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【2月文楽】付き人さんが解説!? 『菅原伝授手習鑑』と天神伝説

 2月文楽公演第一部では、『菅原伝授手習鑑』より三つ子の一人・桜丸を中心とした物語を上演します。公演を目前に控え、『菅原伝授手習鑑』と天神伝説について、くろごちゃん、ではなく、今回は付き人さんが解説します。さて、どうなることやら……。

◆◆◆

 先月に引き続き、カブッキーに会えるのを楽しみにしているくろごちゃん。それに対して、付き人さんはいつになく熱心にプログラムを読んでいるようです。

(⌒v⌒):あれ? 付き人さん、なにしてるの?

付き人:あ、くろごちゃん! 今度、「桜丸切腹」について解説することになっちゃって……。プログラムで予習しているんだ。

(⌒v⌒):え、大変! 明日は傘を持ってこなきゃ!

付き人:それ、どういう意味!? ……って、それどころじゃなくて! なにを話せば良いか分からなくなっちゃったんだよ。

(⌒v⌒):なるほどね。う~ん、じゃあ、ちょっとぼくに解説してみるのはどう?

付き人:えっ!?

(⌒v⌒):リハーサルだと思って、ね!

付き人:・・・・・・わかった、やってみるよ!

◆◆◆

付き人:えっと、2月文楽公演では、三大名作の一つ『菅原伝授手習鑑』から、三つ子の一人・桜丸を中心とした部分を上演します。、菅原道真、作中では菅丞相(かんしょうじょう)の天神伝説を題材にした五段構成の時代物で、桜丸の物語は三段目にあたります。
冒頭は、三つ子の梅王丸、桜丸と松王丸の対立を描く「吉田社頭車曳(よしだしゃとうくるまびき)の段」です。

(⌒v⌒):「車曳」は昨年の7月歌舞伎鑑賞教室でも観たよね。文楽だとまた雰囲気が変わるから、その違いも楽しんでほしいな。

付き人:そうだね~。ここでは、三人の性格の違いや関係性が描かれます。また、最後に登場する敵役・藤原時平(ふじわらのしへい)の威圧感もみどころです。


吉田社頭車曳の段
(平成23年2月文楽公演より)

付き人:その後は、三つ子の父・白太夫(しらたゆう)が暮らす佐太村に舞台が移り、「茶筅酒の段」「喧嘩の段」「訴訟の段」「桜丸切腹の段」と続きます。

(⌒v⌒):佐太村は、今の大阪府守口市だよ。

付き人:補足ありがとう……! 白太夫が預かる佐太村の菅丞相の下屋敷では、白太夫の70歳のお祝いのため、三つ子の女房達が準備中です。


佐太村茶筅酒の段
(平成29年5月文楽公演より)

付き人:父を祝うためにやってきた梅王丸と松王丸は、吉田神社での遺恨から、会って早々、喧嘩に発展! 二人は別れて出て行ってしまいます。


同 喧嘩の段(同上)


同 訴訟の段(同上)



同上

(⌒v⌒):(ん? だいぶはしょってない?)

付き人:その後、屋敷の奥から現れた桜丸は、菅丞相失脚の原因を作ったことを理由に切腹。夫の決意を知ってうろたえる女房の八重の述懐が涙を誘います。白太夫と八重が看取る中、桜丸は最期を迎えるのでした。

(⌒v⌒):……。

付き人:……。

(⌒v⌒):……えっ、それだけ!?

付き人:う、うん。やっぱり短いかなぁ。

(⌒v⌒):短すぎるよ! 仕方ないなぁ。じゃあ、ぼくが質問するから、付き人さんはそれに答えて!

付き人:そんな、いきなり無理だよ!

(⌒v⌒):返事は!?

付き人:は、はい!!

◆◆◆

(⌒v⌒):じゃあ、まず一つ目の質問! 桜丸が菅丞相失脚の原因を作ったって言ってたけど、具体的には?

付き人:えっと、えっと、菅丞相が失脚したのは、娘の苅屋姫(かりやひめ)と帝の弟・斎世親王(ときよしんのう)が密会していたことが時平方にバレて、菅丞相が謀反を企んでいるって讒言されたから……だよね?

