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国立劇場
いとうせいこうによる 文楽の極意を聞く

桐竹勘介編(その4)

桐竹勘介編(その3)よりつづく

いとう:それで問題のさ、その髪型なんだけどさ。

勘介:あ、はい(笑)。

いとう:うん。ついにその問題。それはどう師匠に言ってからやったの。

勘介:いや、言わずにやりました。

いとう:言わずにやったんだ。

勘介:はい。

いとう:それはいつやったの。

勘介:僕、すごい直毛で、言うたら武蔵坊弁慶みたいな髪型になるんですよ、伸ばすと。

いとう:ばさっと。

勘介:こうツンツンに伸びるので、舞台出る時にジェル付けても収まらないんですね。

いとう:ああ、なるほど、なるほど。特に出遣い。

勘介:出遣いする時に。で、短髪にしたり、横刈り上げたりもしたんですけど、やっぱり奇抜になり過ぎる。まあ、パンチパーマが何言うてんねんて感じですけど(笑)。

いとう:そうだけどね(笑)。まあでも遠くから見たら、まさかパンチと思わない。

勘介:わからないですか。

いとう:意外にわからない。

勘介:あ、ほんとですか?

いとう:うんうん。

勘介:そうなんですね。

いとう:そうなんだと思って、今日。

勘介:横とか刈ったら青くなったりして、すごい奇抜になるので。

いとう:うんうん。

勘介:で、いろんな髪型して、いろいろ怒られて。

いとう:いろいろ怒られたんだ。

勘介:はい。アイパーってあるじゃないですか。

いとう:うーん、アイパー。

勘介:でこう、根元押さえて、あの、途中折って、で、きれいなオールバックにしてたんですけど、床屋の先生が面白がって、なんか癖出し始めて。自分では言ってないんですよ、巻いてくれなんて。

いとう:えっ、何?

勘介:「巻いてくれ」って一言も言ってないんです。

いとう:言ってないの?(笑)

勘介:言ってないんですよ。床屋の先生が「ちょっとやってみる?」みたいな。で、毎回毎回同じやから、先生が何となく緩く巻き始めたのがきっかけで、「何かいいですやん」て、「いいやん、いいやん」てなって。

いとう:使いやすいし。お風呂入っても。

勘介:セットも楽やし。で、だんだんこう、巻きが強くなって(笑)、わかりづらく段階を踏んで、みたいな。

いとう:うーん、で、こうなってんの。

勘介:はい。最終的にこうなりました。

いとう:いつ師匠は気付いたのよ。

勘介:いや、たぶん最初から気付いたと思うんですけど(笑)。

いとう:うん。あいつ巻いてんなっていう話になる、なるでしょうよ。

勘介:なります、なります。

いとう:うん。何のつもりなんだっていうことになんないの。

勘介:はい。でも、怒られへんかったですね、これは。まあ諦めてはるんでしょうけど、もう言っても無駄やろみたいな。

いとう:えっ、それって何年ぐらい前から、その特徴になったのは。

勘介:でも、10年ぐらいですかね。

いとう:で、この10年はもうこれでいってる。

勘介:はい。これでいっているはずです。

いとう:うーん。

勘介:今の床屋に行き始めて10年ぐらいですからね。

いとう:ああ、そうなんだ、そうなんだ。

勘介:なので、えー、そうですね、20歳過ぎ、21ぐらいから、多分たぶんこれにしてるんじゃないかな。

いとう:でもこれで出遣いしちゃったら、これの勘介ってことになってくるから。

勘介:そうですね、もうやめられへん。

いとう:勘介の「かしら」は、これだよね(笑)。

勘介:そういうことになると思います。

いとう:パンチパーマっていうかしらだよね、これね、そうなってくるよね。

勘介:なってきます、はい。

いとう:それでさあ、今日もさ、その三つ揃えのスーツで来てるからさ、もうえらいなんか気合の入ったやつ来た、俺の方に来たなって思ったんだけど、それはさ、もうパンチに合わせてってんじゃもう(笑)。

勘介:まあまあ、そうですね。

いとう:合わせにいってるよね。

勘介:はい。

いとう:それ、それはいつから合わせてってるの。じゃあこれもう頭に合わせようみたいなことになったの?

