国立文楽劇場

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研修講師インタビュー 吉田玉男師(令和2年12月掲載)

人形浄瑠璃文楽座の人形遣いとしてご活躍中の吉田玉男師匠。舞台でのご活躍はもちろん、後進の指導にも注力されている師匠から、未来の研修生への熱いメッセージを頂きました。

玉男師

―師匠ご自身が文楽の世界に入ったきっかけを教えてください。

 中学2年生の時に、当時文楽を上演していた道頓堀の朝日座で「絵本太功記」の通し上演があり、近所に住んでいた人形遣いの吉田玉昇さんから、足遣いの手伝いのアルバイトをしないかと声をかけてもらったのがきかっけです。当時の文楽座では、人形遣いが30人弱しかいなかったので人手が不足していたようです。私はサラリーマンの家庭で育ち、文楽のこともその時まで全く知らず、劇場に行ったのも初めてでした。ちょうど学校で歴史を教わっていた時期で、「義経千本桜」に源義経が登場したり、名前は変えてありますが「絵本太功記」に織田信長(劇中では尾田春長)や豊臣秀吉(劇中では真柴久吉)が出てくるので、歴史好きとして興味を持ったことも入門しようと思ったきっかけの一つです。また、東京公演や日本各地に行く地方公演、さらには海外公演もあると聞いて、いろいろな土地に行けることにも惹かれました。両親は文楽の世界に入ることに反対していましたが、説得して入りました。入門してからはいろいろ厳しい事がありましたが。

―師匠の考える、人形遣いの魅力とは何でしょうか。

 私は50年以上人形遣いをしていますが、足遣いを10年くらい、左遣いを15年以上やって、そして主遣いになりました。はじめは人形遣いの魅力がなかなか理解できませんでした。長い長い期間の修業が必要です。入門してすぐには人形を持てないですし、動かすこともできません。足遣いの時には、師匠(初代吉田玉男)にいろいろ注意されました。左遣いも難しいですが、足遣いの時とは違った魅力を感じるようになりました。
 主遣いになるには、何十年もかかりますが、何といっても経験が大事です。足遣いをしていた時ですが、お正月の公演の後に勉強会(若手向上会)があって、「一谷ふたば軍記」の熊谷に挑戦させていただいたことがありました。その時、なんと師匠が左遣いをしてくれまして、とても勉強になりました。この時に師匠に教えてもらったことで今の自分がある、と言っても過言ではありません。若い時に主役を、下手でも上手でもよいから一度経験することは大事なことだと思います。主役の人形を遣うことはすぐにはできませんが、とにかく師匠や先輩の舞台を見て、自分でも修業を重ねて少しでも技術的に近づくようになることが、人形遣いの魅力だと思います。
 また、文楽は太夫、三味線、人形の三業で成り立っています。舞台で生の演奏に合わせて人形を遣うことが私の役割ですが、その三業の息がぴったり合うと、何とも言えない醍醐味を感じます。素晴らしい演奏に出会うと人形が自然に動きますから、義太夫節は素晴らしいものです。

玉男師

―師匠は研修講師として、多くの研修生を指導されてきましたが、指導することについて、特に大事にされている部分がありましたらお聞かせください。

 研修講師をさせていただくことで、私自身もいろいろ勉強になります。面白いことに足を遣い出して10年経ったころの自分を思い出しますね。人形は3人で遣いますので、研修でも弟子などに講師補助を頼むことがあります。屋体(舞台装置)に上がって正面を向く動作や、「六法」や「棒足」などの基本の型や歩き方の指導をするのですが、講師補助に主遣いをさせて、研修生に足の遣い方を教えるので、人形の動きを客観的に見られて自分も勉強になりますし、普段は公演では遣わない役の人形を遣う講師補助の者にとっても勉強になります。公演中には直接注意できないことも指摘できるので、講師、講師補助、研修生が一緒になって勉強できるところを大事にしたいですね。左遣いに注意することもありますが、その様子を研修生も聞くことになるので、お互い切磋琢磨することで実際の舞台でも役立つと思います。

―文楽の技芸員(太夫・三味線・人形遣い)になるために必要なこと、若いうちにしておいた方が良いことはどのようなことでしょうか。

 文楽を何度も劇場で見てもらって興味を持ってもらうことでしょうか。お芝居の中では太夫の語り、三味線の演奏、人形の動きにそれぞれ特色がありますが、私は人形遣いですので、かしらや手などの細かい動きや、華やかな衣裳も見ていただけると嬉しいですね。歴史に興味があれば物語の内容から楽しめる部分も多いですし。また、他のジャンルの芸能にも多く触れることによって、芝居そのものに関心を持つと良いと思います。日本の古典芸能にもいろいろありますが、共通するところもありますので、とにかく幅広く見てもらいたいですね。
 また、人形遣いになると、頭で考えるのではなく、身体で覚えないといけないことがたくさんあります。手先も器用な方が良いと思いますが、不器用でも勉強の仕方で何とかなります。とにかく一所懸命努力するという心掛けが大事なので、それは身につけておいた方が良いと思います。

―師匠のお弟子さんにも研修修了者がいらっしゃいます。どのような人に文楽の世界へ来てほしいですか。文楽を志す若者へメッセージをお願いします。

 文楽は地道な努力をし続ける必要があり、入門してからの修業が長いものです。足遣い、左遣いでそれぞれ10年以上の年月がかかります。時には一人前の主遣いになれるのか疑念がよぎることもあるかと思います。そこを乗り越えて、一緒にこれからの文楽の舞台を作って行きましょう。「文楽やってみたいな」と思われた方は、私たちも一緒に勉強しながら大事に育てて行きたいと思いますので、ぜひ文楽研修生に応募してください。

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