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竹本織太夫編(その4)
竹本織太夫編(その3)よりつづく
織太夫:「イキ」とか「ヲン」って言うでしょう?声じゃないんです。
いとう:声じゃないんだね。
織太夫:「今のは何の光ぞや」こうなんですよ。必ず吐きながら言う。
いとう:うんうん。それは何でなの? その「ヲン」、つまり音で言うっていうのは?
織太夫:音を遣って言うことで、空気中に、最後には「?」が見えるようにというか。
いとう:見えるように言わなきゃいけないということなんだよね。
織太夫:そうなんですよ。何となくやっているんですけど、めちゃくちゃ全部システマティックにできていて。
いとう:できてる。その時に人形遣いは分かってて、例えば、織太夫はこのイキでまずするなという時に、動きで反応しているのかな?
織太夫:それはしてます。
いとう:お互いにわかってる。
織太夫:はい。その時、こっちのイキを多分人形遣いは取りますよね。
いとう:それを利用するというか、表現するという。
織太夫:はい。
いとう:結構、いろんなタイプの人たちが書き残した朱がある台本というか床本を集めたりしているじゃないですか。
織太夫:集めているというか、書き写しですよね。
いとう:そうか、そうか。
織太夫:私は家に本があるから。1つしかないものは師匠のを書き写しておりました。あとは、亡師はこの10年くらい病気がちでしたので、その間はほぼ私が師匠の代役を勤められましたので千穐楽まで無事に勤めますと「ご苦労さんやったな!御礼にお前におやっさんの床本をそのままやる。持って帰ってええわ」って。本来は、書庫から出してきて、お借りして舞台を勤めますと、ありがとうございましたってお宅へお返しに上がるところを、師匠は私にくださいました。
いとう:織太夫さん、そもそも部屋が資料だらけだもんね。
織太夫:資料だらけ。
いとう:ものすごい量の過去の音源がピタっときれいに並んでて、本がピシッと並んでて、あれがすごく重要な資料なんだろうね。
織太夫:そうです。元々はシャレで言っていた「坪井文庫」というのを法人化の準備をしていまして、「坪井」っていうのは私の本名なんですけど、元々坪井家にお預かりしている資料、綱太夫図書(八代目綱太夫師が遺してくださった資料)、山城図書(祖父師山城少掾が受け継がれた床本)とか松之輔文庫(野澤松之輔師の朱入り本)や見台や裃等が入ります。
いとう:全部入る。ひゃー。
織太夫:この間も静岡へ行った時に、ダジャレで坪井文庫の資料を公開しますって言って、これは西のディズニーランドって言われてまして、TDL、坪井デジタルライブラリー。東京ディズニーランドじゃない(笑)。浄瑠璃好きの夢の国というのがデジタルの中にできるって言って。
いとう:そうか(笑)。
織太夫:その他にも色々な資料を個人的にクラウドに入れたりもしてます。
いとう:芸談なんかが入っているとニュアンスがいろいろ分かるもんね。あのさ、前からそうだけど、どの時間こんなことやってるわけ?(笑)自分の稽古もやってるわけだし。
織太夫:こういうことは大体夜中です。寝ないで延々やってるんです。とにかく寝ない。「織太夫寝ろ運動」が始まってる(笑)。
いとう:「織太夫寝ろ運動」ね(笑)。そうだよ。
織太夫:「#織太夫寝ろ」です(笑)。何やってんだと。早朝6時とか普通だし、4時5時から色々アップしたりするし。夜中2時3時のこともあるし、何やってんだと。
いとう:そう。いつが寝てる時間なんだろうという。
織太夫:ほとんど寝てない。寝るときは気絶してるから。
いとう:あははは(笑)。
織太夫:寝ようと思って寝ないんです。充電が切れた状態で、
いとう:落ちる?
