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【9月舞踊公演】出演者メッセージその4 「黒塚」花柳基

初代国立劇場さよなら公演「舞踊名作集Ⅰ」を締めくくるのは歌舞伎舞踊の大作「黒塚」です。
昭和14(1939)年、二代目市川猿之助ほかによって初演されました。能「黒塚」(観世流では「安達原」)に基づきますが、独自の詩情と劇的な展開をもつ名作として知られています。振付が二代目花柳壽輔だったことで、花柳流の伝承演目としても上演されます。



花柳基(撮影=篠山紀信)

―いよいよ来年10月に閉場となり、建て替えとなります。

花柳基(以下、基):先人たちの血と涙と汗、そして魂がこもってる劇場だと思っています。幾度となく舞台に立ってきましたが、先輩たちがそうやってつないできてくださったもの、その中で踊らせていただいてきたという気持ちです。


―そして「さよなら公演」としての舞踊公演もスタートします。

基:「さよなら公演」に出演させていただき、嬉しくもあり、また、寂しくもあり……半世紀以上の間に出演し、心血を注いできた方たちに捧げ、祈るような思いもあります。


―初めて国立の舞台に立ったのは何歳ごろでしょうか?

基:それが全然記憶にないんです(笑)。一番古い記憶は、小学校中学年くらい、10歳にはなっていなかったと思います。そう考えると約半世紀、お世話になっていますね。


―強く印象に残っている舞台はありますか?

基:自分のリサイタルを初めて大劇場でさせていただいたことですね(第4回「基の会」、平成7(1995)年9月)。あの年(当時31歳)で、大劇場で自分の会をする、ということに奮い立ったことを覚えています。周りの方々に支えていただいたことも大きく、また、師匠でもある母(花柳秀、令和2(2020)年没)のおかげでした。そしてこの時のメインの演目が「黒塚」でした。



「黒塚」(第10回「基の会」、平成20(2008)年9月)
老女岩手実は安達原の鬼女=花柳基


—その「黒塚」ですが、初めて岩手に取り組んでどんな感じでしたか?

基:自分の未熟さを痛感した、という一言ですね。
自分が日本舞踊家として生きていこうと思った二つの舞台があります。一つは(花柳)壽應先生、当時芳次郎先生(のちに四世宗家家元花柳壽輔、令和2年没)の「黒塚」。もう一つは先代(花柳)壽楽先生(平成19(2007)年没)の「土蜘」です。そういった意味では、「黒塚」は人生の分岐点というか、一つの道を決めた作品で、今回また挑むことができるのはとてもありがたいことです。


—岩手をお勤めになるのは4回目ですね。

基:「黒塚」は花柳流としてはもちろん、壽應先生も本当に大事にされていて、とても丁寧に教えてくださいました。これまでは常に先生が稽古をご覧になり、「そこはこうやらなきゃ」などと言ってくださった。先生がいらっしゃらない、初めての「黒塚」です。これまでの教えをかみしめ、自問自答しつつ稽古を重ねて舞台に臨みたいです。


―劇場の思い出として1枚、写真に残すとしたらどこを撮影しますか?

基:すいません、2枚にさせてください!
1枚は大劇場ロビーにある、六代目尾上菊五郎の「鏡獅子像」。あの像の前で幾度となくあのキマリをしてみましたが、絶対にあの形にはならない、なれないんです。六代目と平櫛田中の素晴らしさに圧倒される、日本舞踊家として仰ぎ見るものというか……。
もう1枚は楽屋の鏡台ですね。出番の前で顔を作り、拵えをしていく場所であり、そして舞台の後、納得ができず、もう一度踊ったこともあります。そういう自分を見守り、映してきた唯一のものです。
それと劇場前のあの様々な桜もぜひ!これじゃ3枚ですね、我ながら欲ばりです……(笑)


―ありがとうございました。


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