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国立劇場
いとうせいこうによる 文楽の極意を聞く

かしら編(その1)

左にいとうせいこう、右に文楽技術室長の村尾

いとう大昔に来た時とは部屋の感じが……。

村尾(文楽技術室長)レイアウトはちょいちょい変わってますね。

いとうあ、そうなんですね。あの時はどんな感じでしたっけ?

村尾いつぐらいでしたかね。

いとう下手したら20年ぐらい前かもしれない。

村尾じゃあ、全然違うと思います。

いとうなんかもっとこう、うなぎの寝床的なイメージあったんですけど。

村尾そんな時もありました。もっとぎゅっと狭くなってたんですけど、今は人数も増えたので、そこを考えて作業スペースを確保したりしています。

いとうそうなんですね。

村尾私含めてかしら担当は4人になりましたが、多分その当時は2人でやってたと思います。

いとうそれいつ頃増えたんですか。

村尾この1月に4人目が加わりまして、その前がコロナ禍のあたりで2020年とか2021年。で、さらにその前が2012年でした。

いとうすごいですね、でも増えてよかったですよね。

村尾そうなんですよ。やっとここまで増えたんです。

いとう2人では忙しいですもんね。

村尾劇場としても、段階的に人数を増やしていこうということになって。

いとうそういうことになって。

村尾働き方改革もしなきゃと。

いとうああ、あの頃からなんですね。なるほど。こういう人形のことを扱う部署は、かしらのほかには、

村尾床山、衣裳と小道具で、その4部署が「文楽技術室」という名称になっております。

いとうその4部署で、なんて言うか、一番にまずここからとか、主導権があるみたいな分野とかあるんですか。

村尾分野でっていうのはないですね。今は私が技術室で一番年長なので室長をやってますので、だから私が取り次ぎ役で各部署の話を聞いて、みたいな。

いとうなるほど。

次の公演への準備が整ったかしらを前に、文楽技術室について質問するいとうせいこう

村尾中間管理職的な感じです。

いとうそうなんですね。今日だって本当は休演日なのに、皆さんいらっしゃってますもんね、よく考えたら。

村尾今日はみんなが、いとうさんにお会いしたいという(笑)。

いとうなんだ、最初に言ってくださいよ。そしたらもっとガンガン聞くのに!(笑)

村尾だから今日は、ほんとは私だけが来る予定だったんですけど、「どんな取材なんですか?」って聞くので、いとうせいこうさんがって言ったら、全員「来ます」と。貴重な休演日、みんなには休みを取ってほしい気持ちもありますけど(笑)。

いとうほんとですよね。まあでも、せっかくだから作業もしようかな、みたいな。

村尾作業は日常的にあるので、どうせ来るなら働こうと。

いとうでもかしらといっても、今皆さんが作業をしているのは手と足ですよね。

村尾そうですね。我々は、いわば木でできた部分を全て取り扱っているので。

いとうああ、なるほど、わかりやすい。

村尾そうです。かしらと手足は基本的に我々の仕事です。かしらは劇場所有のものがほとんどなんですけども、手足は技芸員さんの個人持ちです。どこかに頼んで作ってもらったり、ご自身で作られたり、ですね。それで、個人だったり一門で持ってたりして、演目が決まって自分の役が決まったら、それに見合った手足を用意して、われわれが色を塗り変えたりメンテナンスをしたりという日常です。

いとう一門って今おっしゃったのは、どういう一門ですか。

村尾例えば桐竹勘十郎師匠のところだったら、勘十郎師匠が持っているのを、お弟子さんも師匠のを借りてとか、一門の中で融通し合ってとか。

いとうそうか、そうなんだ。

村尾なかなか縁のなかった役が付いた時に、それの手足がなかったりすると、一門の垣根を超えて他の方に借りたりとか。

いとうそうか、各自の持ち物としての衣裳だったり、かしらだったり、手足だったりってことですね。

村尾そうですね。人間国宝やベテランの方になると、かしらも自前のかしらをお持ちだったりします。そのかしらが使える役が来ると、「これで行きます」って出してこられる。

いとうそれはやっぱりものすごい昔からあるかしらってことですか?

村尾古いものもあります。それで、1つ1つがオーダーメイドなんですよね。

いとうオーダーメイド?