織太夫:落ちる。
いとう:それは変わってないんだ。さすがに随分変わったろうと思って、今回話を聞こうと思ったけど、1つも変わってないんだね、咲甫時代から。
織太夫:はい(笑)。
いとう:よくこの体力が持つわ。でも、それをやることが、ことのほか面白いからなんだね、自分にとって。
織太夫:そうです。だから、今、稼いだお金はほとんど全部綱太夫家の墓の再建に注いでます。墓を建て直して、法要も全部してます。
いとう:イベントもやってるし、墓参りもやってるし。
織太夫:その辺のことをするにも、とてつもなく早起きしてやっていくしかないんです。神詣で、先師・祖先供養、若手の会などですよね。この間は、八代目のお師匠さんがやっていた「大序会」を復活させるということを発表しました。
いとう:あ、昔はそういうのがあったんだ、若手に対しての。
織太夫:はい。かつて八代目が自宅で大序会という、自分の弟子だけじゃなく、(通し狂言で)大序を語るような若手に勉強させる場を開いていて、今なら碩太夫君以下の太夫全員にチャンスをということで、僕は株式会社竹本鶴鳴會というのを作ったので、それを使ってやろうかなと。そうしたら、たまたま来年アメリカで自主公演をやることにもなっちゃって。
いとう:えっ、どういうこと?
織太夫:アメリカで文楽の公演を自分でやるんです。
いとう:自分でって、自分だけで行くわけじゃないでしょう?みんなでしょう?
織太夫:はい。人形さんも連れていく。
いとう:全プロデュース?
織太夫:全部。
いとう:すごいね。しょうがないね、もう(笑)。
織太夫:『曽根崎心中』の「天神森の段」や『本朝廿四孝』の「狐火の段」をポートランドでの公演を考えてます。そうそう、11月から道頓堀の「はり重」で「道頓堀 播重席」で八代目綱太夫師匠が再興させた『大序会』を『令和 大序会』として弟子だけではなく中堅・若手の研鑽の場として再興させるんです。はり重の3階の大広間はめちゃくちゃいい雰囲気で今度ご一緒しましょう。
いとう:そうだったんだ。
織太夫:普段80人入る宴会場で、ちゃんと提灯もあって、興行できるんですよ。
いとう:いいところですね。
織太夫:戦後まであった「播重席」という娘義太夫の寄席があって、それを再興しようって話でね。(大阪)松竹座が閉館っていうニュースも出て、何か発信せなというんで、それじゃ、播重席を復活しようと。
いとう:それは素晴らしいことだね。
織太夫:地元ミナミの企業が協力して会場を貸してくれて。地元のロータリークラブの有志が印刷物を製作することを資金面で支援をしてくれたりする。そして最近こんなこともありました、あとアメリカ公演のために法人のドル預金の口座も作っていましたら、銀行さんから「私たちで何か坪井さま“文楽のすゝめ”の活動でお役に立てることございませんでしょうか?」と嬉しい申し出があって。実際に先週『道頓堀 播重席』と『令和 大序会』に対して金銭的なご支援をいただきました。
いとう:へえー、素晴らしいね。銀行も先のことも見てるんだろうね。
織太夫:地域貢献につながるので重要で、はり重を文化のホットステーションにしようと。それと、僕は今ポッドキャストもやってるんですよ、月2回。
いとう:何だって?(笑)月2回ポッドキャストやってるの?
織太夫:スポティファイで番組あるんです。『文楽のすゝめ オリもオリとて』って言うんです(笑)。毎月5日と20日で。
いとう:何時間ずつやってるの。
織太夫:大体30分って言ってるんだけど、しゃべり過ぎて40分になるんです(笑)。
いとう:なるだろうな(笑)。
織太夫:神田伯山さんと一緒にラジオをやってる笑い屋シゲフジさんっていう方がいるんですけど、
いとう:笑い屋。うん。たまに聞いてるからよく知ってます。
織太夫:彼、実は一橋大学を出て、早稲田大学の関連機関で講師もしている、伝統芸能の研究家なんです。で、笑い屋としてではなく、重藤暁という伝統芸能研究家として僕の話し相手になってもらってるんです。
いとう:そうなんだ。伯山ともやってるけど、織太夫ともやってる。でもその時はああいう笑いじゃないんでしょう(笑)。
織太夫:逆に僕の方が笑ってる。彼が番組を回す役割で、僕はずっとしゃべってるんですよ。
いとう:放送作家みたいなものだね。
織太夫:そうそう。あとは、和樂webでの「四季オリオリ」という連載もあります。
いとう:何、また違うやつもあるの?(笑)
織太夫:連載は1年以上続けていて、ポッドキャストも46回以上続いてて。今忙しい。ずっと忙しい。
いとう:今じゃなくて、ずっと前から忙しいよね。
織太夫:ずっと忙しい。だから、いろんなことやり過ぎてて。
いとう:前に血尿出てなかったっけ?
