日本芸術文化振興会トップページ > 国立劇場 > 2022年度 > 【2月文楽】好評上演中、21日(火)まで!(舞台写真あり)
2月文楽公演「近松名作集」が4日(土)に初日を迎えました。
国立劇場2月文楽公演では、たびたび「近松名作集」と銘打ち、近松門左衛門の名作の数々を上演してきました。今回は初代国立劇場最後の「近松名作集」として、近松の円熟期に書かれた3作品をお届けいたします。浄瑠璃作者としてだけでなく、日本の近世文学を代表する作家である近松の魅力を、存分に堪能できる公演です。
舞台写真とともに、みどころをご紹介いたします。
【第一部】
『心中天網島』 (しんじゅうてんのあみじま)
大坂・網島の大長寺(大阪市都島区中野町)で起きた実際の心中事件を題材とした作品で、数ある近松の心中物のなかでも最高傑作と言われています。
紙屋治兵衛は遊女の小春と深い仲でした。しかし、商売仲間の太兵衛に小春が身請けされることになり、思い合う治兵衛と小春の2人は心中の約束をしていました。
心配した治兵衛の兄・粉屋孫右衛門が小春に尋ねると、本当は死にたくないと言います。これを立ち聞きした治兵衛は逆上し、孫右衛門に諭されて小春と別れることとなります。
しかし、この小春の行動は、治兵衛の妻・おさんからの手紙を読んでのことだったのです。
治兵衛とおさんの家へ、孫右衛門とおさんの母がやってきます。
2人から小春が身請けされることを聞いた治兵衛の目には涙が。
おさんは未練があるのかとなじりますが、治兵衛は面目が潰れるのが悔しいと言い、小春は別れた途端に身請けされるような女だと軽蔑します。
これを聞いたおさんは、小春の真意に気づき、自分が送った手紙について白状しますが……。
治兵衛は、彼を案じる人々に囲まれながらも、運命を断ち切ることはできません。因縁深い蜆川やいくつもの橋を越えて大長寺にたどり着くと、小春と共に悲しい結末へと進んでいくのでした。
【第二部】
『国性爺合戦』(こくせんやかっせん)
明の遺臣・鄭成功(国姓爺)の活躍を題材に、日本と中国大陸を舞台にしたスケールの大きな物語です。
異国情緒を漂わせながらも、日本の風土や日本人の気質への賞賛も盛り込まれています。
韃靼に攻め込まれている大明国を救うため、日本にいた明の旧臣・老一官とその家族は中国大陸へ渡ります。
しかし、状況は厳しく、一官の娘・錦祥女が嫁いだ甘輝将軍に頼るほかありません。
一行は甘輝の構える獅子が城へ向かいます。
道中では虎狩りに遭遇し、和藤内の豪傑ぶりが描かれます。
一行は獅子が城に到着しますが、警戒は厳しいものでした。騒ぎを聞いて錦祥女が姿を現します。
一官に対し、錦祥女は厳しい態度をとりますが、形見の姿絵と変わらぬ面影を鏡越しに見て、思いの丈を涙ながらに語ります。城内へは縛られた母が1人で入ることになり、錦祥女は夫が味方となる場合は水路に白粉を、そうでなければ紅を流すと伝え、母を招き入れます。
獅子が城に入り、母は甘輝に明国再興の計画を話します。思案すると答えた甘輝に対して母が答えを促すと、甘輝は錦祥女へ刃を向けるのでした。
明国再興に向けて力強く進む男性と、命懸けでそれを支える2人の女性。それぞれが選ぶ道は……。
華々しい場面の中、人々の情熱が豊かに描かれます。
【第三部】
『女殺油地獄』(おんなころしあぶらのじごく)
若者の衝動的な殺人が描かれた異色の作品です。
享保期の初演の後、長らく上演が途絶えていましたが、明治40年代に歌舞伎で取り扱われるようになり、文楽では戦後に復活上演されました。それ以来、頻繫に上演される人気演目となっています。
野崎参りで賑わう4月半ばの徳庵堤で、油店河内屋を営む与兵衛が会津客と喧嘩を始めます。ある拍子に与兵衛は高槻家の代参・小栗八弥の袴に泥水をかけてしまい、高槻家に仕える伯父・森右衛門から手打ちにされるのではないかと怯え、たまたま居合わせた同じ町内で油店を営むお吉に助けを求めます。
継父・徳兵衛が先代の実子である与兵衛に気を使っているのをいいことに、与兵衛は放蕩三昧。
徳兵衛は、与兵衛の兄・太兵衛から遠慮せずに与兵衛を勘当すべきと助言され、悩んでいました。
そこにやってきた与兵衛は、森右衛門のために金が必要だと嘘をつき、しまいには父親違いの妹・おかちを蹴り飛ばす始末です。
ついにはこれまで先代を想って我慢してきた徳兵衛も、堪りかねて与兵衛を勘当します。
与兵衛はお吉のいる豊島屋へ行き、金の無心をします。与兵衛の両親から与兵衛を諭してほしいと頼まれていたお吉は、毅然とした態度をとりますが、油を汲もうと背を向けたお吉に、与兵衛は脇差を抜き……。
油にまみれた凄惨な殺し場は、人形ならではの表現が見所です。