イベントレポート

あぜくらの集い
「林家正蔵を迎えて」

開催日:3月5日(火)
場所:伝統芸能情報館3階レクチャー室

落語への情熱がほとばしるトーク!

 

 幅広い活躍で人気の高い落語家の林家正蔵さんをお迎えし、これまでの歩みを語っていただきました。父であり師匠でもあった初代林家三平さんをはじめ、昭和・平成を代表する〝レジェンド〟との貴重なエピソードも次々に飛び出します。

 

◆憧れの「矢来町」

 

 「目の前の課題をこなすのに一生懸命で、改めて昔を振り返ることがあまりなかったんです」という正蔵さん。会場で配られた〈林家正蔵プロフィール〉の資料を見て「学校の授業じゃないんだから」と照れくさそうに笑います。
 ご存じ、初代林家三平さんの長男として東京根岸に生まれた正蔵さんは、小三平を名乗って子役としてドラマなどに出演していましたが、両親から「噺家になりなさい」と言われたことは一度もなかったそうです。ところがある大きな会場で父に突然高座に上げられ、打ち合わせもなしに小話を披露すると、満員の会場は大ウケ。まんざらでもない息子の様子をじっと見ていた三平さんは、「将来、噺家になりたいと言い出すかもしれない」と感じていたとか。そんな父の思いも知らず、中学時代に正蔵さんが憧れたのは、「矢来町」の呼び名でも親しまれた古今亭志ん朝さんでした。
「一人で志ん朝師匠の高座を観に行ったんです。いやぁ、カッコよかった! 父はお客様に笑っていただくことに命をかけていたのですが、当時の私は『親父の芸と全然違う!』って(笑)。それから矢来町の師匠の〝追っかけ〟になりました」。

 

◆「こぶ平」誕生

 

 当然「志ん朝師匠に弟子入りしたい」という思いは募りましたが、七代目林家正蔵の妻である祖母に諭され、1978年、高校入学と同時に父三平さんに入門します。弟(二代目三平さん)の発案でつけられた名前が「こぶ平」。以来、四半世紀にわたってお茶の間でおなじみとなった名前ですが、当初ご本人はいささか不本意だったようです。
「私が『小太りだから』『子豚みたいだから』という理由で弟がつけた名前なんてイヤですよ(笑)。でも親父には『ウチは野武士なんだ。一代で名前を大きくすればいい』と言われました」。
 前座修行を始めたころ、上野の鈴本演芸場で立川談志さんに声を掛けられたことも忘れられない思い出だと語ります。「それまで目も合わせてくださらなかったのですが、グレープフルーツを食べていた師匠に突然呼ばれましてね。私ももらえるのかなと思ったら、『お前、いいことしたな。親の跡を継いだということは、父親の生き方を息子が肯定したということなんだ。がんばれ』と。談志師匠らしい言い方ですよね」。ひねりの効いた談志流エールは、今も正蔵さんの心に残っています。

 

◆父の言伝

 

 入門から程なく、父三平さんは54歳という若さで死去。正蔵さんはまだ高校三年生でした。師匠として父として最期に三平さんが遺した言葉は、「明るく元気に一生懸命」だったそうです。
「とてもわかりやすい言葉でした。拍子抜けするくらいに。でもね、親父が言った通りなんです。お客様の前ではいつも明るく元気でいなくちゃいけないし、何よりお客様のお時間と木戸銭をいただいているからには、とにかく一生懸命やることが基本です。今、私自身も弟子に訊かれたら同じように答えます」。
 その後真打に昇進し、タレントとしても活躍する一方で、古典落語に力を入れるようになります。敬愛する春風亭小朝さん、そして憧れの大先輩である志ん朝さんの助言が大きな契機となりました。
「志ん朝師匠に、『俺は親父の志ん生のような天衣無縫の芸はできない。だから親父にはないものを会得しようと思った。お前も三平兄さんのような噺家にはなれないけど、古典筋ものが向いてるよ』と言っていただいたのです。小朝兄貴や先輩方もアドバイスをくださって、週に一個、ネタを覚えていきました」。

 

◆九代正蔵として

 

 地道な努力を続け、『景清』『子は鎹』といった古典の人情噺で評判を高めていった頃、襲名の話が持ち上がりました。父の名「三平」ではなく、祖父が七代目を名乗った「正蔵」を九代目として継いではどうか、という打診です。
「鈴本の席亭さんがそのお話を持ってきてくださった時に私は不在でしたが、お袋が『あの子はとてもその器じゃありません』と言うと、席亭さんが『器は大きくするものです。一度こぶ平君の古典を聴いてみてください』と言ってくださったそうです」。
 こうして襲名を決意し、2005年に賑々しく「九代 林家正蔵」襲名披露興行が行われました。以来、正蔵さんの名前もすっかり定着し、近年は俳優として山田洋次監督作品に数多く出演するなど、活躍の場を広げています。
 国立演芸場では、2008年から毎年『正蔵 正蔵を語る』と題して代々の正蔵が得意としたネタに挑み、11回目となる今年九月には六代目が得意とした大ネタを予定しています。また、毎年四月の上席の主任としてもおなじみで、今年は『井戸の茶碗』と『幾代餅』を披露。「矢来町のお師匠さんの十八番に挑戦します。春らしいハッピーエンドでお客様に気持ちよく帰っていただければ」。
 楽しいお話もあっという間に予定時間に。「聞いていただきたい話がまだたくさんあります!」と名残惜しそうな正蔵さん。第2弾に期待しましょう。

 

 あぜくら会ではこれからも会員限定の様々なイベントを開催してまいります。皆様のご参加をお待ちしております。

 

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