公式アカウント
チケット購入
English
国立能楽堂

トピックス

【千駄ヶ谷だより】謡曲紀行(1)〈富士山〉(5月14日(土)普及公演)

 富士山。平成25年にユネスコ世界遺産委員会により「富士山ー信仰の対象と芸術の源泉」として世界文化遺産に登録されたその山は、古来よりあまりにも激しく吹き上げる火焔に怒る神の姿を重ね、信仰の対象とされてきました。5月14日(土)普及公演で取り上げる狂言「富士松」と能「小袖曽我」は、どちらも富士山にちなんだ作品です。


葛飾北斎「冨嶽三十六景 諸人登山」メトロポリタン美術館 蔵

 古来の富士山信仰は、遠くからその姿を拝む「遥拝」が基本。静岡県富士宮市には、縄文時代中期の遥拝祭祀場跡と思われる遺跡が見つかっており、また山宮浅間神社(富士宮市)は、拝殿や本殿がない遥拝所として当時の面影を残しています。富士山の噴火活動が小休止に入る11世紀以降、その信仰の形は富士山に登る「登拝」へと変化していきます。江戸時代から昭和初期にかけて、集団で富士山本宮浅間大社への参拝や富士講八海巡り等の修行をする富士講が大流行し、そうした人々の様子は浮世絵にも描かれています。
 狂言「富士松」が描くのは、そうした富士詣に主人の許しを得ずにでかけた召使いの物語。主人は召使いが持ち帰った富士松(からまつのこと)を欲しがりますが……。
 
COLUMN


鳩森八幡神社(東京都渋谷区)

 富士信仰の流行に伴い、富士山に模した築山、富士塚が各地に作られました。国立能楽堂の至近にある鳩森八幡神社にも、寛政元年(1789)の築造と言われ、円墳形に土を盛り上げ富士山の溶岩を頂上近くに配した「千駄ヶ谷の富士塚」があります。国立能楽堂にお越しの際は、ぜひ併せてお立ち寄りください。

●鳩森八幡神社の詳細はこちら(外部のページに移動します)

 

 一方の能「小袖曽我」は富士の裾野を舞台とした作品。描かれる曽我兄弟の仇討ちは、歌舞伎や文楽でも「曽我物」として親しまれるテーマです。

 親族間の所領争いに端を発して父・河津祐泰を殺された、曽我十郎祐成と五郎時致の兄弟。建久4年(1193)の源頼朝による富士裾野での大規模な巻狩(獲物がいる場所を多人数で囲んで行う大規模な狩猟)に乗じて、仇である工藤祐経を討つ史実に基づく物語です。仇討ちの現場は現在の静岡県富士宮市上井出とされていますが、本作はその前日譚。仇討ちに赴く兄弟が、故郷曽我荘の母のもとへ挨拶に訪れる場面を描きます。

 兄弟の祖父は、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で浅野和之さんが演じる伊藤祐親です。ドラマでも所領の安堵を通して頼朝が御家人たちを束ねていく様が描かれますが、本作もまた、そうした鎌倉武士たちの姿を垣間見ることのできる曲です。ご期待ください。

◆国立能楽堂令和4年5月14日(土)普及公演のご案内



好 評 販 売 中

◇令和4年5月14日(土)普及公演(午後1時開演)

解説・能楽あんない
 兄弟の絆・母の愛
  坂井孝一(創価大学教授)


 富士松
  野村(和泉流)

【あらすじ】
主人に無断で富士詣をしてきた太郎冠者。「許す代わりに富士山から採ってきた松をよこせ」と迫られて、松を渡したくない太郎冠者は主人の機嫌をとろうと酒を飲ませます。まんまと気分をよくした主人は、当節流行りの連歌の付け合いをはじめるのですが……。


 小袖曽我
  上野 朝義(観世流)

【あらすじ】
富士の裾野での巻狩に乗じて、曽我十郎祐成と五郎時致の兄弟は、父の敵・工藤祐経の仇討ちを計画します。今生の別れを告げに母の元を訪れ、まず十郎が対面を請うと母は久しぶりの対面を喜びます。けれど命に背いて出家の道を拒んだ五郎は、勘当を解かれず対面がかないません。落胆し立ち去ろうとする兄弟の背中に、こらえきれずに母が声をかけ、親子は和解をはたします。酒宴が始まり、兄と弟はともに舞い、やがて名残を惜しみつつ旅立ってゆくのでした。

あらすじ=氷川まりこ(伝統文化ジャーナリスト)

▶公演の詳細は
こちら
◆国立能楽堂では、引き続き新型コロナウイルス感染症拡大予防の取り組みを講じたうえで、皆様のご来場をお待ちしております。 (ご来場のお客様へのお願い)