連載企画「まくがあいたら」
【お茶の水女子大学附属小学校×国立劇場】図画工作科授業「まくがあいたら」
授業レポート➀ 幕ってなんだろう?
★もくじ★
◯はじめに
◯埋忠先生のお話
お芝居の、はじまりはじまり/劇場をはなやかに/ファンからの贈りもの/一まいの布から広がるせかい
◯横山さんのお話
定式幕/お芝居のとちゅうでつかう幕
◯質問タイム
はじめに
伝統芸能をみんなに知ってもらうとりくみのひとつとして、国立劇場は、お茶の水女子大学附属小学校の図画工作の授業に協力したよ。その様子をこれからリポートしていくね。そのあと、お茶小のみんなの作品や、先生たちがお話につかった資料も紹介するからぜひみてね。
授業のテーマは歌舞伎の「幕」。お芝居がはじまるときに開くあの幕や、お芝居中に背景としてつかわれたりもする、幕・・・。読んでくれているみんなも幕や歌舞伎について想像をひろげたくなるようなシリーズ企画、さっそくはじまり!
ある秋の日、からっぽだった教室にみんなが入ってきてにぎやかに。
今日は幕についてのお話をきいて、「幕ってなんだろう?」を考えはじめるよ。そのあと2回の授業で、自分の幕をつくり、さいごの回でふり返りをするんだ。
全体の授業者は、お茶小図画工作科の小沼律子先生。そして、今回の話し手はお茶の水女子大学の埋忠美沙先生と、国立劇場の展示や資料の調査を担当している横山陽一さんだよ。
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埋忠先生のお話
最初に、埋忠先生のお話。
「歌舞伎って知ってる?」という問いかけに、「知ってる~!」と元気な声がたくさん!
はじめて聞いた!というひとは、ぜひ「歌舞伎ってなあに」を読んでみてね。
埋忠先生(以下「う)」)東京では国立劇場や歌舞伎座という劇場で歌舞伎をみることができるんだけど、ちょっと中に入ってみよう。・・・あれ?舞台に大きな布がかかってる!
う)これはなんだろう?
「まく~!」
う)そうだね!この三色は歌舞伎のシンボルなんだ。開くとお芝居がはじまるよ。
★お芝居の、はじまりはじまり
う)歌舞伎は江戸時代からはじまったお芝居。それでは200年前にタイムスリップして、にぎやかな劇場にいってみよう。
わあ、ちょうどお芝居をやっているね!ヒーローの活躍にお客さんがよろこんでいるよ。舞台の左上に、さっきの三色の幕がひっかけてあるね。
★劇場をはなやかに
う)あれ、右上にも別の幕がひっかけてあるよ。なんだろう。
「ほんとだ~」「お話をイメージしてる?」「おわりのときに使う?」
う)答えのひとつは、劇場をはなやかにすることなんだ。ちがう場面もみてみよう。
う)いまの三色の幕より自由でカラフルだね!劇場はわくわくする場所で、そんな劇場をはなやかにかざる役目が幕にはあったんだ。
つぎの場面にうつると、「わ~」と感嘆の声。天井や客席のうえにも幕があってごうかだね。
う)こういう幕はおかざりのためのもので、水引幕というよ。では、なんでこういう幕をかざるのか、どういうふうにつくったのかというと・・・?
★ファンからのおくりもの
う)実は、こうしたきれいな幕はファンからのおくりものだったんだ!
「え~!」
う)幕をよーくみると、こめられた特別なきもちがわかるよ。俳優さんの紋(俳優さんのお家のマーク)や、「進上=プレゼント」という文字があるね!
これをプレゼントして劇場にかざってもらことで、その俳優さんが人気ものだってみんなに伝わるし、好きな俳優さんがきれいな幕にかざられて、もっとかっこよくみえるんだね。
「そんなことしていいの~?」
う)よかったんだよ!いまでも襲名って言って、俳優さんがお名前を継ぐときに大きな公演をするとか、そうした特別なときは幕をプレゼントすることもあるんだ。
このあと埋忠先生が映してくれたいろいろなおくりものの幕のデザイン画に、「きれいー!」、「あのマークおにぎりに似てる!」などなど思い思いの感想が飛んだよ。鮮やかな絵柄ばかりで、これが大きな幕だったら目をうばわれちゃうな。
う)では、こういう幕はどうやってつくられるんだろう?・・・実は、みてきたような小さいデザイン画をもとにして、職人さんが大きな布に描いていたんだ!
「お~」「大変そう~」「むずかしそう!」
★一まいの布から広がる世界
デザイン画が一まいの大きな布になって、それが開くとなにがはじまるんだろう。
う)しまっている幕にあながあいていて、のぞいているひとがいるよ!劇場ではたらいているひとが「お客さんたくさんきてるかな?」ってみているのかなぁ。
「のぞいてるの気づかれそう!」
う)そうだよね。のぞいている昔の絵はたくさんのこっているんだけど、たくさんあるってことは、みんなけっこう気がついていたんじゃないかな?
