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【9月文楽】作品紹介・文楽で最も(!?)心温まる物語『良弁杉由来』


 9月文楽公演第一部は〈明治150年記念〉に因み、明治期に作られた名作である『良弁杉由来』と『増補忠臣蔵』を上演します。
 奈良・東大寺二月堂にまつわる良弁僧正(ろうべんそうじょう)の伝説を題材に、生き別れになった母子の30年ぶりの再会を描いた『良弁杉由来』は、文楽でも稀に見る心温まる内容の感動作です。

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 『良弁杉由来』のストーリーを簡単にご紹介します。近江の豪族・水無瀬左近(みなせさこん)の妻である渚(なぎさ)の方は夫に先立たれ、忘れ形見の愛児・光丸(みつまる)を育てていましたが、光丸は鷲にさらわれてしまいます。渚の方は子を失った悲しみから心を病んでしまい30年もの間流浪します。ふと我に返った渚の方は、東大寺の良弁僧正の生い立ちの噂を聞きつけ、もしや我が子ではないかと一縷の望みをかけて東大寺へと向かいます。東大寺二月堂の前で二人は対面し、ついに親子であることも証明されて再会を果たす、というものです。


 鷲にさらわれる子供と、長い年月が経った後に成人した子に親が出会う、という話型は『今昔物語集』などの説話に見られます。『沙石集』には良弁僧正の出生譚として同型の話があります。これらが下地となって浄瑠璃作品に結び付いたとされます。


光丸をさらう巨大な鷲
「志賀の里の段」より


鋭い眼光に、嘴と爪、
なかなか迫力があります!


 『良弁杉由来』は、明治20年(1887)2月稲荷彦六座初演の『三拾三所花野山(さんじゅうさんしょはなのやま)』の一部として上演されました。名人と謳われた二代目豊澤団平の作曲で、脚本は団平の妻の加古千賀だと言われています。この芝居は西国三十三所(近畿地方における観音信仰の代表的な霊場33か所)の観音霊験譚を集めた話として成り立っています。東大寺二月堂は西国三十三所には含まれていないものの、観音霊験譚の一つとして採り入れられたと考えられています。


 ちなみに『三拾三所花野山』には、現在の文楽の人気作の一つとなっている『壺坂観音霊験記』も含まれています。『壺坂観音霊験記』は夫婦の情愛に焦点を絞ったわかりやすい筋と優れた作曲で好評を博し、お里(さと)と沢市(さわいち)の物語は人気曲となりました。観音菩薩の加護を讃えつつ幕となるところも観音霊験譚としての性格を色濃く表しています。

お里 沢市



 観音信仰とは、いわゆる「観音さま」、正確には「観世音菩薩」を信仰するものです。“世の人々の音声を観じてその苦悩から救済する菩薩”とされており、菩薩の中でも特に広く崇拝されてきました。『三拾三所花野山』が観世音菩薩の霊験譚を集めた作品であることからも、観音信仰の人気の程を窺い知ることができます。『良弁杉由来』では、母である渚の方が愛児・光丸に持たせていた如意輪観音の尊像とその守り袋が、母子の絆を証明する決め手となっており、やはり観音さまのご利益として物語の鍵となっています。そして観音信仰を題材にしていることから、『良弁杉由来』や『壺坂観音霊験記』は、文楽には数少ないハッピーエンドの話になっています。


「二月堂の段」より



 良弁僧正は奈良時代の東大寺の開山とされる人物で、東大寺二月堂のそばの開山堂には国宝の良弁僧正坐像が安置されています。奈良の風物詩で通称“お水取り”と呼ばれる修二会の法要で有名な二月堂の本尊は、大観音(おおかんのん)、小観音(こがんのん)と呼ばれる2体の十一面観音像で、どちらも何人も見ることを許されない絶対秘仏となっています。
 また、良弁僧正は東大寺の大仏建立のために尽力した人物としても知られています。西国三十三所の一つである石山寺(滋賀県大津市)の縁起では、良弁僧正が聖武天皇から大仏建立のために不足していた黄金産出の祈願を命じられ、石山の地で祈願していたところ陸奥国で黄金が発見されたことが寺の起源とされています。石山寺の本尊は如意輪観世音菩薩であり、『良弁杉由来』で「志賀の里」(近江国、今の滋賀県)が舞台であることや、母子の絆を決定づけたのが如意輪観音であるのも、良弁僧正とゆかりの深い石山寺から着想を得たものと思われます。

 さて、『良弁杉由来』における良弁上人のいでたちは、緋の法衣、朱地錦の七条袈裟と呼ばれる衣裳で、かしら(人形の頭部)はその名も「上人(しょうにん)」という名前のものを使います。高僧の役にふさわしい慈愛に満ちた表情となっています。かしら一つで徳の高い上人であることが伝わるというのは大変な技術ではないでしょうか。


「二月堂の段」より


「二月堂の段」の舞台と背景


 武士や庶民の「悲劇」を濃密に描いてきた文楽。悲劇は文楽のみならず、演劇におけるドラマツルギーとして欠かせないものではありますが、『良弁杉由来』ほどストレートに人間の情愛を描き、それ故に悩み、また救われるという内容を描いた作品は珍しいのではないでしょうか。作品としては明治期に作られた比較的新しいものですが、古典に負けず劣らず現代まで受け継がれていることが作品の魅力を証明しています。
 また、現代人の心に響くのは、親子の情愛という普遍的なテーマを描いていることに加え、曲自体が素晴らしいことも理由として挙げられます。作曲者である二代目豊澤団平という明治期の名人と、大正から昭和にかけて活躍し、『良弁杉由来』を名作へと引き上げた豊竹山城少掾の力が大きいと言われています。山城少掾は引退公演にも『良弁杉由来』を選びました。

二代目豊澤団平 豊竹山城少掾


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 観音霊験譚として、人々を感動させる魅力に溢れ、親子の情愛を綴った名作『良弁杉由来』。ぜひ劇場でお楽しみください!

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