歌舞伎公演ニュース

2023年6月29日

初代国立劇場さよなら公演

7月歌舞伎鑑賞教室

『双蝶々曲輪日記
-引窓-』

中村芝翫、中村錦之助、市川高麗蔵が意気込みを語りました!

 初代国立劇場で最後の開催となる歌舞伎鑑賞教室。7月は、家族のドラマを詩情豊かに描いた不朽の名作『双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)-引窓(ひきまど)-』を上演します。

 南与兵衛後ニ南方十次兵衛を勤める中村芝翫、濡髪長五郎を勤める中村錦之助、女房お早を勤める市川高麗蔵をはじめ、感動的な舞台を充実した顔ぶれでお送りいたします。
本編前の「歌舞伎のみかた」では、澤村宗之助の解説で「引窓」を楽しむポイントを丁寧にお伝えします。

 公演に先駆け、三人が意気込みを語りました!

中村芝翫、中村錦之助、市川高麗蔵からのメッセージ動画



(左より)市川高麗蔵、中村錦之助、中村芝翫

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中村芝翫
(南与兵衛 後ニ 南方十次兵衛)

 今年の10月で初代国立劇場が閉場となり、今回がこの劇場での最後の歌舞伎鑑賞教室でございます。
 これまで度々出演した鑑賞教室の中でも嬉しかったのは、初役で『俊寛』を勤めさせていただいた時に、学生の皆さんが立ち上がってカーテンコールをしてくださったことです。鑑賞教室でははじめてのカーテンコールだったそうで、今でもその拍手をよく覚えております。

 十次兵衛を勤めるのは18年ぶりになります。濡髪も勤めたことがありますが、本当に良い芝居です。こうして錦之助さん、高麗蔵さん、両先輩にお相手していただいて、また新しい発見ができるのではないかなと今から楽しみにしています。

 このお芝居の難しいところは、ともすると、家族が傷を舐め合う家族劇になってしまうというところでしょうか。歌舞伎の「引窓」の場合、平岡丹平と三原伝造の二人侍がスマートに描かれていますから、どこに悪人がいるのだろうという風に見えてしまいます。今回はこの二人侍に少し悪人の匂いを出させ、人間の白黒というものが見えるようにして、十次兵衛と濡髪と女房お早と母お幸の関係性を、単なる家族の悲劇に終わらせないことが一番のポイントだと思っております。

 私は歌舞伎俳優の中でも珍しく、初舞台が国立劇場でした。
この鑑賞教室をはじめ、普段の公演での通し狂言であったり、歌舞伎俳優研修生の育成であったり、この初代国立劇場は本当に歌舞伎界にとって大事な劇場でした。
 毎年のように中村歌右衛門のおじ様や父の一座で、様々な舞台に出演してまいりましたし、私どもの「中村流」という舞踊の流儀で踊らせていただいたことも良い思い出です。
 また、小劇場での一番の思い出は、若手の公演で、昭和61年4月に『義経千本桜』の知盛を勤め、その時に二代目尾上松緑のおじ様に指導を受けたことです。小劇場の鳥屋口で、知盛の後の化粧を松緑のおじ様が私にしてくれた時に、間近に松緑のおじ様の顔があって…嬉しさのあまり涙を流してしまったら、「お前、何を泣いているんだ、このやろう!」なんて怒られたり。舞台の最後、碇を持ち上げた時、客席でご覧になっていた美空ひばりさんが、立ち上がって拍手して「ブラボー」と声をかけてくださったり、本当に色々な思い出が初代国立劇場にはございます。

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中村錦之助
(濡髪長五郎)

 鑑賞教室には色々と出演いたしました。今回の大柄な関取の濡髪や、以前には歌舞伎十八番『毛抜』も2度勤め、新しい勉強をさせていただき、懐かしい思い出もたくさんございます。

 鑑賞教室は、学生さんなど、初めて歌舞伎をご覧になる方が多いので、熱を入れてお客様に伝わるようにと思いながら勤めております。「歌舞伎って長いな」「面白くないな」と思われないように、こちらも普段以上の熱を込めて芝居をすれば、絶対に思いが伝わると信じています。そしてお客様の心に、少しでも何かを感じていただき、またもう一回歌舞伎を見てみようと思っていただければ、ありがたいなと思います。

 濡髪は2度目になりますので、前よりも濡髪らしくできるように、これも錦之助の役どころだなと思っていただけるように一生懸命勉強したいと思います。
 また、濡髪の実年齢は20代前半ですから、関取として位はあるけれど、中身は青年、母を思う気持ちも強く持っています。義理と人情の間で揺れ動く思いが、お客様に伝われば良いなと思っております。
 この「引窓」は今年のお正月に、芝翫さんと私の息子同士が浅草公会堂で勤めておりました。それも何かの縁かなと思いますし、これを足がかりに、芝翫さんとご子息・橋之助さんの「引窓」も見てみたい、私と隼人の「引窓」も見てみたいと思ってもらえるように、勤めたいと思います。そしていつか『双蝶々曲輪日記』の通しも勤められるよう、挑戦していきたいと思っています。