そして、幕の右下では「お芝居がはじまります」と劇場のひとがごあいさつしているよ。もうすこしで幕が開いて、歌舞伎がはじまるんだね。
さて、三色の幕、飾りの幕、それにプレゼントの幕をみてきたけど、お芝居の中でつかわれる幕もあるんだ。ここで・・・バトンタッチ!
埋忠先生と横山さんが交代すると、「え~!」「いいところなのに!」とみんな興味津々!
横山さんのお話
さあ、横山さんのお話のはじまり。
横山さん(以下「よ)」)幕をたくさんみていくよ。「この色かっこいいなぁ」とか楽しみながらみてね。まずはさっきみた三色の幕。「定式幕」というよ。
よ)「定式」ってどんな意味かわかる人いる?
「きほんみたいなこと?」
よ)そうそう!お決まりの、定番の、みたいな意味だね。特徴的なのはこのストライプ。色のくみあわせをみんなで言ってみよう!
「オレンジ、みどり、黒~!」
よ)そうだね。オレンジは柿色、緑は萌黄色とよんだりもするよ。そして歌舞伎は、お姫様が主人公のお話も、大泥棒が主人公のお話も、どんなお話でもはじまりとおわりにこの幕をつかうんだ。
よ)これをみるとわかりやすいんだけど、舞台・・・舞台ってわかるかな?ひとが自分の体や言葉をつかってものがたりを演じる場所だね。そんな舞台と、その反対側の客席、つまりものがたりを演じる場所とみる場所を、分ける役目が定式幕にはあるんだ。
この幕は上下じゃなくて横に開くよ。実際に開くところをみてみよう。
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「お~」「足がみえてる!」
よ)いいところに注目したね!そうなんだ、機械じゃなくて人が開けてるんだよ。裏からみてみると・・・?
「こうやってれんしゅうしてるんだ~!」
よ)そうそう、おそすぎず早すぎず、自分の姿をみせずに幕を開けるの、じつはけっこうむずかしいと思うな。
ここで、国立劇場の定式幕でできたあるものをご紹介。
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「クマー!」「定式幕の色だー!」
みんなで順番にさわってみたけれど、ごわごわしててハリがあるかんじ・・・。これがもともと幕だったんだ!
(初代国立劇場メモリアルグッズとして受注生産されたテディベアで、現在は販売されていません。)
ここからはお芝居のとちゅうでつかう幕を紹介。
よ)これは浅黄幕。むかしは水色のことを浅黄色といっていて、上からつるしておいてパーンと落とすと、新しい場面が広がっているっていう役割。
こちらは霞幕。
よ)なんの自然現象かわかるかな?
「霧!」
よ)すごい!そうだね、霞って霧やもやのこと。霧がかってふわふわしている景色をあらわしながら、うしろで演奏するひとが準備していることも。歌舞伎はかっこよくみせたい演劇だから、準備中の様子はかくしておきたいんだ。
これは浪幕。
よ)ぼくがおもしろいなと思うのは、ものがたりの中でもみんなの生活の中でも、波にもいろんな波があるよね。のどかな海や荒れた海、想像をしっかりふくらませて描くのが大事だと思うよ。
そして山幕。
よ)これはひとが行けないようなすごい山の奥で修行してる、えらいお坊さんのお話につかわれている幕。山もいろんな山があるね。行くのに何日もかかるような遠くてけわしい山や、近所の森みたいな山・・・。たくさんイメージしてみて。
さて、歌舞伎のいろいろな幕のお話はここまで。
よ)このあとの授業でみんなが幕を描くときも、「楽しい!」とか「どんなお話なんだろう?」と感じるような幕をつくってもらえたらなぁと思います。
質問タイム
最後にみんなの質問を聞いてみよう! 気になったことはなんだろう。
質問➀「どうしていろんな幕ができたの?」
う)そもそも劇場は神さまのためにお芝居するところから始まったんだけど、幕はしめ縄から発展したもので、もとは場所を清める役割もあったんだ(郡司正勝「『幕』の意味」『郡司正勝刪定集』第二巻」)。そこからおかざりやお芝居のためにつかったりと、いろんなつかい方をするように変化してきたよ。
質問➁「一まいの幕から何びきのクマがつくれるの?」
よ)国立劇場はできてから約60年たって、建物としては一回お休みに入ったから幕も変身したんだ。国立劇場の定式幕は25mプールくらい大きいから、一まいからたくさんつくれるね。
う)幕はすごく大きいから、つかわなくなると取っておくのが大変。だからむかしの幕も、絵やデザイン画はあっても、実物はなかなかのこっていないんだよ。
質問➂「なんで三色で、柿色、萌黄色、黒、って決まったの?」
う)江戸の町でさいしょにお芝居をはじめた人が、えらい人からごほうびとして大切な布をもらう出来事があって、それをすこし染めかえて幕をつくったんだ。三色のストライプのデザインはここからはじまったんだよ。それを他の劇場もマネをしてこの色合わせがうまれたんだ。この色の由来はわからないんだけど、劇場によってつかう色や色の順番がすこしちがうんだよ。そのなかの市村座という劇場の色や順番が、いまの国立劇場の定式幕につかわれているよ。
さて、幕についていろいろなお話をきいて想像をめぐらせてきたね。次回は自分のオリジナルの幕をつくってみよう!つづく!






