国立劇場あぜくら会

イベントレポート

あぜくらの集い
「新春かるた会 -せりふを愉しむ-」

開催日:1月19日(金)
場所:国立劇場大劇場お休み処

かるた会

 

国立劇場が監修製作した「歌舞伎名ぜりふかるた」による「新春かるた会」が開催されました。昨年5月に襲名披露をされた歌舞伎俳優の坂東彦三郎さん、坂東亀蔵さんご兄弟をゲストにお迎えしてお話を伺い、せりふに定評のあるおふたりにかるたの読み手も勤めていただく贅沢なかるた会は、会員同士の和やかな交流の場ともなりました。

 

◆襲名披露を振り返って◆

 

 親子三代で襲名披露をされた坂東彦三郎さんと坂東亀蔵さんに、襲名披露公演についてお話を伺いました。昨年1月に記者会見と襲名披露パーティーを開催するまでは実感が湧かなかったというお二人ですが、パーティーで一気に緊張が高まったとか。数度の襲名経験をもつお父様の坂東楽善さんからは、「平常心が第一。襲名だからといって普段の自分がもっている以上のことができるわけではない。当たり前のことを当たり前にしなさい」という言葉をかけられたそうです。

 

「父のアドバイスのおかげで、平常心で臨むことができました」と彦三郎さん。襲名披露演目『梶原平三誉石切』で演じた梶原平三は、祖父(十七代目市村羽左衛門)から父へと伝えられた十五代目羽左衛門型で勤めました。「十日目くらいからでしょうか、舞台上で突然視界が広がったんです。目の前に多くのお客様がいらっしゃるということにその時やっと気づくくらい緊張していたんですね。これが襲名というものか、という初めての経験でした」。

 

 尾上松緑さんとの共演で一時間近くに及ぶ変化舞踊『弥生の花浅草祭』を踊った亀蔵さん。「石橋」での毛振りが素晴らしく、客席を大いに沸かせました。「お客様の歓声がとても嬉しく、励みになり、千穐楽までやり抜くことができました」。

 

 名子役として幼い頃から活躍されてきたお二人は、六代目中村歌右衛門、十七代目中村勘三郎といった昭和の名優たちから可愛がられたそうです。ただし、祖父・羽左衛門の厳しさは子供心に強烈な印象として残っているようで、「〝厳しい〟という言葉以外に思い浮かばない・・・」と笑う兄の彦三郎さんに対し、亀蔵さんは「兄の背中に隠れていたので僕には厳しい言葉が来ませんでした(笑)」。

 

◆美声で読み上げるかるた合戦◆

 

 お二人の楽しいお話の後は、いよいよかるた会の対戦モードに突入です。読み手を勤めるのが美声と口跡の良さで知られる彦三郎さん、亀蔵さんとあって、三人一組のチームに分かれた参加者の皆さんも気合十分といった様子。

 

「皆さん笑顔で! 額にシワが寄ってますよ〜。まだ読みませんよ〜。手は膝の上に乗せましょうか。いきますよ〜」と会場の雰囲気を和ませる彦三郎さんの一枚目は…

 

「知らざァ言って聞かせやしょう」(『青砥稿花紅彩画[白浪五人男]』弁天小僧菊之助)  そう、誰もが知る黙阿弥屈指の名ぜりふでした。続く亀蔵さんは「このせりふはたぶん一生言わないな〜」と呟きながらの一枚目。

 

「煙管の雨が降るようだ」(『助六由縁江戸桜』花川戸助六)  その後は彦三郎さん、亀蔵さんが交互に読み上げ、対戦はヒートアップしていきます。

 

「元より話の根なし草」(『盲長屋梅加賀鳶』竹垣道玄)

 

「女房喜べ、倅はお役に立ったわやい」(『菅原伝授手習鑑[寺子屋]』松王丸)

 

「せまじきものは、宮仕えじゃなァ」(『菅原伝授手習鑑[寺子屋]』武部源蔵)

 

「手を出して足を頂く蛸肴」(『仮名手本忠臣蔵』七段目の大星由良之助)

 

「お釈迦さまでも気がつくめぇ」(『与話情浮名横櫛』切られ与三郎)

 

「三千世界に子を持った、親の心は皆一つ」(『伽羅先代萩』乳人政岡)

 

「首が飛んでも、動いてみせるわ」(『東海道四谷怪談』民谷伊右衛門)

 

 などなど。彦三郎さんが「いつかは言ってみたいですねぇ」と語るお気に入りのせりふはこちら。 「六十余州に隠れのねぇ、賊徒の張本日本駄右衛門」(『青砥稿花紅彩画[白浪五人男]』日本駄右衛門)

 

◆せりふの極意◆

 

 白熱のかるた合戦も二回戦が終了し、集計タイムへ。「すごい盛り上がりようでびっくりしました」と目を丸くする彦三郎さんは、昭和56年11月国立劇場歌舞伎公演『菅原伝授手習鑑』寺子屋の寺子で初お目見えした時のせりふが一番印象に残っているそうです。「あんなに褒められたせりふは後にも先にもあれぐらいですね(笑)」。ご長男の亀三郎さんも同じ月・同じ役で初お目見えしたという不思議な巡り合わせがあるそうです。

 

 亀蔵さんは、襲名披露演目『梶原平三誉石切』で勤めた俣野五郎が発する第一声のせりふを披露してくださり、本息のせりふの迫力に圧倒されました。

 

「祖父、父からは常にお腹から声を出すことを教わりました」という亀蔵さんの言葉に彦三郎さんも頷き、「声を枯らさずにせりふを伝えるにはお腹から声を出すことのほか、“お腹の中にある言葉を喋りなさい”と教わりました。感情が喉や胸にある状態では、心がこもったせりふにはならない。感情をお腹の下まで落として咀嚼し、お腹の奥底から言葉を出すと役の性根に繋がり、せりふに感情が乗りやすくなります」。

 

 歌舞伎のせりふをいかに客席に伝えるか、その極意をうかがうことができ、充実した「新春かるた会」となりました。

 



あぜくら会ではこれからも会員限定の様々なイベントを開催してまいります。皆様のご参加をお待ちしております。

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