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国立文楽劇場

耳に楽しい正月公演

後藤 正文

昨年に続き、二度目の「かんげき日誌」寄稿です。その間、東京の国立劇場で『曾根崎心中』を観劇させていただいたので(そのときの模様はコチラのインタビュー記事(外部サイトにリンク)をご覧いただけると幸いです)、今回で文楽は三度目となります。

さて、今回、僕は第二部の公演を観させていただきました。いやはや、とても面白かったです。というのも、今公演の第二部は音楽的な要素が多いのです。ミュージシャンである僕にとっては、とても耳に嬉しい公演内容でした。

例えば、『近頃河原の達引』の「堀川猿廻しの段」では、兄・与次郎が、京から逃れ旅立つ妹・おしゅんと伝兵衛のために猿を廻します。与次郎のキャラクターもそうですが、猿たちの動きがとてもユーモラスで、ここは文楽に馴染みのない人でも声を出して笑ってしまう場面です。同時に、猿たちの舞いに合わせて三味線の演奏がずっと続きますから、音楽的にも魅せどころのひとつになっています。猿の動きをみて笑いたいし、三味線も気になる。僕にとっては首の忙しい場面でした。

また、『壇浦兜軍記』の「阿古屋琴責の段」では、遊女・阿古屋が懇意であった景清の行方について、代官からの取り調べを受けます。そして、拷問と称して箏、三味線、胡弓の演奏をさせられます。阿古屋は歌と演奏に自然と、自身の情念が表れて行きます。景清と会うことができない悲しみ、それがどうしても宿ってしまう。それを聴いて、代官である重忠は「偽り無し」と感じるわけです。粋な話ですよね。この場面も三味線がとても印象的でした。様々な演奏方法も圧巻ですけれど、音の強弱の付け方、その繊細さに感動しました。とても贅沢な時間の過ごし方だと思いました。

言葉という面で考えると、まだまだ付いていけない部分もあります。江戸時代の言葉で語られる物語ですから、自分の言語的な準備が整っているかと問えば、そうだとは言えません。字幕を追ってしまう瞬間が沢山ありますし、細部まで言葉で理解している自信はありません。でも、大夫の声色や三味線、人形の動きが物語の内容についての理解を、感覚的に誘導してくれるんですね。そういう複雑さが魅力なのだと、改めて感じるのです。

そしてまた、それぞれに注目してみても面白いというとことも、文楽の魅力ではないでしょうか。そういう意味では、「音楽好き」という性質に特化した僕が楽しむには打って付けの正月公演だったのだと思います。そして「音楽好き」の友人たちにも、観劇を薦めたくなるような四時間でした。

■後藤 正文(ごとう まさふみ)
ロックバンド「ASIAN KUNG-FU GENERATION」のボーカル、ギター。同バンドの作詞、作曲の殆どを手がける。1976年生まれ。著書に『ゴッチ語録 GOTCH GO ROCK!』『ゴッチ語録 A to Z』がある。2012年最新アルバム『ランドマーク』を発売、2013年4月アナログレコードとデジタル配信にて『The Long Goodbye』をソロ名義で発表。現在、“未来を考える新聞”「The Future Times」編集長も務める(http://www.thefuturetimes.jp/(外部サイトにリンク))。静岡県出身。

(2014年1月4日第二部『面売り』『近頃河原の達引』『壇浦兜軍記』観劇)