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国立文楽劇場

文楽、片思い

一ノ瀬 かおる

2016年1月7日、国立文楽劇場にて行われている「初春文楽公演」へ行ってきました。

文楽観劇、人生で三度目でございます。

周囲の人が口を揃えて”文楽が面白い!”と言うのを聞いていると、話に加わりたくなりまして、そんなきっかけで文楽の世界におそるおそる足をふみいれたのですが。
ですが、ですが。
いやあ、まだまだです。
文楽、まだまだぜんぜんお近づきになれていません。

うーん。
文楽を見るたびに、色々と考えさせられています。

文楽の世界って、私が日常で触れ合っている文化とは…

「テンポ」が違う!
「記号化」が違う!
「色」が違う!
「思想」が違う!

文楽の世界を構成している三大要素、「人形、太夫、三味線」って、かなしいかな私の日常にほとんどないものなので、楽しいと感じるより先に、あれはなに?と考えてしまっているのです。だから楽しむより先に、わからない!となってしまう。(ってことに3回目にしてようやく気づきました)

私は
アニメ的に記号化された人形、に慣れています。
機敏に動くCG映像、に慣れています。
アップテンポの音楽、に慣れています。

大きい目の顔が、”かわいい”。
よく動く映像が、”気持ちいい”。
機械音を複雑に重ねた音楽が、”かっこいい”。

お姫様と言われたら、和服のかぐや姫より、ドレスのディズニープリンセスを連想するように仕上がっております。

そんな私の日常と、文楽の世界はまだまだ距離があります。

「伝統芸能」を、より感じたい。
「伝統芸能」に、自分の感性をチューニングしたい!
これは現在の私の目標です。

私は今まで、「楽しい!」と感じるままに任せて、芸術作品や芸能に親しんできました。楽しいと感じるのが先で、それからお付き合いを始める。それは自然な流れだと思うのですが。けれどけれど、伝統芸能に関しては、かなしいかな、それじゃだめで。今の私が感じるままに身を任せているだけではどうしても「わからん」のです…。日常で使っているリテラシーとは全く別の世界。一目見ただけでは、正体不明なその世界…。
うう…。
けど、どうしても…たのしみたい……。

「わからないものを、わかるようになりたい」
「伝統芸能とチューニングを合わせられると、芸術・芸能に関して、とても本質的ななにかに触れられる気がする」
「文楽わかるようになったら、大人になれている気がする…」

という、邪なのか純なのかよくわからない気持ちに後押しされて、昨日も文楽を「観る」というより、文楽に「挑む!」という心持ちでおりました。
かじりつきたいぞ、伝統芸能!

…前置きが長くなりました。
とはいえ、とはいえです。
昨日の文楽………めっちゃくちゃ面白かったです^0^
第一部、第二部、通しての観劇。
丸一日文楽三昧でした。
三回目にして初心者の緊張も若干薄らぎ、かなりリラックスしてみることができました。

友人数名と一緒にいったのですが、観劇後、一人が「…ねえ、つっこんでいい?」と。それをきっかけに、もう観劇後はみんなでつっこみ大会です。「おみつが可哀そう!」「なんですぐに目をえぐったりしちゃうの!もっと大切にしようよ!体を!」など、登場人物に対して物申しながら大盛り上がり。このつっこみ大会の楽しかったこと……。

作品の時代背景は重々承知しつつも、女性の社会的な立ち位置へのつっこみが止められなかったです。同時に、男性に課せられる「義・忠」への呪縛も見ていて辛かった…。御贔屓様への義理を通すために、八百長試合に追い込まれる相撲取り。その夫を救うために、身売りする妻。なんでそんなことになってしまうんや…。たのむからみんな、もっとほかの手段を考えてくれ…。うう…。

闘うハマグリ、きぐるみ虎にもキャッキャしましたし、あと文楽界の貴公子・咲寿大夫さんにもキャッキャしました。

幕間には、もち投げならぬ手拭い投げまであり、若手の皆さまが芸できたえた(?)強肩をいかして、会場の後方にまでとどくように、ぶん投げておられました。文字通り、振りかぶって、ぶん!と投げる!弾丸のように飛ぶてぬぐい!こちらの手ぬぐい撒きは、この日(1/7)で終了してしまったようなのですが、他にも「三味線芸(曲弾き)」なるものまで!バチがくるくる三味線の上を回る!いやあ、さすが初春(?)なんだかめでたい!

あと、観劇に来られた方のお着物をみるのも楽しみのひとつです。「これが着こなしってものよ、おぼえておきなさい小娘ちゃん」と、言われているようで(もちろん言われていない)、粋な女性に見とれます。美しい…キュン。

そんなこんなで、初心者なりに沢山考え、わいわい楽しみました。
また機会を作って、見に行きたいです。

深遠なる文楽の世界。
私はまだまだ、片思いです。

■一ノ瀬 かおる(漫画家)
1983年うまれ、岡山県出身。大阪在住。漫画家。幼少期より漫画三昧の生活を送り、2009年「イパーシャ」にて白泉社 月刊LaLaよりデビュー。現在は書籍の挿画、エッセイ漫画なども。自身の兄が統合失調症になった経験から、北海道にある精神病を持つ方々の自立生活共同体「べてるの家」の取り組みに感銘を受け、大阪にべてるを作りたいと、仲間達と共にNPOを立ち上げる。2016年、大阪大学で開かれる「第13回全国当事者研究交流集会」実行委員長。現在目標は「伝統芸能がたのしめるようになるまで、を、たのしむこと」

(2016年1月7日第一部「新版歌祭文」「関取千両幟」「釣女」観劇)