 私は初代国立劇場の開場の頃にも子役で出ておりました。当時の劇場の周りは野原ばかりで、雀を捕まえたり、水たまりのヤゴを捕まえたりと遊んでおりました。よく遊んでいた岡村清太郎(清元延寿太夫)くんと二人でいたずらをして、挙句の果てに親が始末書を書かされたという苦い思い出もございます。これは未だにずっと言われますね。不思議なもので、今はその息子同士(尾上右近・中村隼人)が仲良しで、同じような時を過ごしているんですよ。そんな思い出もたくさんあります。
 その思い出の劇場がなくなるというのは大変寂しいですが、未来に向けてもっと素晴らしい劇場ができるのを楽しみにしております。

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市川高麗蔵
(女房お早)


 7月の鑑賞教室出演は今年で3年連続となります。
 最初の頃の鑑賞教室には、歌舞伎というものにアレルギー反応を起こしていらっしゃる学生さんも多くおりましたが、年々歌舞伎に対する興味というものを、若い方が持ってくださっているのを感じています。歌舞伎というものにはじめて出会う大切な場ですので、精一杯、一生懸命勤めて、歌舞伎に興味を持っていただけるように、誠心誠意勤めたいと思います。

 後半の日程は「親子で楽しむ歌舞伎教室」も行われ、小学生の方々も多くいらっしゃいます。「引窓」は普段の生活の中の言葉を使っているお芝居で、お子様にも聞き取りやすいと思います。私たちが一生懸命動いている姿を見ていただいて、親が子に、子が親に抱く思いやり、そういう気持ちが少しでも伝わり、みんな一生懸命に相手のことを思って生きているんだ、ということを訴えられたら良いなと思っています。

 「引窓」は、歌舞伎狂言の中では舞台面もそれほど派手ではなく、衣裳も比較的地味なものですけれど、このお芝居に携われば携わるほど、温かくて良いお芝居だなとつくづく思います。私も両親が健在なうちに、もっとこのお芝居を噛み締めておけばよかったなと思っているくらい、本当に大好きなお芝居です。

 お早は4回目になりますが、初めて勤めさせていただいたときには中村雀右衛門のお兄様に細かく教えていただきました。世話女房の典型的なお役ですが、元は都という遊女だったという設定ですので、お稽古していただいた時も、やはり心のどこかに元は傾城だったという空気を持っておいた方がいいよと教えていただきました。
 いろいろな経験をして苦労してきたお早だからこそ、この時間を大事にしたい、旦那様やお母様を大事にして精一杯この家庭を守りたい、そういうところを心に留めて勤めたいと思います。今回は初役のときと同じように、衣裳も引着にして、前の傾城の残り香が少しでも出せるようにと考えています。

 私も国立劇場には、開場記念の第1回舞踊公演から出させていただいて、たくさんの思い出が詰まっています。白鸚のお兄様や吉右衛門のお兄様のなさっていた「木の芽会」という会にも、子役のころから出させていただきました。
 初めて大人の役のセリフを喋ったのも国立劇場です。『椿説弓張月』という三島由紀夫先生のお芝居で、為朝の息子の舜天丸(すてまる)という役をやったときでした。三島先生は、子役のような一本調子のセリフで、すっと朗読するようにしゃべれば良いと言うのですが、私を歌舞伎の世界に誘ってくれた八代目市川中車のおじには、「あそこは一本調子じゃなくて、“何が何して何とやら”と回さなきゃダメなんだよ」と大人のように抑揚をつけて言えと言われて…小学生ながら「2人で話し合ってどっちかにしてほしいな」と思っていたんですけれど。本当にそれが大人の歌舞伎の世界に踏み込んだ第一歩ですし、その後に亡くなったおじとの最後の思い出でもありますので、国立劇場の『椿説弓張月』は濃密な思い出として残っております。

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 歌舞伎鑑賞教室は、解説付きで歌舞伎の代表的な演目をお楽しみいただける公演です。価格もお手ごろで、観劇の手引きになる豆知識をまとめた歌舞伎読本やプログラムを無料配布いたします。石清水八幡宮ゆかりの風物詩を巧みに織り込みながら、家族のためを思って苦悩する登場人物の姿を克明に描いた本作は、大変味わい深い作品です。

 6日(木)と20日(木)には、午後6時30分開演で、お勤め帰りの方にもご観劇いただきやすい「社会人のための歌舞伎鑑賞教室」を、16日(日)・20日(木)~24日(月)は、夏休み特別企画として、お子様向けリーフレット付きの「親子で楽しむ歌舞伎教室」(親子先行予約・親子割引あり)を開催します。

 皆様のご来場をお待ちしております。



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