(⌒v⌒):そうそう、それが二段目の冒頭の「加茂堤の段」だよね。

付き人:それで、斎世親王と苅屋姫の仲を取り持ったのが、親王の家来である桜丸と八重だった、んだよね?

(⌒v⌒):ちゃんとわかってるじゃない。 桜丸は斎世親王に、梅王丸は菅丞相に、松王丸は藤原時平に、それぞれ仕えているんだよね。今回、冒頭に「車曳」があることで、それが明確になるよね。


吉田社頭車曳の段
(平成23年2月文楽公演より)

(⌒v⌒):ちなみにこの三つ子の設定は、大坂で当時話題となっていた三つ子誕生のニュースが取り入れられているんだ。ところで、付き人さん、次の質問だけど、どうして三つ子の名前が梅王丸、松王丸、桜丸なのか知ってる?

付き人:え、菅丞相の愛樹にちなんでいるんじゃないの? 白太夫が住む菅丞相の下屋敷にも梅・松・桜が植えられてるよね。梅王丸と松王丸が、桜の木の枝を折っちゃう場面があるし。

(⌒v⌒):そう! その場面では、桜丸の最期を予感させていて、桜丸から事前に切腹の決意を聞かされていた白太夫は、折れた桜から逃れられない桜丸の運命を悟るんだ。


佐太村茶筅酒の段
(平成29年5月文楽公演より)

(⌒v⌒):道真と言えば「飛梅伝説」で有名な「東風吹かば匂い起こせよ梅の花主なしとて春を忘るな」という和歌がよく知られているけど、桜と松も愛したとされているんだ。

付き人:あっ! そういえば、「寺子屋」で松王丸が「梅は飛び桜は枯るゝ世の中に何とて松のつれなかるらん」っていう歌のことを言ってるよね。

(⌒v⌒):えっ、すごいじゃない! 付き人さんにしてはよく覚えていたね。

付き人:褒めてないよね、それ……!!

(⌒v⌒):その和歌自体は、本当は道真の和歌じゃないんだけど、江戸時代の人たちは道真が詠んだと考えていたんだ。『菅原伝授手習鑑』でも、四段目の「天拝山の段」で菅丞相が詠んでいる場面が描かれているよ。

付き人:なるほど! 責任を負って自害した桜丸が「桜は枯るゝ」に当たるんだね!


佐太村桜丸切腹の段
(平成29年5月文楽公演より)



(⌒v⌒):その通り! 「梅は飛び」は大宰府に参じた梅王丸、そして、時平の家来であり、梅王丸と対立する松王丸の本心はどうなのかという意味の「なにとて松はつれなかるらん」。

付き人:そっか、それで松王丸の菅丞相への恩が描かれる「寺子屋」につながって行くんだね。「桜丸切腹」が分かると、「寺子屋」の「思ひ出だすは桜丸」って言う松王丸の台詞がより切なく感じられるよ。

(⌒v⌒):でしょ。そして、佐太村の屋敷跡が、江戸時代はもちろん、現在も守口市にある佐太天満宮となったという由来が語られて三段目は終わるんだ。

付き人:そうなんだ~。

(⌒v⌒):知らなくてもお話は分かるけど、知っていると物語をより楽しんでもらえるようなことを解説に盛り込むと良いんじゃないかな?

付き人:なるほど! ありがとう、くろごちゃん!! すごく助かるよ!!

(⌒v⌒):いやぁ、それほどでもないよ~。

付き人:他にどこに注目すればいいかな?

(⌒v⌒):ん~、やっぱり、運命を受け入れた桜丸と白太夫の述懐、突然知らされた夫の死を嘆く八重のクドキ(旋律にのせて胸の内を切々と訴えるセリフ)かな~。他にどこに注目すればいいかな?

付き人:なるほどね、メモメモ! 他にも分からないことがあったら、すぐに振るから後ろにいてね!

(⌒v⌒):え~!!

 結局、くろごちゃんに頼りっぱなしの付き人さんなのでした。

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 儚く散る桜丸の運命と、それを見送ることしかできない家族の悲劇を描いた人間ドラマを、太夫・三味線・人形の三業が鮮やかに描き出します。文楽作品屈指の名作をどうぞお見逃しなく。

2月文楽公演は、2月8日(土)から24日(月・休)まで
第一部:午前11時開演/第二部:午後2時30分開演/第三部:午後6時開演

好評販売中!
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