実物を手にして、かしらについて説明をする村尾

村尾何がオーダーメイドかというと、ここにあるのはほぼ劇場所有のかしらなんですけども、この握りの部分、「胴串(どぐし)」って言いますが、ここが劇場所有のものは標準的な寸法になってます。でも、手の大きさとかはもちろん個人差がありますので、ここがジャストフィットするものを誂えますよね。そうしたら自然と遣いやすくなる。もちろん、顔の造形も個人の好みありますけども。

いとうそうでしょうね。

村尾ここ一番で、動きやすいかしらを。

いとうなるほど。じゃあこの胴串のところは結構変える人がいるってことですか。このかしらの部分とはまた別に。こっちもうちょっと大きいのじゃないと自分は駄目だという人とか。

村尾長さとか太さの好みが人によって違ってきますよね。

いとうで、こちらに持ってきて、皆さん調整してもらうと。

村尾というより、四世大江巳之助師匠が作られていた頃だと、直接大江師匠のところでそういうのを注文してカスタマイズをするっていうことですね。

いとううわ、贅沢ですよね。

村尾贅沢です。

いとう今は、かしらを作るいろんな方々がいろいろやっているってことですか。

村尾劇場のものはかしら係で作ることはありますけれども、徳島などにも人形作家さんがおられますので、そちらへ注文される方もおられるし。

いとうじゃあ、いろんなパターン、いろんな経歴のかしらが集まってきて公演をやるんですね。

村尾そうですね。

いとういろんな人形たちが集まってということですよね。でも、ここにあるので全部じゃないですよね。他にもどっかにしまってあったり?

村尾あそこの引き出しに全部あります。今、ここに掛かっているのは、次の役が決まってるんで仕事をするために。

いとうなるほど、待機中だ。

かしらに付けられた「えふ」について質問するいとうせいこう

村尾来月の、これ絵符といいますけれども。

いとうエフ?絵の?

村尾「絵」と書く「絵符」だったり、会わせる符と書いて「会符」と書いたりもしますけど。

いとうへえ、絵符というこの細い紙が付けられると、「もう決まりましたよ」という。

村尾これが「2月の東京公演の何々という役で、何々さんが遣います」というサインですよね。これが付いて、初めて我々は作業ができます。色を塗り直したりとか、床山がその役の髪を結い上げるとか。そのための準備をするということですね。

いとうもう許可証みたいなもんですね。

村尾「これで行きましょう」という。

いとうこれはどなたが?

村尾これは吉田和生師匠が「首割(かしらわり)委員」をやっておられまして、公演ごとにどの役でどのかしらを使うかをお決めになります。絵符も全部和生師匠が自分で書かれて。

いとう師匠が文字を書かれるんですか?

村尾はい。

いとうご自分の人形はこれ?

村尾そうですね。

いとうちょうど今たまたまあったけど。和生師匠が2月に遣うんですね。

村尾2月公演の『絵本太功記』の「さつき」です。

いとうそれでいうと、割と人形遣いの方々は、どこに何のかしらがあるかはよく知ってるってことですね。つまりここにあるものだけじゃないわけじゃないですか。それとも、村尾さんから「これどうですか」みたいなことがあるんですか?

村尾基本的には和生師匠がすべてお考えになり、この役ではこれ、いくつかの場面に登場する役だと、この場面ではこれ、というふうに指示なさいます。

2月文楽公演で用いられる様々なかしらが掛けられた壁

いとうもうご存知なんですよね、あらかたは。

村尾ご自分の頭の中に入ってますね。ここにあるかしらも作った時期とか作り手によって、握りの部分の太さや長さが違ったりするので、配役が決まると、「この人やったらちょっと胴串大きいほうがええかな」とか、「もうちょっと小ぶりのほうがええかな」とか。

いとうそれはお芝居を考えてのことですか、それとも遣う人の?

村尾遣い手を考えて、です。

いとうということは、最初に人形遣いの役が決まって、それからかしらの具合が決まってくるっていう順番ですか。

村尾そうですね。だから配役と照らし合わせて、もちろん演目ごとに基本形みたいなものはありますけど、その中でも、この人の手の大きさやったらこっちのほうが遣いやすいかなとか。時には太夫のことを考えることもあります。

いとうえっ、太夫にも関係あるんですか?

村尾語り手によって同じ演目でも人物像が変わってきたりするので、「この人の語りやったら、今回はこっちにしようか」っていうこともあります。

いとううわ、面白い、そうなんですね。割とあることですか?

村尾そう度々ではないですね。

いとうたまにあるくらい? ものすごく大きく語る人がいたら、やっぱりちょっと大きめのかしらにしよう、とか。

村尾この人の語り方やったらこの役はもうちょっと年齢が上やから、それに合うかしらにしようかとか、そういうこともありますね。

いとうへえ、そんなことがあるんですね。



2月文楽公演は2月11日(水・祝)から2月23日(月・祝)まで!(休演日:16日(月))

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