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平成29・30年度国立劇場《歌舞伎脚本募集》選考の経過

今回は124篇の応募作品が寄せられた。応募者数は117名で、男性が60名、女性が57名であった。世代別でみると、10代から80代まで幅広い応募があったが、50代及び60代の応募が全体の5割近くを占めた。また、初めての応募者が全体の6割を超えた。

今回の募集にあたり、作品の上演時間を約1時間から1時間30分までと想定した上で、応募原稿の規定枚数を400字詰め原稿用紙に換算して、従来の30枚以上100枚以内から下限なしの60枚以内に変更し、内容の密度の高い作品を期待した。

応募作品の中には、題材や着想に面白さや新鮮さがあったり、既存の作品を踏まえつつ筋の運びや舞台上の効果がかなり工夫されていたりと、作者の努力次第で今後優れた作品が生まれる可能性も示されていた。

しかし、残念ながら、緊密にまとめられた作品は少数で、物語の導入部が原稿枚数の約半分を占め、肝腎のクライマックスとなるべき場面が書き込まれていない作品が多かった。場面構成の適切な配分が望まれる。

また、盛り上がりに欠ける平板な作品も少なくなかった。歌舞伎脚本として必要な要素である、胸を打つ台詞、台詞の面白い応酬、人物の印象的な登退場等、芝居をドラマチックに展開させる工夫が見られなかった。

また、日本語の誤用が散見され、正しい言葉の知識・用法を身に付けることが望まれる。推敲せずに書き流したのではないかと疑問に思われる作品もあった。

選考会の対象作品は、3次にわたる予備選考を経て、下記の8篇が選ばれた。

[選考対象作品](受付順)

  • 『契靏☆飛翔(めおとつるきたのみちゆき)』
    佐竹 喜信
  • 『地獄太夫(じごくだゆう)』
    羽根 和代
  • 『潔海底白珠(きよきこころうみのしらたま)』
    藤本 裕子
  • 『旅夢戸田渡(たびのゆめとだのわたし)』
    宮島 志乃ぶ
  • 『三世義王(さんぜぎおう)』
    月島 實
  • 『追分浜夫婦篝火(おいわけのはまめおとのかがりび)』
    藤井 晃
  • 『松山城風流合戦(まつやまじょうふうりゅうかっせん)』
    鶴 祥一郎
  • 『朝長最期(ともながさいご)』
    蒼井 駿

選考会は9月13日に行われ、選考委員として、大笹吉雄・岡崎哲也・竹田真砂子・西川信廣の各氏と、独立行政法人日本芸術文化振興会理事長の河村潤子が出席した。

上記の8篇について討議を行い、入選候補作品として『松山城風流合戦』及び次点として『地獄太夫』『潔海底白珠』『旅夢戸田渡』『追分浜夫婦篝火』が選ばれた。しかし、次点の4作については、趣向、題材、場面設定等で評価できる点はあるが、台詞や構成等の練り上げが不足しており、入選の水準にまでは達していないとの結論に達した。討議の結果、全委員の一致により『松山城風流合戦』を優秀作に選出し、佳作については該当作なしとした。

『松山城風流合戦』の概要と入選理由は、次のとおりである。

〔概要〕

この作品は、戦国時代の出来事として伝わる「松山城風流合戦」に拠る。「松山城」は武蔵国横見郡(現・埼玉県比企郡)に実在した城で、「風流合戦」とは、天文6 (1537) 年の松山城の争奪をめぐる合戦で敵対する武将が交わした和歌による問答のことである。作者は、和歌を交わしたという設定を取り入れて、オリジナルの作品を書き下ろした。主君の危機を救うために息子を殺す松山城代と、夫のために自害する主君の若い奥方が、互いに歌を詠み合って激励するという内容である。

舞台は、上杉朝定の重臣・難波田弾正が城代を勤める松山城の広間。北條氏に敗れた朝定は奥方の白菊と共に、本城から逃れて松山城に入る。ここで、弾正の息子・隼人佐の献策によって、朝定はさらに松山城を出て再起を図る。弾正は、主君を無事退去させるため、隼人佐の首を朝定と偽って敵方に差し出す計略を告げて、朝定と白菊を松山城より脱出させるが、白菊が引き返す。白菊は、自分の首を添えて差し出すよう命じて自害し、上杉家の武運長久を祈る歌を詠む。弾正は、主君への忠節を誓う歌を返し、白菊と隼人佐の首を打ち落とす。

〔入選理由〕

「いかに敵を欺いて降参するか」というモチーフが面白く、題材に対する作者の愛情が作品全体を支えている。細部まで丁寧に描かれているので、リアリティーがある。筋の運びも緻密に組み立てられ、例えば、隼人佐の帰還や朝定の脱出の時に使われる重要な〈抜け穴〉の存在も、隼人佐の少年時代の思い出を絡めながら、物語の中に巧みに描写されている。作者は奨励賞受賞及び佳作入選の経験を持つが、本作品は、対話の面白さ、伏線の設定の巧みさ、物語の展開における運びの良さという点で、過去の応募作品を上回っている。一幕物の作品としてよくまとまっており、物語の進行とともに次の展開への興味を掻き立てる。

但し、〈風流合戦〉で和歌を交わすのは、元来は敵対関係にある人物であり、味方同士に設定した本作品の題名として〈風流合戦〉を用いたことに疑問が残る。また、台詞が説明的で饒舌になりがちであるため、苦難に堪えて家を守る朝定の人物像なども女々しく見えてしまう。作者の訴えたい内容がより的確に力強く伝わるよう、台詞のポイントを絞って密度を高める必要があろう。

以上の点を踏まえ、上演可能な水準に近い、優れた特質を示す作品であると評価され、優秀作に決定した。

なお、将来を期待・嘱望される応募者に対して贈られる奨励賞には、『三世義王』が選ばれた。『平家物語』を脚色し、義王(祇王)母子、仏御前らの女性と平清盛の暴君ぶりを、原作に沿って淡々とした筆致で描いている。有名な題材を用いた作品では独自の視点が求められるが、登場人物や出来事の描写が表面的であり、印象的な台詞や場面もない。しかし、19歳という若さで『平家物語』を視覚的に表現しようと一幕物にまとめた意欲とともに、『平家物語』では脇役である義王の母刀自の存在を浮かび上がらせた点には独創性が感じられた。今後の努力に期待し、奨励賞を贈ることに全員一致で決定した。

≪入選作品の発表はこちら

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