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国立劇場
いとうせいこうによる 文楽の極意を聞く

かしら編(その2)

かしら編(その1)よりつづく

いとうかしらはそれぞれがどんなキャラクターか、みたいなことが決まっていて、その説明を読んだことがありますけど。

村尾(文楽技術室長)性根、ですか。

いとうその性根と、あと名前が付いてますよね。この人、誰々みたいな。あだ名とも違うか……。

村尾大体初演の時の役の名前が残って、そのかしらの固有名詞になっています。

いとうそういうことなんですね、あれは。この方々ももちろん全員、固有名詞が。

村尾そうです。固有名詞が付いていて、娘は「娘」なんですけれども、この「源太(げんだ)」だと梶原源太(『ひらかな盛衰記』の梶原源太景季)から来ています。梶原源太に使った時に評判が良かったので、それが後世に残ったというような流れがまあまああります。

いとうその役者さんが良かった、みたいなもんなんですね。

村尾そうです。

村尾室長の話を興味深く聞くいとうせいこう

いとうでももうちょっと大きい源太にしたほうがいいだろうっていうようなことも、あるかもしれないと。

村尾あります。例えば世話物と時代物で、同じ源太でも大きさとか、からくりが違うものを使い分けたりもします。

いとうそうすると、ずっと待機していた人、かしらが現れることもあるんですか。「これのちょっと大きめのやつがあったな」みたいなことになって?

村尾そうですね。あとは、和生師匠がかしら割をされる時にこの部屋へ来て、そういう感じでちょっと考える余地があるものは並べてみて……。

いとうへえ、並べるんだ。

村尾「どないしようか。ちょっと引き出しの中を見て」みたいな。

いとう僕もちょっと見たいです。

村尾これは「検非違使(けんびし)」。

いとうここにあるのは、全部同じ検非違使なんですね?

村尾検非違使は検非違使なんですけど、例えばこれだと、「描き眉の眠り目」っていう、眉は墨で、

いとう墨で描いてあって動かない。

知盛のかしらを手に仕掛けの説明をする村尾

村尾描いてあって、眠り目の仕掛けが付いているから閉じる。こちらにいくと、これは「幽霊」(『義経千本桜』「渡海屋・大物浦」の“中”)の知盛で、「寄り目とアオチ眉」。

いとう寄り目、アオ……?

村尾「寄り目とアオチ眉」っていうんです。

いとうアオチ眉?上下に動くやつ。

村尾はい。開けて閉じるからアオチっていうらしいです。(正しくは「開闔(あをち)」と書き、開け閉めすることの意)

いとうまあ動くんだから、もう全部この人でいいじゃない、っていうことにはならないんですね?

村尾ならないですね。逆に動き過ぎると駄目っていう場面も。

いとうああ、表情が出ちゃうから。

村尾そうですね。

いとう動かないでもらったほうがいい。

村尾あとは、割とこっちは侍系で荒事に使ったりするんですけども、こっちは町人、世話物とか。

いとうなるほど。世話物に使えるっていう。

かしらの違いに見入るいとうせいこう

村尾侍にもするんですけども、そんなにがつがついくタイプではないというような使い分けで。そういうところを和生師匠が見て、「じゃあこれにしようか」というような。同じ検非違使にしても、こっちはほぼ「捕り手の小頭」専門で、ちょっと作りが甘いんです。

いとう捕まえに来る人ですね。

村尾そうです。

いとう何人かで捕まえに来る人たちのリーダー。

村尾リーダーです。実はこれは真っすぐできてないんです。

いとうえっ、真っすぐできてないというのはどういうことですか?

村尾かしらは胴串があって、そこに首の部分がついていて、その上に顔や頭があります。で、横に軸が入ってて、それで頷けるようになっているんですけども。これが垂直に通っていないと真っすぐ頷いてくれない。ちょっと斜めに入ってるとしゃくってしまうので、そうすると遣い手としては素直に操れない。

いとうしゃくるのを計算して動いておかなきゃいけない。

村尾余計なことしなきゃいけないので、そこが嫌われるわけです。そのからくり的なところがイマイチなんで、その他大勢的な役に。

いとう入れようってことになっちゃったんだ。

村尾はい。主役になれない人なんです。

いとうそうか、悲しい役者さんの性(さが)。何回も出てはいるんですけど。

村尾出てるけど、なかなかいい役は付かない。

いとう主人公にならないっていう。

村尾なれないっていう。

いとうはあー、そうなんだ。この「特殊」って書いてある引き出しは、ベロとかが出るかしらですか。

村尾そうですね、化け物系。

いとう化け物系もいるし。

村尾種類が多いのだと、爺さん系です。

いとうおお、いっぱいいるな、ここ。

老けた男性役のかしらが10番以上収められている引き出し

村尾年寄りのかしらはいろいろ細分化されてますので、これなんか「大舅」で瀬尾なんかに使ってます。『源平布引滝』の瀬尾十郎とか、あるいは(『平家女護島』の)「俊寛」の瀬尾太郎ですね。年寄りだけど悪い役ですね。

いとうそうですね。力を持った人ですよね。ここに黒い、えらく日焼けした人いるけど。

村尾これは(『夏祭浪花鑑』の)義平次ですよ。

いとう義平次か!そうか、これが義平次か。確かに黒いか、夏だしな。

村尾元々はもうちょっと薄かったんですよ。でも、先代の玉男師匠が遣われる時に、「もうちょっと日焼けしたような感じにしてくれんか。酒焼けしてるような」っておっしゃって、それでこの色に。

いとうわー、そうなんですね。

義平次のかしらについて説明する村尾

村尾そういう遣い手さんのリクエストもあったりして変えていくのもありますね。

いとうなるほど。

村尾それと、この義平次のかしらは、多分明治初期か江戸末期ぐらいの作ですね。

いとうその頃のをまんま使ってる?

