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国立劇場あぜくら会

イベントレポート

特別インタビュー
「祝・五代目三遊亭金馬襲名」

 


五代目 三遊亭金馬さん

 

──ご襲名おめでとうございます。五代目金馬襲名のお話は、師匠でありお父様でもある金翁さんからお話があったのですか。

 

 ありがとうございます。

 襲名の話はこれまでも二回ほど親父から薦められましたが、断っていました。親父が身体を悪くした時に「お前が金馬になれ。俺は金翁になって好きなことを気楽にやる」と言われましたが、親父を元気付けるためもあって「親父は覚悟して金馬の名前を背負ったんだろ。金馬の名前は墓場まで持って行かなきゃ」と断りました。

 今回は母が亡くなった数日後に、今度こそ絶対に譲る!という気迫で「俺も卒寿だし、金馬を卒業する」と言われました。出口を塞がれましたね(笑)。

 落語の世界は世襲ではありませんから、血が繋がっているだけで名前を継ぐのは名前に対して失礼だと思いますし、金時という名前にも愛着がありました。幸い席亭さんや先輩の師匠方が背中を押してくださり、皆さんが賛成してくださってトントン拍子に話が進みましたので、この襲名は自分に課せられた責任だと腹をくくりました。

 

──小さい頃から落語家になりたかったのですか。

 

 そういう夢は持ってなかったですが、小学校では「お父さんが落語家だからお前もやってみろよ」と、教壇の上で無理やり落語をやらされましたね。人前に出て拍手をされる経験はやみつきになるものですが、噺家になる気はなくて大学に進学しました。

 大学でひょんなことからものすごく厳しいと評判のゼミに入りました。ところが、その先生が無類の落語好きで「落語家になれよ。教え子から噺家が出たら鼻が高い」と後押しされて。運命なのかなあ。随分迷いましたけど、拍手される快感が忘れられなかったのでしょうか…。

 

──1986年にお父様に入門されました。

 

 本当は(古今亭)志ん朝師匠のところに行きたかったんです。憧れていました。でも先輩の倅は引き受けづらかったのか、入門できませんでした。それで親父が(五代目柳家)小さん師匠にお願いしたら、「ウチも今度孫(現・柳家花緑さん)が入るから、自分の倅の面倒は自分でみなさいよ」と言われまして、父に入門することになりました。

 

──師匠はどのような教え方をなさったのですか。

 

 前座の時は「とにかく大きな声を出せ」でしたね。ネタで教わったのは『手紙無筆』『寿限無』『子ほめ』だけ。あとはほかの師匠に教われです。おかげでいろいろな師匠に教えていただくことができました。「若い時に噺をたくさん覚えろ」「おもしろくやれ」とも言われました。

 親父は早くからテレビで売れていましたから、自分と同じようにすれば必ず売れると考えていたようです。

 

──国立演芸場での思い出はございますか。

 

 国立演芸場では度々独演会をやらせてもらっていますし、私にとってはホームグラウンドです。

1998年に真打になってからも、何をやっても周りから「金馬のおかげだ」と言われ続けて、実は毎日のように廃業したいと思っていました。2004年に文化庁芸術祭新人賞をいただいた時も「裏で金馬が手を回した」という噂がまことしやかに流れましてね(笑)。

同じ年に国立演芸場花形演芸大賞で銀賞を、翌年には金賞をいただきました。それが転機になりました。この銀賞と金賞をいただいたら、うるさい人たちもみんな黙ったんです。晴れて、落語村の住民票を手にした気がしました。ようやく「二世噺家」という目で見られなくなった。一度は本当に廃業届を出そうとしたこともありますけど、踏みとどまってよかったです。

 

──金馬襲名に至るにはそれなりの年月が必要だったのですね。今後めざすところは。

 

 そうですね。襲名の話が決まってから(柳家)小三治師匠にご挨拶したら、「お前はお前の金馬にすればいい」と言っていただいて、少し肩の力が抜けました。

 父は司会業でも歌でも何でもやれる人でしたが、僕は不器用です。じっくり古典落語をやっていきたい。人物描写や状況設定、時代背景は落語の心臓部だと思います。噺を聴いているうちにお客様の心にさまざまな光景が浮かび、いろんな登場人物が現れ、終わったら高座に金馬一人──そんな落語が理想です。

 志ん朝師匠は、噺が終わってもお客さんがしばらく立ち上がれなくなるような素晴らしい高座をなさった。その足元に近づけないまでも、そういう噺家になりたいですね。

 

──国立演芸場11月上席での襲名披露公演を心待ちにしております。

 

それまでになんとか新型コロナウイルスの感染がおさまってほしいです。皆さんに安心して寄席にお運びいただいて、落語を楽しんでもらいたいと願っています。

 

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