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国立劇場
いとうせいこうによる 文楽の極意を聞く

かしら編(その3)

かしら編(その2)よりつづく

いとう今日わざわざ出勤してくれた皆さんは、今何をしてるんですか、足を……?

村尾(文楽技術室長)これは剥ぎ塗りをするところなんですね。

いとう今剥いでるんですか?

村尾古い塗りを剥いでます。もうこれもひびだらけでボコボコしているんで、部分修理だとちょっと追いつかない。

いとう間に合わない。

村尾濡れタオルで一晩とまで行かないけれど、ある程度の時間は巻いて、

いとう寝かしておいて。

村尾そうやってふやかすんですね。そしたらその塗りの部分が、

いとう取れやすくなる。

村尾はい。塗りのほうは、木に直接塗るんじゃなくて、まずは全体に和紙を貼り込みます。

いとうそうなんだ。

その場でなされている作業いついて質問するいとうせいこう

村尾その上に色を塗ってるんで、湿らしたらその和紙がふやけて卵の殻みたいに取れる。

いとう取れますよね。でも芝居中には取れちゃいけないから、付ける時はすごい大変ですよね。

村尾だから、割とガッチリで付けます。でも足なんかぶつけたりしやすいんで、そういう時はもうバリッといっちゃいます。そこは公演中でも直します。

いとうこれは大体どのぐらいに一度、直してる感じですか。

村尾手足はやっぱかしらより使用頻度高いんで、スパンは短いんですよね。

いとう1公演ずつじゃないでしょう。それはちょっとさすがに多い。

村尾剥いで直すのはそこまではないです。でも塗り直しはもうほぼ毎公演です。

いとうはあ、なるほど。今、こっちでやってるのはそれですね。

村尾今はこんな色をしていても、「次、白にしてほしい」とか。

いとうそうかそうか、そうですよね。役によって。大体何足あるんですか。

村尾いやあ、数えたことないので。

いとうでも、この足だったら、色を変えれば基本男の役はまずいけちゃう。でもやっぱりそれぞれ違うか。

村尾役ごとに大きさの違いがありますので。これは一番大きいぐらいになるんですね。

いとうそうだ、これ強い人の足ですもんね。

村尾そうですね、多分、先ほどの瀬尾とかに使ってた足だと思います。足はいろいろな長さ、太さのものがあります。

いとういろいろあって、ここにちゃんと「義経二号」って書いてあるけど。

村尾これは簑助師匠の一門で管理している、義経サイズの二号っていうことです。

いとうそういう形になってるんだ。いや、そうなんだ。面白いな。当然、手なんかは一番きれいに。

村尾目立つところですし。

いとうよく見えちゃうから。

村尾塗りもそうですけど、動きが、からくりがどうしてもありますので。

入口近くの、人形の手足が置かれている棚について尋ねるいとうせいこうと答える村尾室長

いとう村尾さん、こっちの部屋の入口にあるのは? この棚の上の。

村尾これは塗りが仕上がったものですね。

いとうほんとに入口すぐにあるな。

村尾この「つかみ手」っていうのは、割とややこしいです。指のからくりが。

いとういろいろ細かく動くやつだ。

村尾塗り上がったのはここへ置いておいて、人形遣いの皆さんが取りに来て、人形拵えをされます。

いとう毎公演、返しに来るんですか。そんなことはない?毎公演返すの?

村尾返すというか、基本的に手足は個人持ちなので、皆さん、公演ごとにここへ持ってこられたのを我々が塗り直して、この棚に置いておくと、引き取られて……という繰り返しです。この場所にあるものは、要は塗り上がりましたよっていうことで。

いとうそうか、いつでもどうぞと。

村尾そうです、そうです。この辺だと、多分2月公演以降のものを持ってこられて、こっちで手直ししたのが置いてある感じです。

いとうそれが今出来てきてるんだと。あと何本ぐらいやるんですか。次、2月に向けて。

村尾普通に数で考えると、2月は『絵本太功記』の通しなんで、人形だけで50番ぐらいは出るんですよ。その分、手足も付いてますし。

いとうそうですよね。男たち多いやつだし。

村尾かしらは変わらなくても、衣裳が変わると手足もそれだけ増えるわけで。

いとうそれに合わせて手足がね。

村尾プログラムに載っている役の数よりも、かしらもそうなんですけど手足はもっと多くなってきますから。例えば、今回の通しだと光秀も久吉も3番ずつ出ます。

いとうじゃあ今皆さんはちょっと結構急ぎ目なんですか。

村尾それほどでもないですけど、でも人形遣いの皆さんはこの初春公演中に、2月の用意を終わらせたいので、千穐楽前までには仕上げてくださいっていうリクエストですよね。我々も公演後に仕事を残したくない気持ちはあります(笑)。

いとうそりゃそうですよね。ところで、せっかく出勤していただいたのでお話を……Aさんにしておこうかな(笑)。Aさんはどういうことでここに入ったのか。どういういきさつですか。

人形の手の作業をしている職員A

大学では建築学科にいました。

いとうえー。美大の?

工学部の建築学科です。

いとう工学部の建築学科?

そうなんです。

いとう文楽とか好きは好きだったんですか。

元々は舞台のセットとかそっちのほうに。

いとうああ、セットのほうに。

建築は総合的な学問なので、そこで勉強しつつセットのほうに行こうかなと思っていたのですが、舞台セットじゃないなってことに気付いたんですよ(笑)。

いとうセットじゃなかったんだ(笑)。

それで、最終的に人形が好きなんだなっていうことを自覚しまして。

いとうじゃあ、その前に文楽はよく見てた?

