国立文楽劇場

「口で言われぬ心のたけ」~あをによし・異世界RPG(第一部)~

たきいみき

春ですね。
桜満開! と思っていたらもう鴨川沿いの公園は藤棚から美しい姿の藤の花と良い香りが。
季節の花は心を躍らせてくれて、それと同時に時の流れにあらがえないという儚さ切なさも感じるからほんとうに好き。

なかでも桜は儚さのシンボルとして頂点に君臨していると思う。
そんな満開の桜の中で散っていく一組の若い恋人たちの姿が4月公演で観ることが出来た。
あと何回でも観たいと思うくらい素晴らしかった。
今回の第一部は「歴史&異世界RPG」、第二部は誰もが思うであろう「ロミオとジュリエット」なんです。奈良が舞台だから「あをによしVer.」ですね。

今回のかんげき日誌も私の感激がオーバーフローしちゃってて全部を書くと南方熊楠の履歴書くらい長くなっちゃうので俳優目線での観劇・感激ポイント箇条書き作戦でお届けします。


第一部
【初段】
≪大序 大内の段≫
●なんと大阪では102年ぶりの上演と!
床には誰もおらず。
2階部分の御簾の中で入れ替わり立ち代わる姿がうっすら見えますが、若手の皆さんとパンフレットに書いてある。
物語の状況や人間関係を示す芝居において最も大切な場面。
人形遣いさんも全員面布の黒衣姿。

●いつも思うけど、時代物の時の衣装やセット
今回は奈良時代だけど着物やセットの設えは江戸期のもの。
ハムレットを現代風にスーツでやる演出みたいな感じだな、と今回初めて言語化できた。

●字幕、ありがとう!
ここは特に単語が難しく、耳だけでは理解できない言葉が山のように出てくるけど、じっくりとした場面でもあるので人形の動きの見逃しなく言葉も追えて、今日ほど字幕さんありがとう! と思ったことはないかも。
関係性の説明をする場面でもあるのでフル活用。

≪小松原の段≫
●甘い、甘い恋の始まり
頬が「恥ぢ紅葉」に染まります、こちらまで。

●告白の仕方がおくゆかしい
吹き矢筒でこっそりと。ささやき竹。見習いたい、このはじらい。

●恋の展開は激早い
すぐキスしちゃうのもロミジュリ感。

●ナイスキャラ小菊ちゃん
この後の3段目でもいい味出してる腰元さん。かしらがお福なのも愛嬌増量。
脇にこういうおいしいキャラがいてくれると芝居の豊かさが増すなーと思う。
ここではかなりサイコパスな行動を。好き。

●愛し合うふたり、いがみあう家と家
いわずもがな。悲劇の始まり。

≪蝦夷子館の段≫
●黒衣姿から主遣いさん顔出しに
主遣いさんが黒衣でなくなると、なんだろう、世界がパッと明るくなった気が。
うまく導入から物語世界にガイドされたようなナイス演出と感じた。
聞くところによると、昔はみんな顔を隠していたんだけど、お客様がどんな方が遣ってるの?と興味を持たれて今のように顔を出し始めたんですって!
基本的に顔出しか黒子かは制作さんや人形部での会議で決まるのだとか。

●どんでん返しその1
入鹿とその妻はいい人と思う。
古典の芝居は嘘ついてる時は大概「嘘ついてます」という芝居になってるので、完全に騙されて嬉しい誤算。

●めどの方の後ろ姿
父・蝦夷子の謀反をいさめるために息子・入鹿は今日自死してしまう。それを止めたい入鹿の妻・めどの方。
蝦夷子に真正面から向き合う背中が美しい。
蝦夷子ファミリーではめどの方だけが正しい良い人だったな。

●納刀、すごい
するっと刀をさやに納めてるけど、ふたりでやってると思うと、大変にすごい事だなと思う。
納刀だけでなく、さまざまな所作が左右で別の人が操っていると思うと神技だなと改めて思う。

●入鹿、魔王に大変身!
父と義父を死に追いやり、自身は玉座を奪うというクーデターを起こす。
見た目だけでもう、魔王! でた~~~~!! です。
ここでは語られていませんが、入鹿は父・蝦夷子が白い牝鹿の血を妻に飲ませて産ませた子で、ものすごい怪力&魔力を持っているという設定。
この入鹿を倒すために、勇者たちがこれから集まってくるわけです。
あをによし異世界RPGの始まり始まり!!


【二段目】
≪猿沢池の段≫
●絶好調な滑り出し
休憩終えて、希太夫さんの語りと寛太郎さんの三味線の音色がキリっと、そして緩急豊かに物語世界に連れて行ってくれて爽快。
言葉がきっちり聴こえるので観る側の体も、前に前にと、のめりこんじゃいます。

●「入水の跡」
恋人の采女が入水したという場所に来た天智天皇に、官女が観光案内のように。
重くなく「入水の跡」と盲目の天皇に説明する、それがその後の天皇の悲しみを強く感じさせてくれて「上手い!!」と心の中で拍手喝采。
空気の比重が自在に操られている感じ。

●淡海
黒の着流しかっこいい。(単なる和装好きの感想)

●何やら伏線感
この後の大どんでん返しへと続く。サスペンス感にワクワクする。


≪鹿殺しの段≫
●伏線のデパートや~
ほぼ全部伏線です。

●超短い場面、故に一球全力入魂
高貴な世界から一転、庶民の世界へ。
2階の御簾中から聞こえる語りと三味線はエナジー全開でカッコイイ!
芝六登場、見得を切るのも超かっこいい!!

