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国立劇場

研修講師インタビュー 田中佐太郎(たなかさたろう)師(歌舞伎音楽(鳴物)主任講師)※令和元年10月掲載

 田中佐太郎先生は歌舞伎囃子田中流家元の家に生まれ、幼少期より歌舞伎囃子方としての教育を受けました。国立劇場の養成事業開始時には、22歳の若さで研修生の指導を始め、今日まで数多くの伝承者を養成されていらっしゃいます。
 演奏家はもちろん、数多くの歌舞伎俳優にも鳴物の指導を行い、長年にわたり歌舞伎界を支え、国立劇場養成研修のすべてを知る佐太郎先生にお話をうかがいたいと思います。

《未経験者でも大丈夫》
Q. まず、「鳴物」についてお話を聞かせてください。
A. 鳴物演奏家には、歌舞伎の興行で演奏する「歌舞伎囃子方」と、邦楽演奏会や舞踊会等で演奏する「長唄囃子方」がいます。国立劇場では「歌舞伎囃子方」を養成しており、ただ綺麗な音で演奏するだけではなく、歌舞伎の公演を担い、お芝居の一部となることが求められます。若い時から歌舞伎囃子をやっていると、お芝居の場面に合う音が分かるようになっていきます。

Q. 歌舞伎囃子方の家に生まれた方は、幼い頃からお稽古を開始しますが、これまでに鳴物のお稽古を受けたことのない人が研修生になることはできますか?
A. 楽器の扱い方から丁寧に指導しますので、未経験者でも大丈夫です。先入観なしに学ぶことができるので、未経験者の方がよい面もあります。

Q. 逆に、鳴物のお稽古の経験があって応募してくる人についてはどのようにお考えですか?
A. これまでに身についてしまった癖を取り除いて、歌舞伎の演奏家としてふさわしい演奏ができるように指導していきます。研修生になる前にやってきたことが直接役に立つかはさておき、その熱意は買いますよ。

《就業後も育て続ける》
Q. 研修を修了して就業したら、どのような生活を送ることになりますか?
A. 毎朝10時に劇場に出勤して、芝居の始まる前の着到(ちゃくとう)(開演を知らせるために、鳴物が演奏すること)を行います。そして、芝居中は黒御簾(くろみす)(舞台下手側にある御簾)や出囃子(でばやし)(舞台上に出て演奏すること)で演奏します。歌舞伎座などでは、通常は昼夜1回ずつ公演がありますので、朝から晩まで劇場で演奏したり先輩の手伝いをしたりして過ごしますが、出番が昼の部だけの月は昼の部のみ出勤したり、中日(なかび)交替といって、25日興行の半分だけ勤めることもあります。演奏家としての腕が認められれば大役に抜擢されることもありますし、海外公演に行く機会もあります。

Q. 2年間の研修修了後も、プロの演奏家として、様々な公演に関わりながら、引き続き多くのことを学ぶ必要があるかと思いますが、その後の指導はどのように行われますか?
A. 研修生の間は私が指導をしますが、修了したら現場で引き継いで育ててくれています。それに、研修修了者が困っていると、それを見た現場の先輩たちが私のところに電話をかけてきて、状況を知らせてくれたりもします。また、千穐楽の日には、一門は皆、家元の家に挨拶に来ますので、その時に声がけをするようにしています。以前は巡業先での様子を見に、日帰りで出かけたこともありました。

《将来性のある前向きな人を求めています》
Q. 研修生になるには、選考試験を突破しなければなりませんが、どのような人に研修生になってほしいと思われますか?
A. 将来性のある人に来てほしいです。選考試験では、技術云々よりも、前向きに取り組む姿勢を評価したいと思っています。それから、毎月25日間の興行を勤める必要があるので、健康であることが不可欠です。

Q. 選考試験までにやっておいた方がよいことはありますか?
A. 歌舞伎を観てきてください。そして、正座ができるようにしてきてください。最初は1日3分間からでもよいので、座ることを習慣にして、徐々に長く座れるように練習することが大切です。

Q. 長い間研修生の様子をご覧になっていて、研修期間中に研修生が一番悩むことは何だと思われますか?
A. 8月に夏休みがありますが、その時期に実家に帰ると、地元の友達が楽しそうに過ごしているのを見て、気持ちが揺らいでしまう場合があります。そこで、「鳴物の道は厳しいけれど、進んでいこう」と思って、自分の将来を鳴物に懸ける気持ちで研修に戻って来られるかが重要です。

Q. 選考試験に受かって研修生となったら、8か月以内に適性審査があります。不合格となった場合は研修生の身分を失います。この適性審査について、佐太郎先生はどのようにお考えですか?
A. 適性審査までの過ごし方が大切だと思います。適正審査までに、私たち講師の側で、研修生が歌舞伎の世界に向いているのかを判断すると同時に、研修生の側でも、自分はこの業界に向いているのかをしっかり考えてほしいです。

Q. 研修生を目指す人にメッセージをお願いいたします。
A. 研修生になるか、迷ったらとりあえずいらっしゃい!選ばれるかよりも自分がどれだけやれるかを試してみてください。

本日はお忙しい中、ありがとうございました。