そういうわけでもないですね。

いとうでも見たら、人形は興味すごくあるってことがわかった。

はい。それで、日本で人形といえば文楽かなっていう。

いとうもちろん色々優れた人形劇はあるけれどもね。そしたらいきなり「頼もう」ですか?道場破りじゃないけど(笑)。

いや、運です。ちょうど採用募集がやっている時で。

いとう技術室募集って、人を増やそうっていう時に。

村尾そうです。職員募集が出た時に。

10年ぐらい募集してなかったみたいです。

いとううわ、そういうポスターみたいのがどこかに貼ってあったんだ。それを見て、「これだ」って。

「これだ」って。

いとう申し込んでみて、面接ですか。

面接と作文でした。

いとうどんな作文でした?

どんな作文だったんだろう……?

いとうでも、ともかく受かって、いきなりここ?

そうです。

いとうでも、かしらじゃなくて床山になるかもしれないわけじゃないですか。

村尾いや、かしらの募集でしたね。

いとうああ、それぞれで募集してるんですか。どこに行くかはちゃんと決まっているんですね。

当たり前ですけど、全部初めてやる作業だし。一からここで教えてもらって、という状態です。

いとうそしたら今はもう、後から入った人に教えてる状態?

はい。

いとうですよね。みんなに伝えていってるんですよね。

そうですね。

いとうさて、次のBさんはどういういきさつなんですか。

かしらの顎のあたりの手入れをしている職員B

アパレルの仕事してたんですけど、

いとうええ?!

Bでも教員免許取ろうと思って、通信でもう一回大学に入ったんです。教育実習の後、単位を取りつつ、空き時間なんかバイトしようと思ってハローワークで募集見てたら「文楽、かしら係の募集」みたいのがあって。

いとう超面白そうだなと。

はい。面白そうだなって。

いとうそうなるよね。

でも、その時はもう締め切られていて、残念やなと思ってホームページ見たらもう1回募集してて、これは行ってみようと。

いとうで、一発OK。

村尾彼女の時は職員の募集じゃなくてアルバイトの募集でして。

いとうそういうことだったんだ、まずは。

村尾アルバイトで働き始めてもらって、そうこうしているうちに人数を増やさなきゃいけないって事になり。

もう1回、職員になるための試験を受けまして、なんとか。

いとう面白いですか、やっぱり。

面白いです。

いとう何が一番面白いですか? 塗りとか、役との兼ね合いの作り込みとか……。

何ですかね……不具合を直すのが楽しいです。

いとうどうしたらもっとスムーズに動くようになるかなって。

それも楽しいですし、いっぱい作業あったのを終わらせるのも楽しい(笑)。

いとうどんどん次々いろんなことしちゃうっていうのが。

どんどん終わらしていって。

いとうだって充実感ありますもんね、それね、確かに。

それが舞台に出るので。

いとうああ、反映するんだもんね。しかも同じ仕事じゃないもんね、来る仕事、来る仕事が。そして、Cさんはどうですか?

かしらの目のあたりの作業をしている職員C

私は広告系の仕事をしていたんですけど。

いとう広告系!

徳島出身で、高校生の時に人形浄瑠璃をやっていて、広告の仕事をしているうちに、ちょっと今いるところとは違うことをしてみたいかなと……。どちらかというと、高校、大学の時にやっていたことみたいに、ずっと1つのことに向き合いながら、というのがいいかなと。伝統芸能とか、地域活性とか、そういうことを大学でやってたので。

いとうやってたんですね、もう。高校、大学の時に。

そうですね、高校の時に人形浄瑠璃をやっていて、それをきっかけに大学では伝統芸能とか地域活性みたいなことを勉強していて、そこからつながって広告業界に入ったは入ったんですけど、もうちょっと現場に近いところで、長い目で1つのものに向き合いたいなというので探していたら、その時に募集が出て。

いとうまた募集が出たんだ。すごいなんか、みんなをじっと狙ってるんじゃないの(笑)。

ラッキー!って(笑)。

いとうなんかタイミング良過ぎるよね(笑)。それで、もうすぐに行ってOKで?

応募して試験を受けました。その時は実技もありました。

いとう面白いのは何ですか? これは面白いなというのは。

まだ今入って2年ぐらいで、いろんなことを教えていただいて、どんどん覚えていく時期なので、新しいことを覚えていけるというのも嬉しいですし、前やってたことがちょっとずつ……

いとううまくできるようになってきたり。

前よりも、ちょっといけたかな、ってなるのは嬉しいです。面白いなと。

いとう充実してますね、本当に。

楽しい毎日です。

いとうこの部屋はそういう充実が空気に出てますね。すごい充実してる。

3人の職員と談笑するいとうせいこう

村尾基本的に、みんな手を動かすのが好きなんですよ。私もそうですけど。物を作ったり直したりっていうのがみんな好きな人たちが、変な運命で集まってるっていう感じのところですね。

いとうそうですね。もう皆さんがお芝居の脚本の中に出てきてもいい感じですもんね。なんか、それぞれの人形も作んなきゃいけない。それくらい、いいストーリーになってる。ありがとうございました。

村尾ここはいとうせいこうさんに、そんな新作を一筆書いていただいて(笑)。

いとうなんか浮かんでくるかもしれない。だって面白いもんね、やっぱりこの部屋の中っていうのは。ありがとうございました。





2月文楽公演は2月11日(水・祝)から2月23日(月・祝)まで!(休演日:16日(月))

チケット好評販売中

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※残席がある場合のみ、会場(KAAT神奈川芸術劇場<ホール>)にて当日券の販売も行っています。

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