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【千駄ヶ谷だより】謡曲紀行(2)〈須磨・明石〉(5月20日(金)定例公演)

 5月20日(金)の定例公演では能「須磨源氏」、狂言「右流左止」を上演します。今回は作品の舞台を中心に曲をご紹介します。

 日向国(現在の宮崎県)から伊勢神宮(三重県伊勢市)を訪ねる旅の途中、須磨の浦(兵庫県神戸市)に立ち寄った神官の前に光源氏の霊が現れて、桜の木の下で舞を披露する、というのが能「須磨源氏」のあらすじです。
 曲中に登場する桜は、光源氏ゆかりの「若木の桜」。『源氏物語』第12帖「須磨」では、東宮(後の朱雀帝)の女御に入内予定であった朧月夜との密会が露見し、京を離れて須磨に退去した源氏が描かれます。うら寂しい須磨で新年を迎えた源氏が、前年に手植えした若木の桜の花が咲くのを見ながら、“いつとなく大宮人の恋しきに桜かざしし今日も来にけり”と歌を詠みながら京を懐かしむシーンがあります。


須磨浦公園(兵庫県神戸市)より

 『源氏物語』が成立した平安時代の須磨は、京から近く最も軽い流刑地でした。光源氏のモデルの一人と考えられている在原行平も、須磨に流されたことのある人物です。能「松風」では行平が去った後の須磨を舞台に、彼の愛を受けた松風・村雨という海人の姉妹が恋慕の思いを訴え、形見の装束をまとって舞を見せます。

 須磨は源平合戦の一ノ谷の戦いの舞台でもあり、戦いの中で父・平知盛をかばって没した平知章を描く能「知章」、自作の歌が『千載和歌集』に採られた際、朝敵ゆえに“読み人知らず”として掲載されたことを嘆く平忠度を描く能「忠度」、源氏方の武将・熊谷次郎直実が年端もゆかぬ美少年であった平敦盛を討ち取った際の逸話を描く能「敦盛」等、数多の能の舞台となっています。

 また「須磨源氏」に登場する若木の桜との謂れがある桜が須磨寺(兵庫県神戸市)に所在します。この桜は「忠度」や「敦盛」を下敷きとする文楽・歌舞伎「一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)」において、「一枝を伐らば、一指を剪るべし」と弁慶が制札を立てた桜として登場します。

 一方の狂言「右流左止」は須磨の浦の至近、『源氏物語』13帖「明石」でも描かれる明石の浦が舞台です。西国に住む塩飽藤蔵が京へ上る途中、明石の浦で茶屋に立ち寄り、「うるさし」という言葉をキーワードに物語が進行します。話の中に登場する菅丞相(菅原道真)もまた京を追われた人物でした。大宰府に左遷される際、風雨を避けて須磨に立ち寄ったといわれており、『源氏物語』12帖「須磨」でもそのことに触れられています。こうした宮廷での権力争いや、それに伴う貴公子の流配を本作の背景として指摘する意見もあります。

 5月20日(金)定例公演は好評販売中です。かつての旅の様子も想像しながら、お楽しみください。

◆国立能楽堂令和4年5月20日(金)定例公演のご案内



好 評 販 売 中

◇令和4年5月20日(金)定例公演(午後5時30分開演)


 右流左止
  井上松次郎(和泉流)

【あらすじ】
 西国に住む藤蔵という男が、都に上る途中、茶屋でひと休みします。茶屋の女が独身と知った藤蔵が夫をもつことをしきりに勧めると、女は迷惑とばかりに「うるさやの」と口にします。この言葉をめぐって二人は言い合いになり、藤蔵が右大臣菅原道真の配流の故事を持ち出して、むやみに「うるさし」というものではないとたしなめると……。


 須磨源氏
  関根 知孝(観世流)

【あらすじ】
 日向国の神官・藤原興範が、伊勢参宮の途中、須磨の浦で桜を眺めるひとりの老人と出会います。老人はその木が光源氏にゆかりの桜だと言って、光源氏の生涯を語ります。そうして、実は自身こそ光源氏の霊だとほのめかし、消えてしまいます。
 夜になると、興範の夢に現れた光源氏の霊が、今は兜率天に住む身だと明かし、月光の下で舞うのでした。
 窕(くつろぎ)は、早舞の途中で橋掛リに出て、しばし動きを停止し“間(ま)”の余情を見せる小書です。

あらすじ=氷川まりこ(伝統文化ジャーナリスト)

▶公演の詳細は
こちら
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