助成事業事例

文化芸術振興費補助金助成事業令和3年度助成事業事例集

大河への道

株式会社 デスティニー(助成金額:21,400千円)

© 2022「大河への道」フィルムパートナーズ

活動概要

「地球の大きさを知りたいのです」

そんな夢とロマンを抱いて55歳から地図作りを始めた伊能忠敬。1821年、遂に日本初の実測地図「大日本沿海輿地全図」(伊能図)が完成。しかし、なんと忠敬本人はその3年前に亡くなっていた!えっ?
ならば地図をこしらえたのは誰だ?!

主人公は忠敬ゆかりの地・千葉県香取市役所の総務課主任。市の観光支援策を求められた彼が、苦し紛れに提案した「伊能忠敬の大河ドラマ実現」が思いがけず採用されてしまう。意を決して、忠敬の歴史を追うのだが、やがて衝撃の事実が明らかとなる。

そこから200年の時を遡り、物語は一気に江戸時代へ!
ついに日本史の常識がひっくり返る?

そんな腹を抱えて号泣必至の、立川志の輔による新作落語「大河への道―伊能忠敬物語―」に胸打たれたのは俳優・中井貴一。なんとしても映画にしたい、時代劇として残したいという、彼の熱い想いによって、落語「大河への道」は〝映画への道〟を歩み始める。

しかし、忠敬の測量同様にその道も平坦ではなかった。

1枚がタタミ一畳分もある伊能図214枚のレプリカを香取市の体育館一面に拡げることから、まず撮影への道のりはスタート。そこから現代劇2割、時代劇8割の物語は、困難かつ波乱含みの測量を続けて行くことになるのだが・・・。

さて、地図を作ったのは果たして誰なのか?
撮影はそれを見つけるための〝旅〟だった。

そしてスタッフ、キャスト一丸となっての〝旅〟を終え、新作映画「大河への道」は、世に送り出された。

2021年8月クランクイン、12月初号試写。
2022年5月20日より全国劇場公開。上映時間112分。

© 2022「大河への道」フィルムパートナーズ

助成を受けて

2020年4月7日 第1回緊急事態宣言発出。
1ケ月半後にクランクインを予定していた「大河への道」の撮影延期をその日の内に決めた。撮影所で準備を進めていた製作部、演出部、美術部などに作業の中止を連絡。彼らが言葉を失うのがわかった。
3月には東京オリンピックの1年延期が発表され、近々緊急事態が出るとの話題がマスコミを賑わしていたので、延期の対応はそれなりに考えてはいたが、いざ決定してみると、40作を超える映画製作の中で初めて経験する事態に、正直、不安が広がる。
20年ほど前、クランクイン直前にロケ地の宮古島のさとうきび畑が台風で全滅したことがあったが、バックアップとスタッフの尽力で、撮影は1週間後に無事に開始された。しかし今回の相手は未知のウイルスである。替えのきかぬ俳優陣は再集合可能なのか?延期によって費用はどれだけ膨らむのか?果たして緊急事態はいつ終わるのか?何より世の中は安全なのか?
調整できる最短の日程は1年2か月後の2021年8月だった。偶然にも、その頃には延期されたオリンピックも開催される予定であり、状況は今より好転しているだろう、と思い込むことにする。
そして年が替わり、社会も徐々にリスタートへと舵を切り始めた頃、新たに3ヶ月の準備期間を経て2021年8月6日、映画「大河への道」は幸いにもクランクインできた。奇しくもその日、女子バスケットチームがフランスを破って決勝進出。幸先は良かった。

しかし現実は厳しい場面の連続だった。何より4回目の緊急事態宣言の真っ只中で、東京では過去最大の感染者数を記録し、コロナ禍は絶頂。万が一メインのキャストやスタッフに感染者が出れば、当時は2週間の隔離が余儀なくされ、その間撮影は止まることになる。そうなればスケジュールの再々調整は不可能となり、それはすなわち作品自体の製作中止を意味する。
感染自体は非難されることではないが、極力その危険を避けるための最大限の感染対策ルールを掲げ、これまでにない緊張感の中で撮影は開始された。
感染対策の専門家による撮影時の細かなチェックと指導。朝起きたらまず検温報告。撮影場所のいたるところに手指消毒液と足拭きマットが置かれ、スタジオではワンカット毎に何台もの大型扇風機が、マスクを外して本番に臨んだ俳優たちを狙ってマイクロ飛沫を吹き飛ばす。室内ロケも含めて、少なくとも20分に1度、5分間の換気タイム。したがって撮影時間は通常の1・5倍以上。ロケバスでの移動は座席1つ空けての乗車のため、用意する車両数は2倍。そしてPCR及び抗原検査を俳優部は3日に1度、エキストラも同様。スタッフは撮影場所を移動する毎に全員検査。検査総数は仕上げ期間も含めて1500回以上に及んだ。
たぶん他の撮影隊も同じだったはずだ。「大変だ」の声はいたる所から聞こえたが、医療現場や介護施設等で従事する方々の労苦を思えば、その「大変さ」は我々の比ではなかっただろう。
たかが映画である。しかし、されど映画でもある。
決して「不要不急」な代物ではない。そう信じて我々は完成を目指す。
結果、初号試写までの6か月、ただ一人として感染者を出すことなく、目的は果たされることになる。
ただし延期費用も加え、予算はトータルでは10%近くも膨んだが、それは町場の映画屋にとってはかなり大きな数字だった。
作品によっては追加製作費が用意されたところもあるようだが、未知の感染症によって、どこもかしこも経済的に苦しいのは変わらない。美術部がセットを設計し直したり、撮影部がサイズやアングルを変えたり、スタッフたちの努力によって、慎重に撮影、仕上げを続け「大河への道」は完成を目指した。

助成の意義

通常の映画製作では、様々な保険に加入し不測の事態に備えます。
また、保険でカバー出来ない事態にも「経験」により予備費の活用でしかるべく対応します。しかし、今回は未知の感染症対策に製作費が大きく膨らむ中、助成を受けたことにより、当初目指した形での映画製作をなんとか実行することが出来ました。深謝します。

また公益性という意味では、本作の影の主人公である伊能忠敬と、彼の遺志を引き継いだ伊能隊の面々がこしらえた正確な日本地図は、歴史的にも大いに公共に利したでしょう。日本の植民地化を狙ったイギリス艦隊が伊能図を前にして、これほどの地図を作製する国を征服することは無理だと引き上げた事実が、それを証明しています。
そんな公益性のど真ん中にいる人物たちを描いた本作も、スクリーンを通じて様々な公益性を世に問うことが出来たのでは?
……などと勝手に思っています。
芸術文化は、決して不要不急ではないと、強く思う次第です。

今後の活動

映画にして公開したいと思える物語があれば、今後もトライしたいと思います。

株式会社 デスティニー

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