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国立文楽劇場

勝手にパリ公演レポートと、究極のエロス・中将姫

たきいみき

2018年が日仏友好160年に当たることを記念しこの秋から芸術の都パリを中心に「世界にまだ知られていない日本文化の魅力」を紹介する大規模な複合型文化芸術イベント・ジャポニスム2018が開催されています。
もちろん、文楽公演も、パリ市内の北東部、ラ・ヴィレットのシテ・ド・ラ・ミュージックにて行われておりました。

「日高川入相花王~渡し場の段」と、「壺坂観音霊験記~沢市内より山の段」の2本立て。
ちょうどわたしは、ラ・ヴィレットよりもやや南にあるコリーヌ国立劇場にて公演中でしたので、本当にラッキーなことに舞台を拝見することができました。
大阪の文楽劇場よりも広い広い空間で、字幕を見ながらの観劇体験をフランスのお客様たちはどのように受け止められるのだろう?という興味もありましたが、何より、ふだんとは違う空気感の中で文楽を拝見できるというのは、ワクワクするもので、見ず知らずのマダムと微笑み交わしたりしてると、

「そこは、私の席だと思うわ」とそのマダムに優しく注意される。。。

日本が1から2,3,4・・・と順番に席が並んでいるのとは違って、この劇場では客席番号の偶数と奇数で上手側と下手側にわかれているらしい。
だから1番のお隣は3番、そのお隣は5番、と並んでいる。
通路側の座席番号と見て、その流れで自分の席を推測して座っていたわたしは、自分のチケットと違う席にいたわけです。
いろいろと違うものですね。すべてのフランスの劇場がそうなのかどうかはわかりませんが、これも異文化体験。

さて、ぎっちり満席の会場で、3時開演。
ものすごく大きいホール、クラッシックのコンサートのときには1600名収容できるホールなので、いつもよりずっと遠い舞台、お人形は小さく見える。
やはり、いつも文楽劇場で良い環境で拝見しているから、お人形の顔の仕掛けなどが遠くて見えづらいなぁ、もっと小さいホールでみたいなぁ、なんて思ったりはしましたが、チケットは完売の様子でしたから小さいホールではお客様をさばききれない事情もあるのやもしれません。

語りのテンポが現代口語演劇よりもゆっくりなのは、字幕を読む人にとって、物語の流れと舞台上の動きを両方追える、という利点を発見。
字幕を追うあまり、舞台上の演技があまり見れない、ということが多々あるので、音楽的な言葉の流れは、言語の壁を超えている様子でした。
フランスのお客様が物語を堪能されていると実感しました。
一緒に行ったパリ在住の友達が、千歳太夫さんの語りが、シンプルなストーリーを着実に客席に届けていて感激の涙を流した!ととても喜んでいました。

言葉の通じない外国で、ノンバーバルではないパフォーマンスをするときに、わたしは日本国内よりも強く、お客様からの「あなたのことを知りたい!」というエネルギーを感じることが多いのですが、文楽座の皆さんは、パリで公演をされてどんなことを感じられたのか、知りたいなぁ、と思います。

わたし自身が秋はほとんど日本におりませんでしたので、日本でこの文楽パリ公演がどのように報道されていたのかよくわからないのですが、パリではとてもたくさんのお客様がたが舞台で起きていることを興味深く覗き込み、非常に楽しんでらしたということをこの場をお借りしてご報告させていただきます。

さて、やっと11月文楽公演のかんげき日誌。

圧巻だったのは、「鶊山姫捨松」中将姫雪責の段。
雪の中、継母に責めさいなまれる中将姫の姿は、観劇から時間がたった今も、鮮烈に記憶に残っている。
観劇の数日後に会った写真家の友人には、「絶対見るべき!!!」と熱烈に勧めてしまった。

「あんなエロティックな舞台、みたことないよ!」

もしも、生身の俳優があの場面を演じたとしたら、どうだっただろう、とも思う。
もしかすると、ちょっと直視していられない感じになるんじゃないかしら、と。それくらい強烈なんです。

雪の中、衣類を剥ぎ取られ、打たれ、それでは生ぬるい!と継母自ら、無抵抗な姫へ折檻を加え、髪を掴んで引きずり回す。
憎しみを超えて、もはや歓喜と恍惚で暴力を続ける継母・岩根御前。
敵意と殺意が降りしきる雪とは逆にどんどん上昇していくようで、見ていて恐怖を感じてしまう。
いつも思うのですが、人形に魂が吹き込まれたときに、生身の人間を超えるフィクションがたち現れる。
それを見たくて、文楽劇場に通っているのかもしれない、とすら思ってしまう。

そして。そして、そして。
庭に、下着姿で倒れ込み、ひたすら耐える中将姫。色っぽいのです。
さらに、中将姫を遣っている簑助さんのスーッとした佇まいが非常にクールで、その違いが中将姫の色気をさらに倍増させているように思う。
竹の棒で男たちに打ちのめされながら、右へ左へと体をよじらせ身をかわす、その、足さばき!!!

ここに、究極のエロスを、感じてしまったのです。

女性の文楽人形には、足がない。
女性役は正確に言うと足遣い、ではなく裾遣い、ということになるのでしょう。
その見事な裾捌きに見とれているうちに、若かりし頃、芸能事務所などに所属していたときに、その社長から言われたことを思い出した。
「昔の映画女優、特に佐久間良子さんの色気は、足の芝居なんだよ。」

座敷に倒れ込み、いざりながら、おやめください、おやめください、と言う和服の裾からちらりとみえる足袋が小刻みに動く、それが色気なんだよ。
「何言ってんだ?」と若かりし頃のわたしは思っていましたが、今や「うん、わかる」と思えるおとなになったようです。

そんなことを思い出しながら、中将姫には可哀想だけど、この場面が、終わらなければいいなぁ、と、美しいエロスを満喫しました。

■たきいみき
舞台女優。大阪生まれ。
主演作に「黒蜥蜴」「ふたりの女」「夜叉ヶ池」(演出:宮城總)、「令嬢ジュリー」(演出:フレデリック・フィスバック)など。野田秀樹作、オン・ケンセン演出「三代目、りちゃあど」では歌舞伎や狂言、バリ伝統影絵などジャンルを超えたメンバーと共演の他、クロード・レジ「室内」、オマール・ポラス「ドン・ファン」など、海外の演出家とのクリエーション作品も多数。

(2018年11月7日第一部『蘆屋道満大内鑑』『桂川連理柵』、
第二部『鶊山姫捨松』『女殺油地獄』観劇)

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