国立能楽堂

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能「高砂」の秘密(10月21日Discover Noh & Kyogen)



能「高砂」 住吉明神=大村定

世阿弥が「高砂」で書こうとしたもの

 本年の国立能楽堂【外国人のための能楽鑑賞教室 Discover Noh&Kyogen】 では、能「高砂」を上演します。世阿弥が書いた祝言曲で、能を代表する一曲です。
 この「高砂」、昔から結婚式で謡われたり、新郎新婦が座る席を高砂と呼ぶ由来となったりと、夫婦の仲睦まじさを象徴する能とされてきました。または、常緑で長寿な植物の松が登場するため、松のめでたさを描いた能とも言われています。確かにそうした面もありますが、どうも作者の世阿弥が主題とした点は、これらとは少し違うところにあるようです。
 その秘密は曲中述べられる高砂と住吉、離れた二か所に生える「相生の松」に隠されています。「相生の松」とは実は和歌の象徴で、老人夫婦が掃き清めている「松の葉」は和歌のもととなる「言の葉」の比喩であるというのです。そして、和歌が隆盛することは治世の安泰を象徴し、世阿弥が生きた和歌の盛んな時代即ち当代の御代を賛美することを主題にしているというのです。(下に続く)


  
画像左=「高砂」尉 画像右=「高砂」姥 (ともに『能楽百番』月岡耕漁 より)

和歌(=文化)に秘められた力

 和歌が栄えると世の中が平和になる、というのは現代の感覚からすると不思議なようにも思えますが、これは「高砂」の作られた当時はかなり一般的な思想だったようです。
 「高砂、住吉の松も相生のやうにおぼえ」という一文が『古今集』の序にあるのですが、ここでの高砂とは『万葉集』の時代、住吉とは『古今集』の時代、そして松とは和歌を意味し、この一文はふたつの時代が和歌とともに栄えたことを表すのである……という『古今集』解釈が世阿弥の時代に流行していました。なんだか暗号のようですが、中世人にとっては、これこそが『古今集』に隠された秘かな真実でした。世阿弥は「高砂」を、この秘密を踏まえて作能したのです。一見、単なる権力者へのご機嫌取り、忖度のように思えますが、松の葉=和歌、和歌の隆盛=治世の安泰という高等な比喩による芸術表現ともとれます。
 そういえば能の後半、住吉に到着したワキの神主友成一行の前に本体を現して祝福の舞を舞うシテ・住吉明神は古来和歌の神として名高い神様です。和歌(=文化)によって平和な世の中が実現すること、実は現代にも大切なことなのかもしれません。
 暑さやわらぐ芸術の秋、そんな多面的な魅力あふれる「高砂」を、ぜひ堪能しにお越しください。


Discover Noh & Kyogen 公演のご案内

全ての能楽初心者や、多言語で能楽を楽しみたい方に!

日 時:2021年10月21日(木)午後6時開演
公演名:Discover Noh & Kyogen(外国人のための能楽鑑賞教室)
概 要:ご主人様のいう通り口真似をする召使いが巻き起こす騒動が楽しい狂言〈口真似〉、結婚式の「高砂」の由来でもある、昔から愛されてきたおめでたい能〈高砂〉を上演します。冒頭に初心者向けの解説あり!
 解説は英語ですが、日本語字幕があるので日本語話者の方も安心です。また、公演全編に六か国語の字幕付きです(日本語・英語・中国語・韓国語・スペイン語・フランス語)。
料 金:学生全席1400円、大人2200円~3200円



◆国立能楽堂では、引き続き新型コロナウイルス感染症拡大予防の取り組みを講じたうえで、皆様のご来場をお待ちしております。 (ご来場のお客様へのお願い)