日本芸術文化振興会トップページ  > 国立劇場  > 研修インタビュー 田中傳次郎師

国立劇場

研修インタビュー 田中 傳次郎(たなか でんじろう)師
(令和3年12月掲載)

 田中傳次郎師は歌舞伎囃子方田中流の家に生まれ、幼い頃にお父様である能楽囃子大鼓方の亀井忠雄(かめい ただお)師とお母様である田中佐太郎(たなか さたろう)師のもとで鳴物の稽古を始められました。平成4年に歌舞伎の初舞台を踏まれ、現在は歌舞伎囃子方を牽引する演奏家の一人としてご活躍なさっています。平成6年から鳴物研修に携わり、後進の育成にも積極的に取り組んでいらっしゃいます。

《「歌舞伎囃子方」という「資格」を得るために》
Q. 傳次郎先生は、ご両親から能楽と歌舞伎の鳴物の稽古を受けてこられましたが、歌舞伎囃子方の道に進まれた経緯を教えてください。
A. 歌舞伎をやろうと決心したのは十代半ばの頃です。兄が二人いて、それぞれすでに能楽と歌舞伎の道に進んでいました(能楽囃子大鼓方の亀井広忠(かめい ひろただ)師と、歌舞伎囃子方の田中傳左衛門(たなか でんざえもん)師)。能楽では同じ舞台で同じ楽器を演奏できませんが、歌舞伎の場合は兄弟一緒の舞台で演奏することができますので、歌舞伎をやることにしました。当時の歌舞伎は三代目市川猿之助(いちかわ えんのすけ)丈や中村勘三郎(なかむら かんざぶろう)丈が活躍されていて、とても刺激的でした。そんな歌舞伎の世界にいち早く入り、さまざまなことを覚えたいという熱意にあふれていました。

Q. 研修修了者は現場で働くようになって間もない頃、舞台で演奏するだけではなく楽屋でのお手伝いの仕事をすることも多いようですが、傳次郎先生のように、鳴物のお家で生まれ育った方も、こういった楽屋での働きはするのでしょうか?
A. 私もお茶くみや草履揃え、先輩方の着替えのお手伝いから始めました。楽屋の空気に合わせて先輩方のお手伝いをすることは、大切な修行の一部です。

Q. 傳次郎先生のように幼少期から鳴物の経験がないと、プロになるのは難しいのでしょうか?
A. 鳴物研修は昭和56年に始まって以来、毎回多くの方々からの応募がありますが、その大半は未経験者です。興味があれば、応募していただいて大丈夫です。着物を着たことがなくても問題ありません。

Q. 最近は和太鼓をはじめ、和楽器のパフォーマンスが流行していて、部活などで和楽器をやったことのある人もいます。このように、楽器を触ったことがある人が応募することについてはどうお考えですか?
A. 経験がある人の方が飲み込みは早いです。ただ、パフォーマンスを重視する演奏は演奏方法などが比較的自由なのに対し、歌舞伎の鳴物はいわゆる「芸道」といって、演奏の型がきちんと決まっています。型の範囲内で、型に守られて最大限の演奏をしていきます。

Q. 決められた型を覚えるのは大変そうだというイメージを持たれやすいかと思いますが、いかがでしょうか?
A. 歌舞伎は大変そうだというイメージを持たれがちですが、長い伝統をもつ「古典」ということが難しく思われる一つの理由だと思います。どんな職業でも一人前になるには努力が不可欠です。医者やプログラマーの方が資格取得のために勉強するのと同じように、私たちは「歌舞伎囃子方」という資格を持つために精一杯修業に励みます。

《すべてのことは、研修で身につく》
Q. 鳴物研修は2年間行います。2年間という短い期間で習得するのは大変なことでしょうか?
A. 若さと根気があれば、研修の2年間でかなり上達できます。それなりに興味があり、絶対にプロになるのだという覚悟を決めて、新しい文化や言語を学ぶようなまっさらな気持ちで取り組めば、未経験でもプロになれます。

Q. どのような人が歌舞伎囃子方に向いていますか?
A. 覚え物が得意で、体力のある方は向いていると思います。性格が明るくて、出しゃばらないというのも舞台を勤める上で大切です。

Q. 研修は正座で行われます。正座に自信がない人でも、研修を受けることはできますか?
A. 正座に慣れないうちは、誰でもしびれてしまいます。研修生になった当初、うまく正座ができなかった人でも、ストレッチを頑張って正座を克服し、今ではプロとして活躍しています。

Q. 研修生になる前に、準備しておいた方がよいことはありますか?
A. 鳴物に興味があるのなら、歌舞伎囃子方になるのだという強い意志を持って、心の準備さえしてきてくれれば大丈夫です。すべてのことは、研修で身につきます!

《忍耐、努力、根性!》
Q. 研修を修了したら、どのようなキャリアを積んでいきますか?
A. 歌舞伎の興行において演奏を行います。最近10年くらいは若手の定着率が特に高く、長く働ける環境です。既存の社中に所属して仕事をしていくもので、独立して自分の社中を持つことはないので、ある意味で目標は見えづらいかもしれません。しかし、各々修業を重ね技術を磨いていき、この10年くらいで養成の講師を務める修了者も出てきました。

Q. 歌舞伎囃子方の仕事の面白いところは何だと思われますか?
A. 舞台に立つ人にしか見られない景色が見られることです。舞台の上からの光景のほか、舞台を観て勉強させていただく公演見学のときには客席からの景色も見ることができます。公演や地域によって、お客様の反応が異なるのを見ることができるのも面白いです。
 また、年齢によって演奏技術が変わっていくのも興味深いところだと思います。若い頃は速く演奏し、聴かせることを重視しますが、次第に「見せる芸」へと変化していきます 。

Q. 近頃は歌舞伎を取り巻く環境も変わってきていますね。
A. 今の世の中には、お金を払ってエンターテインメントを観るという習慣があまりありません。ただ、エンターテインメントは肉体を通して表現されるものですから、生でないと伝わりきりません。歌舞伎をはじめ、ライブのエンターテインメントには、AIで分析できない豪華さと感動があります!この感動を伝えるため、新しいファン層を獲得していく必要があると思います。長い伝統を持つ歌舞伎だから何もしなくても残っていくと思っていてはダメです。とはいえ、変えずに守っていかなければならないものもあります。歌舞伎の実演家として、「忍耐」「努力」「根性」を大事に日々精進していくことは、いつの時代でも大切なことだと思います!

本日はお忙しい中、ありがとうございました。

国立劇場研修生募集 詳細はこちら >

  • 国立劇場歌舞伎情報サイト
  • 歌舞伎・能楽・文楽鑑賞教室のご案内
  • 舞踊を語る
  • バリアフリー情報
  • 会員募集中! 国立劇場友の会 あぜくら会
  • グループ・団体観劇のご案内
  • キャンパスメンバーズのご案内
  • 伝統芸能を「調べる」「見る」「学ぶ」文化デジタルライブラリー
  • 英語教材 Discover KABUKI
  • 研修生募集
  • 国立劇場のマスコット くろごちゃん公式サイト
  • 観劇マナー入門 Q&A