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【現地レポート】
10月文化庁芸術祭祝典『アジアを結ぶ獅子たち』ベトナム「テトの獅子舞(ムーラン)」の魅力
ベトナムの首都ハノイ。
今年は1010年に李公薀(リ・コンウアン)が現在のハノイに都を遷して、ちょうど1000年を迎える記念すべき節目の年を迎えました。
さて、ベトナムでのお祝い事といえば、獅子舞が欠かせません。特にテト(旧正月)はベトナム最大の年中行事で、国中の街で獅子が舞い、お祝いに彩りを添え、また皆々に福を招いています。
今回の「アジアを結ぶ獅子たち」に出演する衡英堂龍獅藝術團(ベトナム・ホーチミン市)の皆さんは、ホーチミンを代表する団体の一つで、米大統領が訪越した時に舞を披露したこともあるそうです。
そこでせっかくの機会ですから、衡英堂龍獅藝術團團長のハンさんにいろいろとお話しを伺うことにしました。
(通訳:リー・トゥアン・クアン)
衡英堂龍獅藝術團
團長 ルン・タン・ハン氏
- ハンさん:
- みなさんこんにちは。團長のハンです。今回、日本に行って獅子を舞えることをとても楽しみにしています。
―それではまず獅子の謂われについて教えて下さい。
- ハンさん:
-
ベトナムは中国の支配が長かったものですから、大きく中国の影響を受けています。獅子舞もその一つですが、今では国中で舞われるベトナムにはなくてはならないものとなっています。
さて獅子の謂われですが、昔、中国の王が、砂漠で寝て、力があって強い獅子の夢を見ました。この夢を信じた王は、人々に伝えて祀るようになったといいます。また別の謂われもあります。もともとは人を襲い、肉を喰らう恐ろしい動物であった獅子。この様子を天から見ていた神様が、獅子に野菜を与えました。この野菜を食べた獅子はたちまち優しい動物になって、肉を食べることもなくなりました。それ以来、人々に良いことをするようになり親しまれるようになったそうです。
―そうなんですか。そのような言い伝えがあって、獅子は強くて優しい、人々に良いことをする動物と考えられるようになったんですね。だからこそ、お祝い事などで福を招く為に獅子を舞うんですね。良く分かりました。それでは早速、最初に舞う「四季興隆」について教えて下さい。
四季興隆
- ハンさん:
-
テトや中秋節などの祝祭で舞う獅子舞ですが、その時に一番最初に4頭の獅子が舞う招福の舞です。四頭の獅子は、春夏秋冬の4つの季節を表しています。“四季=1年”ですから、この舞は、皆さんにとって1年間良いことがありますように、という気持ちを込めて舞っています。
―福を招く舞ですか。なんだか有り難い舞ですね。それと「最初」ということは他にもいろいろと舞うのですか?
- ハンさん:
- 公演では3つの舞を舞いますが、他にも天に向けて立てた竹を登って行く獅子やお供え物をすぐに食べてしまう様を見せる獅子などもありますよ。
―いろいろとあるんですね。是非、見てみたいものです。
- ハンさん:
- それでは是非、来年のテト(2011年2月3日)にホーチミンに来て下さい。街中で獅子舞を見る事が出来ますよ。
―街中が太鼓と鐘の音であふれ返ってその中で舞う獅子…想像しただけで楽しくなってきますね。是非、行ってみたいです。それでは続いて北獅戯球について教えて下さい。
北獅戯球
- ハンさん:
- この舞は、昔は一般の人に見せる事はなく、地位のある人だけが見る事ができました。もちろん今は一般の人の前でも舞っていますので、今回の舞台でもきちんと舞いますよ。福を招く、といった意味ももちろんありますが、役所や家を建てるときにその土地の神を祀って安全をお願いする時などにも舞います。
―日本でいう地鎮祭のような感じですかね。そう言えば北獅戯球の獅子の顔が、最初の「四季興隆」と最後の「獅上梅花椿」の獅子とは違うようですが。
- ハンさん:
- そうなんです。この舞は中国でも北方に伝わっている獅子で、その動きは猛獣としての獅子の生態を取り入れたものと言われています。獅子頭はもともと木で作られていたので日本の獅子と少し顔が似ているかもしれません。
ほかの二つは中国の南方に伝わる獅子で、拳法家が獅子を退治した時の様子を舞にしたと言われていて、動きが中国武術の「功夫(カンフー)」が基礎になっています。こちらの獅子頭は日本の獅子とはずいぶん形が違います。中国では北方と南方で言葉が違う位ですから、獅子の形もずいぶん違うんです。
南方の獅子
北方の獅子
―そう言えば、この舞では球を使いますが、何か謂われがあるんですか?
- ハンさん:
- 先ほどの「四季興隆」の時に、もともと獅子は怖い動物とされていたことはお話しました。しかしその獅子を恐れない武松(ウォートゥン)という力持ちがいたんです。この武松がどうやって獅子と戦うかと言うと、戦う前に獅子に球を与えるんです。獅子は球で遊ぶのが大好きで、ついつい球に気がいってしまい、戦いに集中できない。その隙を狙って武松は戦うから恐れない、という話があるんです。そこから球を使って獅子と遊ぶようになったそうです。
―だから球を使って獅子をあやしているんですね。そう聞くとなんだか可愛い動物に見えてきました(笑)。では最後の「獅上梅花椿」について教えて下さい。
獅上梅花椿
- ハンさん:
- この舞は山や谷に見立てた鉄柱の上を獅子が飛び跳ねながら進み、花を取りに行くという舞です。実は前の二つの舞とは違って、謂われなどはあまりありません。舞手がその技術を存分に発揮して、見る人に楽しんでもらう舞なのです。ただ私は、獅子が高い所で存分に動き回るように、人も高い所を目指して生きていかなければならない、という思いで舞っています。
―なるほど。確かに衡英堂さんの梅花椿は、動きもダイナミックで、見せ場もとても多いですよね。日本ではなかなか見られない獅子舞です。
それでは最後に、改めて日本で演じる意気込みをお願いします。
- ハンさん:
-
今回、日本に行って演じる事は非常に光栄なことで嬉しく思っています。
私達衡英堂龍獅藝術團の最初の名誉は、ブッシュ前米大統領の前で舞を披露したこと。そして今回の日本での公演は二回目の名誉となるでしょう。
初めに声をかけられた時は信じられなかったのですが、だんだんと公演への準備が進むに連れて実感がわいてきました。
私達は日本で公演できることを心から感謝しています。だから母国ベトナムのため、呼んでくれた日本の為、そして自分たちの為に頑張って舞います。
―長時間に亘り、お話しいただき、どうもありがとうございました。
近年、ベトナムと日本は経済などでの親密な関係にありますが、文化の面ではまだまだ親密とは言えません。そんな中、今月の18・19日に代々木公園イベント広場では、「ベトナムフェスティバル2010」という催しが行われるそうです。
そして、今回の公演が良いきっかけとなって、文化交流がますます深まっていくことを願っています。是非、この公演をご覧いただき、ベトナム文化の一端を堪能して下さい。きっと彼らの演技に魅了されることでしょう。