イベントレポート

あぜくらの集い
「管絃-双調と黄鐘調-」から知る雅楽の世界 を開催いたしました

1月20日(火)開催 於国立劇場伝統芸能情報館3階レクチャー室

安齋省吾氏 大窪永夫氏 豊英秋氏 画像
安齋省吾氏     大窪永夫氏     豊英秋氏

2月7日に行われた雅楽公演「管絃─双調(そうじょう)と黄鐘調(おうしきちょう)」に先立ち、1月20日、あぜくらの集い「『管絃-双調と黄鐘調-』から知る雅楽の世界」を開催しました。いずれもかつて宮内庁式部職楽部首席楽長を務められた豊英秋(ぶんのひであき)氏、安齋省吾(あんざいしょうご)氏、大窪永夫(おおくぼながお)氏をお招きし、雅楽の六調子における「双調」「黄鐘調」について実演を交えたご説明や、雅楽器についてなどたっぷりとお話しいただきました。

双調と唱歌

雅楽の三つの演奏形態「管絃」、「舞楽」、「歌謡」のうち、「管絃」には「壱越調(いちこつちょう)」、「平調(ひょうじょう)」、「双調」、「黄鐘調」、「盤渉調(ばんしきちょう)」、「太食調(たいしきちょう)」という六つの調子(音階)があり、これを「六調子」と呼んでいます。一昨年の国立劇場雅楽公演で上演した『管絃―壱越調と評調―』に続いて、今年の公演で取り上げた「双調」は双調(「ソ」に当たる)を主音とする調子、「黄鐘調」は黄鐘(「ラ」に当たる)を主音とする調子です。

今回の「あぜくらの集い」では、まず雅楽の歌物(うたもの)、催馬楽(さいばら)の祝い歌『安名尊(あなとう)』から始まりました。楽曲に先だって演奏される小曲「双調調子」に続いて、双調の『酒胡子(しゅこうし)』から、普段あまり聴く機会のない部分を演奏していただきました。笙(しょう)を務める豊氏いわく、「いかにも唐の都らしい町の賑わい、世界一の都の混沌とした感じがいたします」。

続いて、双調の唱歌(しょうが)を、笙(豊氏)、篳篥(ひちりき)(大窪氏)、龍笛(りゅうてき)(安齋氏)が各々披露してくださいました。唱歌とは楽器を用いず楽譜を声に出して歌う練習で、雅楽を学ぶ楽生(がくせい)は、この唱歌の修業を重ねて楽師になります。「膝つき五年」と言われ、膝をたたいて歌う唱歌だけを五年間続け、それからやっと楽器が持てるようになるそうです。今回は三人一緒の唱歌を披露してくださいましたが、通常三管が一緒に歌うことはないそうです。豊氏によれば、「唱歌はその旋律を歌うことによって、相手のことを理解するのです」とのこと。中心となる旋律を担うのは篳篥。笙は全体を高い音の和音で支え、篳篥と笛との三管合奏は、雅楽の管絃でもっとも小さい演奏形態となっています。

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膝をたたいて歌う「唱歌」

黄鐘調と渡物

黄鐘調も双調と同じく、まず「黄鐘調調子」を演奏してから、黄鐘の『越天楽(えてんらく)』の唱歌と演奏が披露されました。これは盤渉調から黄鐘調に移調した「渡物(わたしもの)」と呼ばれるもので、調子が変わることでまるで違う曲のように変化します。三管それぞれに方法論があり、龍笛の安齋氏は盤渉調のスタイルで歌われたそうで、「黄鐘調の場合は弾き方も音の使い方も双調とだいぶ違ってきます」。篳篥の大窪氏は「篳篥では黄鐘調は最高音で、十度程度の狭い音域の間で上下しながら演奏します」。豊氏は西洋の教会音楽を思わせるような盤渉調の澄んだ音色とも比較しながら、「まだ西洋音楽が伝わっていない時に、洋楽的な和音があったことが大変不思議です」と、音の歴史と成り立ちについて思いを馳せて話されました。

雅楽器の取扱いの難しさ

大窪永夫氏 画像
大窪永夫氏

双調と黄鐘調の解説と実演の合間には、各楽器についてのお話もありました。篳篥は「葦舌(ろぜつ)」と呼ばれる葦(よし)で出来たリードをさし込んで演奏しますが、刈った葦を二年ほどかけて燻して使用します。大窪氏によれば、指の感覚で「舌」を削る舌作りが難しく、時間がかかる大変な作業とのこと。「雅楽の中の全ての分野に登場する篳篥は小さい楽器ですが大きな音が出ますし、篳篥一本で何でも自在にできます」と、大窪氏は力を込めます。

安齋省吾氏 画像
安齋省吾氏

龍笛を務める安齋氏は、「西洋ではリード楽器は大抵専門の職人に作ってもらいますが、笙と篳篥は原材料から自分で作り上げる大変な楽器です。笙のリードは銅鑼(どら)を切って作り、篳篥は淀川の葦を使って作ります。いわゆるフルートに当たる笛は歌口(うたぐち)の振動を調節して音程を整える蝋をもらいに行くくらいなので、空き時間を使って笛の練習をしっかりしなさいと教わりましたし、私も若い生徒たちにそう伝えています」。竹で出来た三管には冬の寒さは大敵。桐箱に保管するなど楽器の維持管理には細心の注意を払っているため、数十年来使用している安齋氏の笛は一度も割れたことがないそうです。

豊英秋氏 画像
豊英秋氏

豊氏は笙の扱いに大変手間がかかること(吹く度に調律が必要で、焙りながら演奏しなければならない)、それゆえに明治に入り、真っ先に削られた楽器が笙であったことを話されました。雅楽の演奏は長年楽家(がっけ)によって受け継がれてきました。楽家の流れをくむ豊氏の「音楽的才能の有無にかかわらずその家に生まれた普通の人によって世襲制で忠実に演奏されてきたことが、かえって昔からの音色を伝えているのかもしれませんね。」とのお話が印象的でした。

最後は質疑応答にも丁寧にお答えいただき、専門的なお話ではありつつも、和やかなお三方のお人柄と実演で、雅楽の魅力がより身近に感じられた「あぜくらの集い」となりました。

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