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桐竹勘介編(その1)

いとう前にしゃべった時、つまり有楽町よみうりホールの時は、あれ何か月前でしたっけ。去年?もっと前?
勘介あれ去年の3月でしたかね。
いとうで、あの時にお客さんの前でいろいろ伺って、簑紫郎さんも一緒にいた?
勘介玉翔さんでしたね。
いとうそうだ。玉翔さんが主遣いの説明をして。
勘介そうですね。
いとうじゃあ左と足はどうすんだっていうところを、勘介くんが実演してくれたじゃない。
勘介はい、そうですね。
いとうだから俺、足遣いのイメージがすごくあってさ、で、「なかなか上にいけないんですよね」って言うからさ、そう思い込んでて、でも今年観に行ったら出遣いしててね。びっくりしたし、うれしかった。あれいつだったかなあ。出遣いはいつ頃から?
勘介コンスタントに毎公演、役をいただいてますね。
いとうあ、そうなんだ。
勘介はい。
いとうということはじゃあ、主遣いを。
勘介主遣いもします。
いとうあ、そうなんですね。
勘介足遣いと主遣いは並行でやらしてもらってます。
いとうあ、並行で。そこに左(遣い)は入るんですか。
勘介そうですね。あなたは足遣いですよ、左遣いですよ、主遣いですよというのはあるんですけど、足遣いのうちに、左遣いもしながら足遣いもしつつ、みたいな。
いとうああ、なるほど、なるほど。
勘介で、足遣いをずっとやっている中で、だんだん主役の足が遣えるようになるんですよ。そうしていると、主役の足遣いが徐々になくなってきつつ、端役の左遣いに上がっていくんです、修業的に。
いとうなんか、オタマジャクシがこう育っていくみたいな……(笑)。
勘介足が生えてですね。
いとう尻尾が消えて的な。
勘介そうです、そうです。
いとうそういう形になって上に上がっていくんだ。
勘介はい。それで、主役の足遣いがなくなってきて、やっと左遣いになれる。左だけやるようになると、「あなたは今、左遣いですよ」ってことになるんですよ。
いとうそれを誰かに指示されるんですか?
勘介言われないです。
いとう何となく?配役の問題でということですか。
勘介そうです。足がなくなってきて、左遣いだけになったら、あ、左遣いになったんだな。
いとうなったんだなって、自分から気付かなきゃいけないんだ。
勘介そうです、そうです。

いとうで、左になるとかそういうことは、文楽協会の人が決めてるの?
勘介いやいや、あの、小割委員というのがいまして。
いとういるんだ。
勘介はい、僕の(桐竹勘十郎)師匠と(吉田)玉男師匠が小割委員というのをやってまして。
いとうコワリイイン?
勘介はい。
いとうコワリというのは?
勘介はい、「小さく割る」って書くんですけど。
いとう役割を小さく割るんだ。
勘介配役が出るじゃないですか。で、その後にそれぞれの役の左を誰に、足を誰にって決めるのは、小割委員の師匠が決めるんです。僕の師匠、玉男師匠が普段の舞台見てて、入ったばっかりの人形遣いやったら子役の足付けたりとか、すぐ出て引っ込む役を付けるんです。で、だんだん「こいつ遣えるようになったな」思われると、ちょっといい足が付いて、それでまた「こいつ、けっこう足いけるやん」ってなってくると、主役の足を付けてくれるんです。
いとう小割委員っていうのは2人以外にもいて、何人かでっていうこと?
勘介いえいえ、勘十郎師匠と玉男師匠の2人で。
いとう2人で決めていくんだ。
勘介2人っきり。部屋で2人で、どうする、ああするって決めてるんやと思います。
いとうまあ演出、演出家だよね、それはね。
勘介だからそろそろこいつ左に上げようかといったら、ちょっとした左を付けてくれたりとか。でも、師匠がどういうお話をしてはるかは、僕らは見たことないんで。わからないんです。
いとううわ、すごいもんだね。

勘介今月も5月の小割が出たんですけども。
いとうあ、もう出た。
勘介その5月公演の小割を見て、公演中の1日のスケジュールが決まるわけですから。
いとううん、そうだね。
勘介どこの足いくか、どこの左いくか、どこの口上を言うか、介錯(舞台で小道具の出し入れなどを手伝うこと)どこなのかっていうのを見て、それでみんなそれぞれ勉強して。
いとうそういうことなんだ。さっきエレベーターの中で話しかけたことだけど、まあ今月は『義経千本桜』の通しだから、駿河次郎は最初に出てくるんだっけ?
勘介そうですね、わりと最初の方から。場面的には、「堀川御所」と、「伏見稲荷」と「渡海屋」に出るんで。
いとうまずはその主遣いをやって。
勘介そうですね。
いとう任されて。
勘介はい。
いとうで、えーと、最後の「河連法眼館の段」にも出てくるけど、その間に、足に回ってとか言ってなかった?
勘介はい、言ってました。
いとう何て言ってたっけ。
勘介「足に回ってます」と。
いとうつまり主遣いもしてんだけど、ここは足とかっていうこともあるんだ。
勘介あります、あります。

