歌舞伎公演ニュース

2023年8月15日

初代国立劇場さよなら特別公演

9月歌舞伎公演

『妹背山婦女庭訓<第一部>』

中村時蔵が意気込みを語りました!

 9月・10月の歌舞伎公演は、「初代国立劇場さよなら特別公演」として、義太夫狂言屈指の名作『妹背山婦女庭訓』を、2か月にわたる通し上演でお楽しみいただきます。

 公演に先駆け、9月の<第一部>で太宰後室定高を勤める中村時蔵が意気込みを語りました!

〈初代国立劇場さよなら特別公演〉で女方の最高峰の難役を演じる中村時蔵

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中村時蔵
(太宰後室定高)

 国立劇場の「さよなら特別公演」の最後の2か月を飾る『妹背山婦女庭訓』、歌舞伎の中では本当に大きな狂言です。9月の<第一部>で女方の大役、太宰後室定高を、初役で勤めさせていただきます。
 平成8年(1996)の国立劇場30周年記念公演では、「吉野川」の久我之助清舟を勤めさせていただきました。その時の大判事清澄は今の松本白鸚のお兄さんでした。思い出もたくさんありますし、いつかはやってみたいと思っていた定高です。このような機会は大変ありがたいことで、大事に勤めたいと思っています。

 現在の歌舞伎界で、定高を演じたことがあるのは、実は坂東玉三郎のお兄さんだけです。今回出演が決まり、早速玉三郎のお兄さんに電話をして、先日お話を伺ってまいりました。精神的なこと、心理描写など、お兄さんの考えや、ご自身で作られた定高について、親切に教えていただきました。

 また今回は宿題も出されました。大判事役の尾上松緑くんが皺を描きすぎないようにすることや、大道具の土手の緑で草色の着物が沈まないように気をつけること、首を切るときの刀の引き方、定高が雛鳥の首を切った後の演出などです。また、大泣きの後は泣きすぎない。首を切った時は大泣きしますが、その後メソメソ泣いているなという考えです。泣かないよりも、泣いた方が楽ですから、難しいことです。

 女方の最終目標は、御殿女中の「片はずし」が似合う役者になることだと常々申しております。定高に関しては、厳密には「片はずし」ではありませんが、心持ちは「片はずし」だと考えています。「片はずし」は以前、「鏡山」を勤めた際、成駒屋(六代目中村歌右衛門)のおじ様に、本当に親切に教えていただきましたので、それを基にして今回も勤めたいと思っています。
 また、定高は、ずっとお腹の中で自分の本心を隠しながら芝居を進めていかなくてはいけませんし、太宰の家を守る当主のような強いところもなくてはいけません。そして雛鳥の首を落とした後の母親としての愛情、それから雛流しで大判事の方に首を送った後の悲しさ、そういうものがいろいろな方によって、様々な演じ方をされてきました。私は初役ですので、自分なりの考えと言うよりも、先輩たちのやってきた足跡を追いながら、玉三郎のお兄さんがいろいろ教えてくださったことを基に勤めたいと思っています。

 国立劇場にはたくさん思い出がございます。平成8年に上演された『妹背山婦女庭訓』で、久我之助の私と、雛鳥を勤めた今の中村雀右衛門さんで、国立劇場優秀賞をいただきましたが、その時に尾上梅幸のおじ様に教えていただいたことも良く覚えております。私が14歳位から5~6年夏に小劇場でやっていた「青年歌舞伎祭(杉の子会)」では、いろんな役を勉強させていただきました。今ほど若手が大きな役をできる環境がなかったので、機会が得られたこと、そして先輩たちに教えてもらえたことが、今でも財産になっています。また、二代目尾上松緑のおじ様が、毎年1月に歌舞伎十八番の復活をなさっていて、お芝居を作っていく様子を間近で見ることができたのも貴重な経験として残っています。

 「妹背山」は、「吉野川」いわゆる山の段と「三笠山御殿」、この2つがメインです。「吉野川」では客席に仮花道を作らなくてはいけませんので、なかなか上演される機会も少なくなっています。「妹背山」という外題の「妹山・背山」を実際に背景にしているのはこの場面だけですので、9月は「吉野川」、10月は「御殿」を中心に、2か月続けて「妹背山」を上演できるのは大変有意義なことだと思います。

 今回、中村梅枝が雛鳥を、中村萬太郎が久我之助を初役で勤めさせていただきます。二人は、平成28年(2016)に吉右衛門のお兄さんと玉三郎のお兄さんが歌舞伎座で「吉野川」をなさったときに腰元で出ております。この間、玉三郎のお兄さんと話した時にも「あそこで出ておいて良かったね」と。萬太郎の久我之助は私が、梅枝はその時に雛鳥を勤めていた尾上菊之助さんに教えていただくと思います。

 両花道での大判事との腹の探り合い、自分の子供の命を断っても相手の子だけは助けたいという思いなどは、それぞれが自分一人の中で稽古して作っていっても、なかなか表現できないところです。やはり相手がいることですので、稽古場で相手がどう言ってくるか、じゃあこっちはこうしよう、ということが大事だと考えています。これからこの狂言を大判事の尾上松緑くんはじめ、皆で作っていきたいと思っています。

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 中村時蔵が定高を、尾上松緑が大判事を共に初役で演じるほか、華やかな顔ぶれが揃います。桜花爛漫の妹背山、両花道を使った豪華な舞台をお楽しみください。初代国立劇場の歌舞伎公演の掉尾を飾るにふさわしい本作品、9月・10月と続けて通し狂言ならではの醍醐味もご堪能いただけます。

 皆様のご来場をお待ちしております。


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