●アイテムゲット
前場面からさらにギアアップ、ワクワク倍増。
この鹿を何に使うのかは四段目(夏休み公演までのお楽しみ)でわかることに。


≪掛乞の段≫
●爆笑必至、庶民と雲上人の差が絶妙。
大納言と米屋の掛け合い最高。
言葉ではバシッとたたきつける書付、人形の動きではふわりと置かれるのがナイスな味。
証文が団扇で煽がれてふわふわと大納言の元までたどり着く間合い最高。
掛け売りの書付の紙を見て、「さては歌(恋の和歌)か」という大納言のボケ最高。

●芝六の妻お雉と女官
並んでごはんの支度をしているのがなんとも可愛らしい。
衣装も紺の前垂れに緋の袴のミスマッチ。
厳しい状況でも女性たちはきゃっきゃと仲良くしていて気持ちが癒される。

●恋と乞い、舎利とシャリ(米)
言葉遊びの楽しさも満載。愉快だな〜。

●おあとがよろしいオチの付き方
セクハラを試みた結果、バッサリやられる米屋さん。
楽しい時間、米屋さんオイシイお役です!


≪万歳の段≫
●咲太夫さんご療養のため休演、織太夫さんの語り
三味線の音が柔らかい出だし、そして気合がビリビリ皮膚に伝わってくる場で、瞬き忘れるほど。語りも三味線の音色も堪能。

●なぜ気付かぬ…は言わないで
盲目の天皇が芝六の小さな荒屋に御殿だと偽られて匿われているこの場面。
畳も荒れ放題、お布団だっていつものふかふか金襴緞子じゃなかろうに…
何故気づかないの?は言わないお約束。
でも、ふとした微細な仕草で「実は気づいてるけど、騙されたふりしてはるんとちゃうかしら?」と思ったり。
好きに想像するのは、観客に与えられた最高の自由。

●万歳の音楽性
曲の構成、音楽性、私はとっても好きでした。

●ここで登場、爪黒の牝鹿の血
アイテムです、でもなんのアイテムかはまだまだ内緒。ワクワク。

●狩人、実は
芝六、やっぱり元武士だったと正体判明。今回の働きで、勘当が解かれるとの嬉しい知らせ。でも、ね。これがまた悲劇の始まり。


≪芝六忠義の段≫
●勇者大集合、第一部の大詰め
芝六の身分も分かり、いざ入鹿成敗、と思うところに暗雲。

●鹿役人て、なに?!
鹿は春日大社の神様のお使いなので鹿を殺しちゃいけない、殺した場合は死刑という厳しいルールがある。
案の定、「鹿を殺した奴がいる!」と鹿役人が犯人探し。
観客は芝六が鹿を仕留めてるところをバッチリ見ちゃってるので「あー、あー、どうしよー」と思うしか無い。鹿だけに。

●三作、泣かせるいい子
芝六・お雉夫婦には二人の子供。三作はお雉の連れ子、杉松は夫婦の子。
第二部の山の段でもそうなんですけど、本当にみんな人のことばっかり考えて、自己犠牲を厭わない。
そればかりを手放しで「素晴らしい精神だ!」とはいえないけれど、大切な人に尽くしたいという情、人間味にはやはり涙を禁じ得ない。
私的「文楽いい子ランキング」では『花上野誉碑』の坊太郎とツートップ。

●三作の覚悟、母の嘆き
滂沱の涙。めちゃくちゃ泣ける、いちばん泣いたお雉さんのクドキ。

●見どころは、「嘘ついてるお芝居」
芝六が息子・杉松に武士に戻るのだからお前も刀を差すのだよ、という場面。
差す、と刺すが掛けられているのが伝わる悲しさ。

●ほんま、ちゃんと打ち合わせしてほしい
本心を確かめるためとか、策略巡らすと大体誰かが犠牲になる。
ちゃんと打ち合わせしたらそうはなれへんやん、ほんま頼みます!と毎回切に思う。しかし、悲劇は起きる。
その方が芝居が盛り上がるとはわかっているけど、切ないそれぞれの想い。

●大どんでん返し
びっくりです。

●魔王退治は始まったばかり
ラスト、ポーズキメキメの勇者たち(登場人物)が、順に少しづつ動く。カッコイイ。そしてカタルシス。

●そうだ、奈良、行こう!
という気分になる。
実際のその地に伝わる伝承を下敷きに書かれている作品なので、
お芝居の舞台に観劇後旅するとか、楽しそう♡

長くなってしまいました。
第二部「口で言われぬ心のたけ」~あをによし・ロミオとジュリエット(第二部)~へと続く。。。

■たきいみき
舞台女優。大阪生まれ。
主演作に「黒蜥蜴」「ふたりの女」「夜叉ヶ池」(演出:宮城總)、「令嬢ジュリー」(演出:フレデリック・フィスバック)など。野田秀樹作、オン・ケンセン演出「三代目、りちゃあど」では歌舞伎や狂言、バリ伝統影絵などジャンルを超えたメンバーと共演の他、クロード・レジ「室内」、オマール・ポラス「ドン・ファン」など、海外の演出家とのクリエーション作品も多数。本年度は谷崎潤一郎「刺青」、「人形の家」他に主演。

(2023年4月12日第1部・第2部『妹背山婦女庭訓』観劇)