村尾修理を繰り返しながら、使っています。

いとう一番多く修理をする部分はどこですか?胴串?顔もですか?

村尾顔ですね。特に義平次は泥場があるので。

いとうそうだ、泥をかぶってるわ。

村尾派手にやられるので(笑)。立廻りで斬られる時に小道具の刀が当たったりして、ここもちょっと刀傷が残ってるんです。

いとうあ、ほんとだ(笑)。ご苦労様です。

村尾当たってしまうとこういうことになりますね。あと、ここはひびが入ったりとか。

いとう激しいシーンになりますもんね。

村尾なので、そういうアクシデントに備えて、公演中はすぐ直せるように待機しています。

いとうはー、そうなんですね。

村尾それと、これは「虎王」という種類のかしらなんですけど、前はこれ1つしかなかったんですね。さすがに1つでは限度があるんで、もう1つ作ろう、と。これも、本当は「剥ぎ塗り」っていって色を剥いで……、

いとう剥いで、塗り直す。

村尾そうやって木から修理するという作業を、20年周期ぐらいでやるんですけども。

いとうええ、20年周期?

村尾公演で使われる前に塗り直すんですけど、どんどん塗り重ねていくので厚化粧になってしまうんです。だから20年もたつと顔が二回りぐらい大きくなっちゃって、むくんでるように見えてしまうこともあって。

いとう人形もむくみが出るんですね。

村尾それはそれで味が出ていいんですけど、そうするとからくりの隙間が詰まったりとか。

いとうああ、遣いづらくなる。

村尾割れも出てきますし。かつらは釘で打ち付けるんで、それを繰り返すともう……。

いとうぼろぼろになりますよね。

村尾穴だらけになったり。ちょっとあそこのかしらの後頭部を見ていただくと。

釘の後が残るかしらの後頭部

いとうこの後頭部はかなりやられてますね。

村尾これまだマシなほうなんです。

いとうマシなほう?

村尾ひどいのになると木自体が崩壊してしまうので、それで20年おきぐらいに全面修理が必要なんです。ただ割とひっきりなしに出るものだと、

いとうそれこそ義平次とか。

村尾ええ。いったん修理入ると半年はかかりますんで。

いとうじゃあすごい隙を見て、「しばらくは『夏祭』やらないな。やった、修理だ!」みたいな感じで。

村尾それで大丈夫と思ってると、いついつの公演でやりますとか言われたりも(笑)。

いとうやっぱりやることになりましたみたいなことはあるんですね。

村尾なので、1つしかないものはもう1つ作って、古いものはゆっくり直そうということで作ったのがこれです。

いとうでもこの方は日に焼けてないですよね。

村尾これは別の、これは何に使ったかな……「忠臣蔵」の九太夫ですね。斧九太夫。

いとうああ、九太夫。

義平次と九太夫のかしらを両手で持って、色の違いを説明する村尾

村尾斧九太夫になるとこの色になるんで、今までは義平次を塗り直して九太夫にしていたんですけど。

いとうそういうことなんですか。

村尾そうです、そうです。

いとう同一人物だったんですか、あれ。お化粧で変えてたんだ。

村尾お化粧をしてかつらをこの武家の頭にして。

いとうそうだ、武家ですもんね。そういうことだったんですね。でもまあそれ、さすがにそれはちょっとハード過ぎますよね。

村尾そうですね。何せ150年選手なんで。

いとうわー、労働基準法に言われちゃいますよ(笑)。こんな働いてたら怒られますよね。

村尾なので、数が少ないものとか、しょっちゅう出るかしらはもう1人作って入れ替えて修理をしよう、と。そういう方針になってきたのは、こうやってかしら係の人数が増えたからですね。

いとうそうか、今だからできるんだ。

村尾そうなんです。

いとうあれ、これちっちゃいですね、頭。この方は?

村尾これは遠見の場面で使いますね。遠近法を利用して遠くにいる設定で。

小さなかしらを手にする村尾と説明を聞くいとうせいこう

いとうあ、なるほど! 向こうのほうに船が行った時とか。

村尾そうそうそう。これは「弥作の鎌腹」(『義士銘々伝』)の芝村七太夫だったかな、あまり上演されないんですけど。舞台の手前で芝居があって、

いとうやってて、一回はけて向こうのほうに。

村尾遠くへ行くところをこっちから鉄砲でバンって撃って、奥で倒れて死ぬっていう、その芝居のためだけです。

いとう「ためだけの人」なんだ。妙に小さいなと思ったら、すごい小さくなきゃ意味ないですもんね。遠近法なんだから。

村尾あとは、他の芝居だと子役のかしらを侍に仕立ててやったり。(『一谷嫩軍記』「組打の段」、『八陣守護城』「正清本城の段」等)

いとう大きさがちょうどいいんだ。面白いなあ。でもかしらの担当は木の部分だけだから、これは毛が付いているけど、床山さんがやってる?

村尾そうですね。公演が終わるたびに毛(かつら)を外していると、例えば義平次みたいに、また次も義平次になるとすると、一旦外してまた付けるのではその分木が傷むので、基本的には前の芝居の状態でこのまま置いといて、次の出番が何になるかっていうのを様子を見て。

いとうドキドキじゃないですか、ここにいるかしらの皆さん。そういうことなんだ。



(つづく)

2月文楽公演は2月11日(水・祝)から2月23日(月・祝)まで!(休演日:16日(月))

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※残席がある場合のみ、会場(KAAT神奈川芸術劇場<ホール>)にて当日券の販売も行っています。

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