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【公演特設ページ】演出の様々な形(11月18日(金)・12月16日(金)定例公演)
能・狂言は長い歴史の中で様々な演出上の工夫が施され、同名の曲でも流儀の違いや小書(特殊演出)により多様な上演の様式を保っています。今年は「樋の酒(ひのさけ)」「天鼓(てんこ)」の異なる形を二ヶ月続けてご覧いただきます。
主人の留守中に酒を盗み飲む「樋の酒」は、流儀で樋の形や渡し方・渡し場所が変わります。
悲劇的な前半と優美な舞を見せる後半の対比が印象的な「天鼓」は、流儀により扮装や作リ物の位置などが変わります。小書による変化も見のがせません。作品そのものの魅力とともに、能・狂言の演出の多様な姿をどうぞお楽しみください。
あらすじ・見どころ(氷川まりこ/伝統文化ジャーナリスト)
樋の酒
主人が留守の間に、酒蔵の酒を盗み飲もうとする太郎冠者と次郎冠者。別々の蔵に居ながら、どうすれば一緒に酒を飲めるのか――。
出掛ける前の主人は、和泉流では、酒好きの太郎冠者に米蔵、次郎冠者に酒蔵の番を命じ、絶対に蔵を離れてはならないと言い残します。大蔵流では、太郎冠者を軽物(かるもの)蔵(着物用の蔵)に、次郎冠者を酒蔵に閉じ込めてしまいます。主人が出かけた後は、酒蔵にいる次郎冠者が酒を飲みはじめ、それに気づいた別の蔵の太郎冠者が自分も飲みたいと言い出して…。舞台上の蔵の位置関係、酒を飲むための重要な小道具である樋(雨樋)の形や長さ、渡し方にも違いがあります。盛り上がったふたりが繰り広げる酒宴の様子の違いにもご注目を!
天鼓
中国、後漢の時代。天から降ってきた不思議な鼓をもつ少年・天鼓は、鼓を差し出すよう命じた皇帝に背いて、呂水に沈められてしまいます。以来、その鼓は誰が打っても鳴ることはありませんでした。召しだされた天鼓の父・王伯(おうはく・前シテ)が鼓を打つと、妙なる音が響きわたります。皇帝は、王伯に恩賞を与え、天鼓の魂を弔うことを約束します。やがて管絃講(かげんこう・音楽を奏す法会)がはじまると、天鼓の霊(後シテ)が現れ、鼓との再会を喜び、弔いに感謝して舞うのでした。
鼓を取り付けた作リ物の羯鼓(かっこ)台は、金春流以外では舞台正面に出してシテが立ったまま打つ型をしますが、金春流では舞台左端に一畳台と羯鼓台を出し、シテは膝をつく形で打ちます。シテの扮装も流儀や演者による違いがあります。小書は、前シテの登場の謡の一部が省略される「呼出」、中入で管絃講での演奏について狂言方の語りが加わる「楽器」、後シテが舞う〈楽〉の囃子の調子を変える「盤渉」、それぞれの演出の違いをお楽しみください。
11月18日 高野和憲さん
好きな狂言の1つです。
短い演目ながら酒宴があり、それと謡と舞もあって、盛りだくさんな、見どころ、聞きどころの多い作品です。米蔵の番をしながらも酒を飲んでしまう発想力、まだ主人が帰ってこないからと、酒蔵まで行って飲んでしまう行動力は、酒飲みなら誰しも思いつく思考で、酒飲みの私にはとても親近感のある太郎冠者です。私も楽しく演じたいと思います。
12月16日 山本則孝さん
主人の留守を良いことに二人の召使いが酒を盗んで飲むので、今日は蔵に閉じ込められることに。太郎冠者は軽物(かるもの)蔵、次郎冠者は酒蔵に。
三間四方の舞台を二つに分けて演じます。間に蔵の壁があるので、相手の様子がわかるのは高い蔵の窓から聞こえる声だけという設定。立ち位置や窓を見上げる様子、酒を注ぐ型・受ける型を厳しく稽古されました。何もない舞台でお客様に状況が分かるように表現できるか、工夫して演じさせていただきます。
◇令和4年11月18日(金) 定例公演(午後5時30分開演)
狂言 樋の酒
高野 和憲(和泉流)
能 天 鼓 呼出・楽器
朝倉 俊樹(宝生流)
◇令和4年12月18日(金) 定例公演(午後5時30分開演)
窓口販売:令和4年11月11日(金)午前10時~
狂言 樋の酒
山本 則孝(大蔵流)
能 天 鼓 盤渉
本田 光洋(金春流)