国立文楽劇場

女忠臣蔵

たきいみき

令和初のお正月、ご退位というかたちでの御代替わりのせいなのか、おめでとうムードに溢れた幕開け。
そんな雰囲気の中での新春公演。
錣太夫さんのご襲名もあり、重ねておめでとうございます。

昨年より、身近な方々を文楽観劇の友にすべく活動を開始いたしまして、今回は、第二部に二人で寄せていただきました。

まちあわせた一階ロビーで、まずタイトルのことで盛り上がる。
第二部は「加賀見山旧錦絵」「明烏六花曙」の二本立て。
タイトルはなんとなく・・・くらいで、読めません。
内容も知らない「かがみやまこきょうのにしきえ」と「あけがらすゆきのあけぼの」。
「六花」に当たるところのルビが「ゆきの」。
近頃のキラキラネームみたいや!どうしたらこうなったんやろ?と考えるとちょっと楽しい。
第一部の「曲輪文章(私のPCでは漢字変換できず!)」、「くるわぶんしょう」、に至っては『文章』の二文字が、ひとまとめの漢字表記になっている!なんでまとめたんや!?と。

ちなみに、江戸時代にも言葉を縮めるのが流行っていて、「ことよろ」は普通に使われていたそうです。
ただ、今年もよろしくの略ではなく、殊によろしく、の「ことよろ」だそうな。

そう思うと、キラキラネーム風タイトルも、漢字ごとデザイン化しちゃうところも現代とかわらないのかもしれませんね。
常に新しい、面白いものを追求してきた軌跡なのかな、と思う。
アグレッシブなものづくりをしていたんでしょうね。
やってることは最先端ですぜ!という先人のパワーを感じられて、一年のスタートに気分も引き締まる。


ロビーでかなり楽しんだのち、観劇。

今回のイチオシは、「加賀見山旧錦絵」の長局の段。
ともかく、、、すごいんです。
印象的だったのは、勘十郎さんの遣う、お初の独壇場。

藤蔵さんの気迫も凄まじく、爆発的、という言葉以外見つからない。

石見国浜田松平家の江戸屋敷の奥向きで起こったとされる仇討ち事件をもとにして構成されている場面。
局岩藤の陰謀を知るところとなった尾上は、事あるごとに岩藤から因縁をつけられてイビられ、あの手この手で喧嘩をうられるも、ぐっとこらえて大人の対応をする。
とうとう岩藤は、これでどうだとばかり、草履で無抵抗な尾上を打つ。
モラハラ、パワハラ、全開である。
それでも尾上は「ご異見ありがとうございます、この教訓にお草履申し受けて、わたしのお守りにいたします。」と、超神対応。
これには岩藤も呆れてしまうも、翌日、懲りずに今度は、尾上の召使いのお初に標的を変えて、打擲。お初も泣きながら堪える。

尾上やお初が歯向かってきたら、尾上の落ち度として館から追放してしまおうという岩藤の魂胆を、偶然知ることとなったお初は、主人の尾上に、忠臣蔵を引き合いに出し、早まったことはしないようにと尾上に忠告する。

いやいやいや。
もしも尾上が「殿!岩藤様の悪巧みの企画書、拾いました!#Me too」
お初が「尾上様!岩藤様の作戦は、こういうことです!#Me too」
と、言えたならば、こんな不幸は起きなかっただろうに。
みんな奥ゆかしすぎて、悲しくなる。

お初が岩藤を高師直、尾上を塩冶(谷)判官になぞらえて、早まったことをしないようにと諌めるのが「女忠臣蔵」のいわれかとおもいきや、このあと尾上は自害してしまう。
そこからが、スゴイのである。
お初、普通のかわいい女の子が、主人の亡骸にとりすがり、三宝を握りつぶし(おしつぶした、が正確なアクションだと思うのだけど、ショッキングすぎて記憶がすり替わっていると思える)、人とは思えない動きを見せる。

「キジムナーみたいやったなぁ。」と終演後。
わたしは、狐忠信を思い出した。宙に浮くんだもん。
これは、生身の役者の永遠の憧れかもしれない。舞台機構の力を借りないと浮けませんから。
ホリプロのピーターパンや猿之助さんのスーパー歌舞伎なども、やはり、重力からの開放に、ただならぬエンターテイメント性があるからなのかしら、と改めて思う。

人形ならではの身体性も凄まじいのだけど、心情の表現がさらに凄まじい。
そしてそこからの、仇討ち。見事、岩藤を討ち果たし、主人の無念を晴らす。
本家と違うのは、お初が仇討ちを認められて、二代目尾上となる、ある種のハッピーエンドであるところだろうか。

随分じっくり事の経緯を説明するんだなぁと思っていたけど、それは爆発のためだったのかと納得。
それまでの時間が、あのカタルシスを迎えるために必要なのかもしれない。

わたしはお初のヘンゲとそのエネルギーに感動したけど、私の前列のご婦人は尾上の最期の独白で、涙を拭っておられた。

きっと、百人見れば百人のぐっと来るポイントがあるのだと思う。

今年も素晴らしい舞台を拝見できることを楽しみにしております。

■たきいみき
舞台女優。大阪生まれ。
主演作に「黒蜥蜴」「ふたりの女」「夜叉ヶ池」(演出:宮城總)、「令嬢ジュリー」(演出:フレデリック・フィスバック)など。野田秀樹作、オン・ケンセン演出「三代目、りちゃあど」では歌舞伎や狂言、バリ伝統影絵などジャンルを超えたメンバーと共演の他、クロード・レジ「室内」、オマール・ポラス「ドン・ファン」など、海外の演出家とのクリエーション作品も多数。

(2020年1月4日第二部『加賀見山旧錦絵』『明烏六花曙』観劇)