勘介そうですね。でもこの格好も昔からです。師匠に言われた言葉がありまして、あの、「服装にはABCがある」って言われて、「Aがスーツやと。で、Cが今おまえがしてる格好やと。Bの格好できるようにせえ」って……。

いとうああ、そうなの。

勘介若い頃に、17、18ぐらいに言われまして。

いとうあ、公の所にも行けるようなことですかね。

勘介そうです。まあ僕、けっこう服装がすごかったんですよ。

いとうどういうことですか。

勘介やっぱそれまでは、あんまり楽屋に行く格好じゃないかったりとか。B系というか。

いとうああなるほど。

勘介ジーパンはいて、腰パンして、パーカー着てみたいな。

いとうなるほど、なるほど、ちょっと下手すりゃあ、ネックレスもしてぐらいな格好だった。

勘介はい。そんな格好してて、師匠に言われて、ああじゃあもうジーンズはくのやめようと、Tシャツ着んのやめよう、襟付きのシャツ着るようにしようって、

いとう常にやると。

勘介そう決めて。お客さんが来はる時、師匠から一緒にこれから来いといつ言われてもいいような格好しておこうと思って、スラックスのズボンにして、スニーカーでなく革靴を履くようにしました。

いとうすごいね。

勘介お客さんの前に出た時はジャケットを着るっていうのも決めたんで、そんなんで何となくそういうふうな服装に寄ってったら、どんどんどんどん、あの、そっちというか、あの、かっちりし過ぎてるというか。

いとうどこの組の人なんだろうなみたいになるよな。この頭だからだよ(笑)。

勘介あ、すいません(笑)。でも、着てる服は、みんなが買う所で買うんですよ、ちゃんと。

いとういや、全然分かっているよ。それちゃんとした、スリーピースですよ。

勘介はい。なのに、なぜかそういうふうに。

いとうなぜかっていうか、まあ、雰囲気出しているでしょう、自分もさあ。

勘介わかんないです。

いとう面白いと思って。

勘介いやいや。でもまあ余談なんですけど、15歳の時に内弟子に入って、師匠が「今日ご飯面倒見られへんから、勘次郎、お前ちょっと今日、飯連れていったれ」「ああ、わかりました。じゃあご飯行こうか」「ああ、お願いします」。ご飯連れて行ってもらうじゃないですか。それで僕15、16です。兄弟子が26ぐらいやったかな。当然、ビール頼んだりして、僕はコーラ頼むじゃないですか。ほんで店員さん来て、僕に「はい、ビールです。(兄弟子に)コーラです」。こんなことが何回もあって(笑)。

いとうあははは(笑)。いや、違うんです、違うんですって。

勘介それで最後お会計、僕のとこに伝票持ってくるんです。どんだけやねん、みたいな(笑)。

いとうやっぱ貫禄出ちゃってるからな。

勘介なんでしょうね。

いとう出ちゃってるんだよ。眼鏡はいつからそれなのさ。細い金属のそれ系なのよ?それ合わせにいっていんじゃん、確実に。

勘介でもね、違うのは似合わないんですよ、なんか。

いとうあ、他のやつが。

勘介他のやつが。

いとうそんなことないと思うけどね。

勘介いや、でもほんと眼鏡屋さん行っても……。

いとうあれ違うなとか。

勘介いろんな眼鏡かけるんですよ。黒縁だったりとか、いろんな眼鏡をかけるんですけど、何かしっくりけえへん。

いとうしっくりこない。

勘介で、これをかけるとやっぱりしっくりくるんです。

いとうだから、パンチだからだよ(笑)。パンチパーマだから。そこありきから始まっちゃってるからだよ。

勘介なるほど。

いとうなるほどじゃないよ(笑)。

勘介パンチをやめたら変わるんですか。

いとう変わるんだけど、でもまあ確かにもうみんなね、勘介くんがこのままでいてほしいなとは思ってると思うよ、やっぱりさ。こういうことをする、あの、座員を見たことがないっていう。

勘介で、僕がパンチパーマ当て始めたら、若手がこぞってパーマ当て始めて。

いとうああ、はやっちゃったんだ。

勘介はやっちゃって、パーマ当て始めて、「おまえ、誰のおかげでパーマで当てられるようになったと思てんねん」「ええ、勘介さんのその頭が許されるんやったら、これも許されるでしょう」って、みんな。何かおしゃれパーマみたいな感じで。

いとうああ、ふわふわっとさせたりして。

勘介パーマ当て始めて。

いとうマジそれ。勘介一家じゃん。

勘介そうなんですよ、

いとう一家だよ、それ。

勘介パーマ当て始めてみんなおしゃれに。

いとうああ、なるほどね。

勘介だから、まあそれもみんなこれ(パンチパーマ)が許されているから、師匠連中も怒れへんし、言えへんし、目立てへんし。

いとうまあまあそう目立たないかな。どうかわかんないけど。いやだから、咲甫太夫さんの頃から織太夫さんがびたーっと油付けて髪を撫でつけてさ、そしたら割と他の太夫もさ、びたーっと油付けるようにはやりがあったじゃん。

勘介そうですね。

いとうそん時は、そんなに違和感なかったじゃない。勘介くん出てきた途端に、これは新時代が来たと。しかも人形遣いから出てきた。

勘介そうですね。

いとうこの一気にね、流れが来たじゃない。すごい面白い、いいなとは思ってる。

勘介ありがとうございます。

いとうほんとはね、思ってる。でも一応俺もいじっておかないとさ。

勘介そうですね。

いとうでしょう。立場があるから(笑)。

勘介もう皆さんにいじっていただきまして、ありがたいことです(笑)。



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