織太夫:出た。
いとう:出てたよね(笑)。
織太夫:働き過ぎ(笑)。
いとう:だから俺、休んだほうがいいって言ったじゃん。全然休んでないじゃん!(笑)
織太夫:動いてるか、しゃべってるか、舞台に出てるか、食べてるかしかない。あと気絶するように寝てる。
いとう:ちょっとでも寝てくれるんだったら、まだしも安心ですよ。
織太夫:血尿も血便も出ました。
いとう:それは治ったんでしょうね。
織太夫:治った。今も、3年ちょっと前に糖尿病がすごい数値になっちゃって。
いとう:あっ、そうなの?
織太夫:糖尿すごかった。
いとう:やばいじゃん。気をつけて、本当に。
織太夫:大変。
いとう:だって疲れになってくるからさ。
織太夫:そうそう。これが大変なことになって、芝居休まされました。
いとう:休まされたっていうか、休んでください。
織太夫:11月末で文楽協会の健康診断の血液検査で引っかかって、何とかセンターの人から坪井さんに至急連絡を取りたいんですって、病院から直接言われて。結果を知らされる前にですよ。
いとう:それはすごいことだよ。
織太夫:HbA1cって6.0以上になるとでアウトでしょう。それが12を超えてた。死ぬって言われた。
いとう:それ得意気に言ってるけどさ、得意になることじゃないよ。治したほうがいいんだって。
織太夫:そうそう。めちゃくちゃ語り過ぎてて、白血球の数値とかが基準値の97倍とかなってて、何でそれで生きてるのか分からないって言われて、でも何でか舞台はご機嫌でやってて。
いとう:大丈夫なの?(笑)
織太夫:大丈夫ですよ。
いとう:ちゃんとやってください。ポッドキャストと同じぐらいにちゃんとやってよ。
織太夫:どういうこと、それは?(笑)
いとう:どういうことって(笑)。体のケアもってことですよ。休みも仕事としてやらないとさ。具合悪くなっちゃったら全てが進まないんだから。
織太夫:みんなに迷惑かけるからね。
いとう:そうそう。ていうか、せっかくのアイデアが実現しなくなっちゃう。
織太夫:結局、スポンサー集めから交渉から全部1人でやるから。
いとう:そうなんだよ。それを1人でやり過ぎるからね。
織太夫:疲れちゃう。杉本文楽とかも最初のとき大変で、めちゃくちゃ動いてました。でも、伯山さんもそうでしょう。そういう人でしょう?
いとう:まあまあ、そうですね。そういう人ですね。もう少し周りの人に投げていると思うけど。でもまあ、しょうがないよね。それが織太夫というものだから。
織太夫:織太夫という生き物。
いとう:生き物。こういうタイプ、今までにいたのかな?
織太夫:八代目のお師匠さんがこんな人だったと思います。
いとう:あ、そうなんですか。
織太夫:あれもやりたい、これもやりたい。
いとう:さっき言った大序会を持ったりして。
織太夫:だから僕、八代目のお師匠さんのまねばっかりしています、ずっと。
いとう:そうなの?本当に?
織太夫:うん。本名も巌(八代目綱太夫)、忠男(九代目綱太夫)、英雄って、名前までそっくりだし(笑)。
いとう:まあ糖尿は気をつけてやりながら、好きなことは今までどおりやってもらってね。
竹本織太夫編(その5)へつづく
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