へ》という作品に参加させて頂いました。作曲は、ジャン・クロード・エロアというフランスの作曲家の方でいらっしゃいましたが、音楽監督補として関わっていた鳥飼潮(とりかい・うしお)さんとは、NHK邦楽技能者育成会の同期でしたので親しくさせて頂きました。


―邦楽公演では「現代日本音楽の展開」シリーズに多くご出演いただきました。

平成5年(1993)6月国立劇場
「二つの個性」

石垣 : 平成5年の藤井凡大先生《二つの個性》は、共演の砂崎知子先生とすごく練習した思い出があります。絶対暗譜しなきゃ、という感じで、必死になって練習しました。
平成7年の杵屋正邦先生《十七絃二重奏曲「双璧」》は、沢井一恵先生と演奏させていただきました。もう30年近く前ですか。懐かしいですね。このようなデュオの曲を弾いているときはとても楽しく、嬉しい気持ちになります。雅楽公演や音楽公演の大編成の曲を弾くのとはまた違った楽しさがあります。


―国立劇場委嘱の作品もたくさん初演していただいております。

石垣 : 平成10年には廣瀬量平先生の《南溟暁歌》を演奏しました。先生の曲は「廣瀬節」とでも言いましょうか、独特の音楽性がありますね。技巧が凝らされているわけではないけれど、間の取り方や音の配り方が難しい。


平成10年(1998)4月国立劇場 「南溟暁歌」


石垣 : また、平成11年に演奏させていただいた松尾祐孝先生の《呼鼓悠遊》も思い出深い作品です。小鼓や大鼓を打つ作用に、三味線や十七絃の弾く演奏が呼応する大変興味深いものでした。私、十七絃を受け持つことが多いのですが、自ら率先して立候補しているわけではないんです。最初は合奏曲のなかで役割が回ってきて。弾いているうちに、次第に面白いなと感じるようになりました。特にこだわりはないので、演奏するだけで楽しいのです。


平成11年(1999)4月国立劇場 「呼鼓悠遊」


―洗足学園音楽大学にお勤めになったきっかけは何でしょうか。

石垣 : 洗足学園音楽大学の現代邦楽コースは、西潟昭子(にしがた・あきこ)先生の現代邦楽研究所が母体になっています。1995年、演奏・創作・教育・研究・プロデュースを指導する現代邦楽研究所が設立されると、その取組みに共感し多くの受講生が集まりました。そこで、私も講師として携わらせていただきまして、2005年、洗足音楽大学が同研究所を引き受けることになりますと、そのまま大学の講師として指導することになったのです。西潟先生には本当にお世話になりました。


―若い演奏者にお伝えしたいことはありますか。

石垣 : 与えられたものを懸命に弾くことが一番じゃないでしょうか。音を出すにしても、その音のイメージを捉えて音にしないといけません。楽譜を間違いなく弾くだけではなく、自分なりの音楽観を磨いていただきたいと思います。


―今後の邦楽界への期待は何かありますか。

石垣 : 習い事としてのお箏ではなく、音楽文化として捉えて頂きたいと願っています。一般に、邦楽を聴くと眠くなるというのは、演奏の質にも問題があるのではないでしょうか。演奏家として更に技量を磨くこと、また良い音楽を聴きたいなと思って頂けるような音楽を届けること。そうした研鑽を続けていくことが大事、と思います。



<プロフィール>
石垣清美
(いしがき・きよみ) 箏曲家

5歳より生田流筝曲を学び、後に沢井忠夫に師事。 1977年初代石垣征山と第1回箏・尺八ジョイント・リサイタルを開催以来、国内外各地で回を重ねる。1985年から9年間、熊谷守一美術館にて年4回ジョイント・コンサートを開催。1980年に山本邦山先生命名のお弟子の会 「邦楽音心会」が発足、毎年定期演奏会を開催。平成元年度「石垣清美 箏独奏会」の成果により、平成3年度 「石垣征山・石垣清美ジョイント・リサイタル vol.5」 の成果により、それぞれ文化庁芸術祭賞を受賞。2022年度日本吟剣詩舞大賞受賞。
洗足学園音楽大学名誉教授。 沢井筝曲院教授。 邦楽音心会主宰。 NHK邦楽技能者育成会、京都女子大学卒業。


【公演情報】
6月邦楽公演「現代邦楽名曲選」 公演の詳細はこちらから