いとうそれはどこの足をやっているんですか、ちなみに今回は。
勘介えーと、一部は(主遣いの)役があって、着替えの時間とかもあるので、それだけだったんですけども。今回は、同じ駿河次郎を(吉田)玉彦さんが前半、僕が後半で、そうすると足をいっている役も前半と後半で違ってきます。
いとうあ、そうか。
勘介役がついてない前半の第一部は亀井六郎の足いったり、相模五郎の足いったりっていうことをして、で、後半になると玉彦さんとその仕事を全部入れ替えるんです。
いとうはあ、そうなんだ。
勘介玉彦さんがやっていた役は後半が僕になって、僕が前半にやってた仕事を玉彦さんに引き継いで、って感じで、中日で交代するんです。
いとう中日のよく交代がある時は、そんな細かい交代もあるんだね。
勘介そうです。だから、先輩方でも左を交代されている方もいてます。
いとうえっ、偉い人も、えーと、左に回ってる場合がある?
勘介あります。人がいない場合は。
いとうそうか、だって小割してて、ここ足りないとか。
勘介人が足りないなってなったら。
いとうなるもんね。
勘介はい、だから上の方でも左に。
いとうえっ、そうなんだ。
勘介あります、あります。
いとうじゃあ、ほんとにあの左遣い、足遣いの黒衣の中をよーく、よーく見ないとわからないですよね、我々には。
勘介そうです。若手の左遣いは、先輩が来ていただくことも多いですね。
いとうえっ、自分が主遣いで。
勘介僕が主遣いの時には、基本的に上の人が左遣いに付きます。
いとうえっ、何、どういうこと、どういうこと?
勘介僕は足遣いという立場なので、主遣いをする時は、先輩が左に付いてくれるんです。サポートというか。
いとうそうか、それで人形の動きが一つになるっていうことなの。
勘介一つになれる。
いとうで、それにさらに左から学ぶことも、主遣いとしてあるっていうことだ。
勘介そうです。
いとうでも、今の立場はまだ……。
勘介足遣いです。
いとう足遣いなの。
勘介はい、そうです。
いとういつになったら左になるの?
勘介それはもう後輩が増えて、僕という足遣いが要らなくなれば。
いとうあ、そうだ、別の足遣いが入ってくれれば。
勘介そうです。ところてん方式で、
いとうあはは。ところてんか(笑)。
勘介左遣いに押し出されるんですけど。
いとううん。
勘介後輩が入ってこないと、足遣いの絶対数って決まってるので、そうするとなかなか左に上がれない。まあ、今はちょくちょく左遣い、子役の左であったりとか、ちょっと出て引っ込む役の左を持たしていただいてるんですけど。でもまあ基本的にまだ足遣いなので。
いとうすごいな、足いきながら主遣いもいっているってことでしょう、だって。
勘介そうです。だから場面によっては主遣いいって、次の場面、左遣い。次の場面、足遣いですよっていうことを、1日めまぐるしく動いているんです。

いとううわ、みんなそんな感じでやってんだ。全員野球だ。
勘介そうですそうです。だからいろんなところを守っているわけです、みんなが。
いとうええ?
勘介いろんなポジションを守っている感じです。
いとうそうそう、ポジション守っているのね。それが1回でも風邪でもひこうもんなら、ガタガタだよね。
勘介だから、コロナの時は大変でした。誰かがコロナになったってなったら、誰が代役いけんねんとなって、さらに代役の代役とかもありましたからね。
いとううわ、途中から。
勘介代役いっている人がコロナで休んだら、違う人が代役いかないといけないから。
いとうそりゃあそうだ。
勘介代役の代役みたいなこともあって、結構大変でした。
いとうへえー、でもまあ基本的には動きはみんな頭に入っている。
勘介頭に入っている。
いとうだからすぐ出れる。
勘介すぐパッといけるように。
いとうそれを知って観ると、ますます面白くなりますね、人形が。
勘介そうですね、左も足も、場面によっても変わったりするんですよ。
いとう同じ人形なのに。
勘介違う左遣いと違う足遣いが付いたりするんです。
いとうそうなんだ。
勘介だから上の師匠クラスの遣う人形になると、場面ごとに付く足遣いが違ったりして、例えば動きが少ないところでは、そこまで経験のない足遣いを付けたりとかもあります。
いとう動きがそんなにないから。
勘介はい。動きがないところで勉強させて、で、動きがある大事な場面はまた違う人形遣いが付いたりってのがあります。
いとうへえー、そうなんだ。
勘介だから、次々に変わっていくんです。
桐竹勘介編(その2)へつづく5月文楽公演は
5月9日(金)から27日(火)まで!(休演日:15日(木))
チケット好評販売中
国立劇場チケットセンターはこちら※残席がある場合のみ、会場(シアター1010)にて当日券の販売も行っています。
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