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国立文楽劇場

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研修講師インタビュー 豊竹呂太夫師(令和2年8月掲載)

人形浄瑠璃文楽座の太夫としてご活躍中の豊竹呂太夫師匠。現役の舞台人であり、文楽研修の講師でもある師匠に、研修、文楽、そして芸術についてお話を伺いました。

呂太夫師プロフ

―師匠はお弟子さんだけでなく、地方の愛好者や一般の方向けの義太夫教室で教えたりされるなど、文楽の裾野を広げる活動をしていらっしゃいます。文楽の技芸員というプロにならず、アマチュア=愛好家として文楽や義太夫節を楽しむこともできますが、あえて「プロ」になることについてどのようにお考えでしょうか。

 私は一般の方にも多く教えています。今は50人近くになると思いますが、延べでは200人くらいになるでしょうか。一般の方で義太夫を習いたいというからには、ある程度素養のある方だと思うのですが、そう簡単に上達できるようなものではないですね。稽古を始めて20年経ったとしても、皆さんがプロになれるかというとそうでもありません。やはり義太夫節は難しいものなのです。
 古典芸能、中でも義太夫節というのは難しいと思います。特に太夫は楽器も道具もなく太夫らしい声が出るようになるまで、いわば身体を楽器にしていくまで20年くらいかかると思います。相当な修練が必要で、本当に時間がかかります。
 ですから、プロになるというのは、かなりハードルの高いことだと思いますね。それを乗り越えて太夫になった人は、皆さん選ばれた人だと思います。研修生に応募してプロになった人は、「何か自分は音楽に才能あるな」とか「大きな声が出る」とか、何かしら自信があるから文楽の世界に入ってきたのだと思いますよ、おそらく。舞台で大きい声を出すだけでも大変なことですから。

―応募を考えている若者の中には、伝統芸能の初心者も多くいます。今からプロを目指すことについてアドバイスがありましたらお願いします。

 太夫に関していえば、きれいな声・大きな声が出る人、音感がいいという自覚のある人が入ってきたらいいなと思います。ただ、義太夫節は世界で一番難しいと思います。侍・町人・おじいさん・おばあさん、侍でも良い者・悪い者・・・、とにかく一人で演じ分けなければなりません。
 私も文楽に入って50年を超えますが、1・2年程前にようやく義太夫節とは何かということが、その頂上が自分なりに少しわかってきた感じがあります。頂上にはまだまだ登れませんが、これまで朧ろげだったものの輪郭がようやくしっかりとしてきた実感があります。

―現在も研修講師として教えていただいていますが、研修生に教えるときは、特にどのようなことに重点をおいていらっしゃいますか。
また、師匠ご自身の印象に残っていること、研修制度のメリットなど講師というお立場からお気づきになったことがありましたら教えてください。

 研修生一人一人の課題が異なるので、それぞれの課題をきちんと手取り足取り指摘して矯正するということをしています。一般の方に教える場合と違って、入門した時に知らないと困ること、研修生の時期にしっかりと身につける必要があることを繰り返し丁寧に教えています。この時期に教えてもらったことを、将来どれだけ覚えているかが大事だと思います。10年、20年経ったときに覚えていて、主体的に身に着けてきたかどうかが問われます。だから研修生の時期が勝負だといつも言っています。
 研修制度のメリットは、文楽以外の分野、能楽なども含めて人間国宝クラスの贅沢な講師陣から、無料で教えてもらえるという点ではないでしょうか。いろいろなことを経験できます。研修制度の費用は劇場で賄われていると聞いていますが、それだけ国も研修生に寄せる期待が大きいということだと思います。本当に恵まれた制度だと思います。

呂太夫師研修風景

―師匠の考える、文楽・義太夫節を自身で演じることの面白みとは何でしょうか。

 うまく表現できないのですが、ある意味300年続く義太夫節の歴史に身を委ねるというか、伝統の重みを背負って立つというような快感があるということでしょうか。畏れ多くも、竹本義太夫、近松門左衛門、近松半二ら浄瑠璃作者たちが作り上げてきたものを、私たちは演じさせていただいているのですから、義太夫の歴史を体現しているといいますか、一体化している部分があると思います。
 義太夫節を語ることで、得も言われぬ境地というか、生きていることの喜びのようなものを舞台で感じる瞬間があります。芸事はものすごい緊張の上に、それを突き抜けたところに、五感を超えた、喜怒哀楽を超えたものを感じる瞬間があると、みんなそう思っているのではないでしょうか。それを感じるまでが大変な道のりではありますけれども。

―文楽を始め、芸術には定年がありません。芸道には明確なゴールがないことについて、応募を考えている若者に向けて伝えることがありましたらお聞かせください。

 これだと思ったらそうではない、常に「そうだ分かった」と思ったけれどそれでは無かったということの繰り返しですね。試行錯誤の繰り返しが永遠に続きますから、ゴールはありませんよね。作っては壊し作っては壊し・・・。若い頃は遮二無二やっているだけですが、舞台中に「これだ」とコツがわかる時があります。稽古ではわからない。だから生の舞台というのは大事だと思いますね。
 そのような経験を重ねることによって、最初はお客さんと気持ちが離れていたとしても、最終的にお客さんと一体化していると感じさせる磁場を作っていく。語るだけでなく、自分の芸に惹き込むための雰囲気を作っていかないといけませんね。

―2011年の東日本大震災、そして昨今の新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大など、芸術分野の活動を縮小せざるを得ない状況が続いています。このような状況下で芸術が果たす役割をどのようにお考えですか。

 現在の新型コロナウイルス感染症拡大によって、公演が中止になるなど、すでにお客様が芸能と接する機会が失われている部分があると思います。すでに芸能が途絶えている部分があると思います。舞台人にとってもお客様にとっても辛い時期ではありますが、今まで何気なく見ていたものが見られなくなったことで、「いいものだな」という価値観を再認識できる貴重な時期でもあると思います。そして、芸術が終わったわけではないと、この飢餓状態から再び舞台が見られるのだという希望が、再開された舞台を新鮮に受け止めることにつながるのではないでしょうか。
 公演がなくてもどこか舞台を見たいと思う気持ちがある、そういった意味においてはすでに芸術は役割を果たしているのではないでしょうか。今まで何気ないことがどれだけ幸せだったかということがね。

―最後に、文楽を志す若者へメッセージをお願いします。

 文楽は古典芸能といいながら、抽象的というか、シュルレアリスムというか、抽象芸術の権化みたいな芸術であると思うのですよ。古臭いものではなく、そこにはすごく新鮮なものが隠されているのです。だから、芸術家の方が文楽を見たら琴線に触れることが良くあると聞きます、「これすごいな」と。ちょっと覗くだけでこれがあるのです。ダイヤモンドのような感動の原石が詰まっているのです。このような芸能を絶やしてはいけません。
 文楽の舞台では多くの研修修了者が活躍しています。ぜひ一緒に宝探しをしましょう。

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