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研修修了者インタビュー 田中源蔵(たなかげんぞう)(平成31年3月第16期鳴物研修修了)※令和元年8月掲載
《音だけで勝負する日々》
Q. 歌舞伎の世界に進みたいと思ったきっかけは何ですか?
A. 高校生の時に和太鼓部に所属し笛と和太鼓を演奏していて、卒業後も演奏活動を続けていました。そんな時、偶然歌舞伎を見る機会がありました。お客様から顔の見えない黒御簾の中で演奏するという、音だけで勝負しているというところが、とても新鮮に感じられ、思い切って歌舞伎の世界に飛び込もうと思いました。
Q. 歌舞伎音楽の演奏家を志すにあたって不安はありましたか?
A. はい、研修生になる前に「鼓の家」(鳴物研修主任講師・田中佐太郎師のドキュメンタリー番組)を拝見したことがあり、厳しい世界なのかなと思っていました。
Q. 研修を受けてよかったことは何ですか?
A. 多くの長唄の曲を稽古できたことです。プロになった今では、1か月間決まった曲を演奏するので、研修生時代の方がたくさんの曲に触れることができました。 また、自主学習をする時間がしっかりとれたこともよかったです。覚える曲が多いので。
Q. 曲を覚えるのは大変ですか?
A. はい、先生から次に何の曲をやるのか教えていただき、ツケ(譜面)と音源を用意して覚えて、次の稽古では暗譜で演奏します。行き帰りの電車の中でツケを読み込み、音源を聞き込んで頑張りました!
Q. 研修期間中に先生から言われたことで特に印象に残ったことはありますか?
A. 「裏切らないでやりなさい」と仰っていただいたことがあります。先生方は、毎回の稽古に来てくださる際に、私がきちんと勉強したうえで臨んでくると思っていらっしゃいます。その期待を裏切らないことが大切です。これはプロになってからも言えることです。「源蔵ならできるだろう」と思って配役をしていただくので、その期待に応えられるように努力しています。
《演奏を身体の一部に》
Q. 舞台に立つようになってから、印象に残ったことは何ですか?
A. 2019年3月、京都・南座での初舞台です。研修の修了式の数日後から楽屋に入りましたが、やはり稽古と本番は異なり、緊張したことを覚えています。
Q. 2019年6月には歌舞伎座昼の部の「寿式三番叟」で出囃子(舞踊などの演目で、舞台上にて演奏する)デビューを果たされましたね。
A. 蔭囃子(黒御簾の中での演奏)とやっていることは同じですが、お客様から全てが見られてしまいますので、初日は特に緊張しました。
Q. 1か月同じ曲を演奏し続けるということですが、千穐楽に向けて演奏はどんどんよくなっていくということですか?
A. よりよい演奏をしようという意欲をもって工夫していけば、演奏は変わっていくと思います。食事をするときに、美味しいものをただ何も考えずに飲み込むよりも、どんな食材が使われているのかを考えながらいただくと、その食事がもっと充実したものになりますよね。それと同じで、先輩方の素晴らしい演奏を1か月間ただ聞いているだけでなく、演奏を聞いて工夫していくことが大切だと思います。
Q. 鳴物の演奏家として、普段の生活で心がけていることはありますか?
A. 演奏を身体の一部にしようと心がけています。あくまでも生活の一端と考え、仕事とは捉えないようにしています。
Q. 演奏以外には、どんなお仕事をしていますか?
先輩方のお手伝いをしています。次の月に演奏する曲の資料を先輩方に送ったりもします。
《自分の才能を信じて!》
Q. 鳴物の魅力は何ですか?
A. いろいろな種類の打楽器を演奏できることだと思います。研修を修了してから初めて触れる楽器もあります。人によってどの楽器が向いているかというのはあると思いますが、ベテランの先輩方でも基本的に様々な楽器を演奏されます。
Q. 鳴物の仕事をしていることについて、ご家族やご友人はどう思っていらっしゃいますか?
A. 友人たちは、「舞台を見てみたい」とか、「知り合いにこういう人がいて誇らしい」などと言ってくれます。家族も応援してくれています。
Q. 今後の抱負をお聞かせください。
A. いろいろな演目を経験したいです。やったことのある演目については、きちんと身体に入れたいです。また、日本の音楽や芸術をしっかり吸収して、芸を深めていきたいです。
Q. 研修生になる前にやっておいた方がよいことはありますか?
A. 研修は正座で行われるものがほとんどですので、正座はできた方がよいと思います。1日2~3分間でも正座をする習慣をつけてみてくださいね。
Q. 研修生を目指す方にメッセージをお願いします。
A. 研修生になるか迷っているなら、ぜひ研修生になってみることをお勧めします。一度研修を受けて自分の目で見てから決めればよいのではないでしょうか。未経験でも好きなら大丈夫です。僕なんてムリだと思わないで、自分の秘めた才能を信じて、挑戦してみてください!
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