イベントレポート

あぜくらの集い
「新春かるた会 -せりふを愉しむ-」

開催日:1月18日(金)
場所:国立劇場大劇場お休み処

かるた会

 

一昨年、昨年と好評をいただいた「新春かるた会」が今年も開催されました。今回は歌舞伎俳優の中村梅枝さんをゲストにお迎えしてせりふにまつわるお話を伺い、皆さんにかるたの対戦を楽しんでいただきました。ご案内役は歌舞伎に精通した古典芸能解説者の葛西聖司さん。賑やかな笑いに包まれ、今年も大いに盛り上がったお年玉企画となりました。

 

◆耳で聴いてわかるせりふ

 

1月は国立劇場の初春歌舞伎公演『通し狂言 姫路城音菊礎石』にて桃井陸次郎と桃井八重菊丸の二役を勤めた梅枝さん。原作『袖簿播州廻』の特色を活かしながら新たに台本を補綴した作品だけに、古典とはいえ新作同様の心構えで臨んだそうです。
「稽古に入ってから台本が変更になることが多いので、ある程度固まったところでせりふは1日で覚えます」と梅枝さん。「ストーリーが頭に入っていれば1回稽古して皆で動いてみると、だいたい全体が把握できます。国立劇場の台本は難しい言葉が使われていることが多いのですが(笑)、お客様が耳でせりふを聴かれた時に、理解していただけないようでは意味がありませんから、稽古の途中で長いせりふをカットしたり、難しい言い回しを変更することもあります」と語ります。
「歌舞伎は伝統芸能ではありますが、目で見てわかる、耳で聴いてわかるものにすることが大切ですね。作品によっては絶対に変えられないものもあるでしょうけれど」と葛西さん。歌舞伎が現代に生きる芸能であり続ける背景には、観る側の視点に立つ姿勢が不可欠であることがよくわかります。

 

◆大役阿古屋に挑戦して

 

また梅枝さんは昨年12月、歌舞伎座で『壇浦兜軍記』の阿古屋を初役で勤めました。琴、三味線、胡弓という三種類の楽器を見事に演奏しなければならない女方屈指の大役です。坂東玉三郎さんの指導のもと、玉三郎さん、中村児太郎さんとのトリプルキャストも話題を呼びました。演じることが決まってから1年余り、それまで経験のなかった胡弓を中心に楽器の稽古を重ね、本番を迎えたそうです。
「阿古屋の場合は楽器がせりふですね」という葛西さんに梅枝さんも頷き、「楽器の音色が阿古屋の心境を表しています。玉三郎さんに一から教えていただきました」。

 

◆好きな役、やってみたい役

 

梅枝さんのお話の後は、いよいよかるた会の時間です。当日のくじ引きで決定した三人一組での対戦となり、テーブルにかるたの取り札が並べられると、会場はどこかそわそわした雰囲気に。使用するのは、開場50周年記念オリジナルグッズとして国立劇場が監修・製作した『歌舞伎名ぜりふかるた』です。

 

かるた会

 

葛西さん、梅枝さんが札を読み上げると、各テーブルから「パシッ」と札を叩く音と歓声とが入り混じり、会場は一気に賑やかになりました。初対面同士でも同じチームで戦うことで、皆さんすぐに打ち解けられるようです。
「鮒だ、鮒だ、鮒侍だ」(『仮名手本忠臣蔵(三段目)』高師直)では「師直が良くないと『忠臣蔵』は面白くないですよね」、「月も朧に白魚の…」(『三人吉三廓初買』お嬢吉三)では「お嬢はやっていませんが、おとせでは三回川に落とされました(笑)」、「大恩教主の秋の月は…」(『勧進帳』武蔵坊弁慶)では「歌舞伎の中でも天(最上級)の役です」と梅枝さん。読み上げたせりふや役にまつわる一言コメントを、葛西さんが梅枝さんから引き出していきます。

 

菊五郎劇団ではおなじみの「酔って言うんじゃございませんが」(『新皿屋舗月雨暈』魚屋宗五郎)では、「宗五郎がいかに気持ちよく酔っていけるかを皆で作っていく。チームワークが命です」。「丁度所も寺町に…」(『梅雨小袖昔八丈』髪結新三)では「誘拐される忠七は新三に下駄で踏み付けられる時の体の角度にコツがいります」。「六十余州に隠れのねぇ…」(『青砥稿花紅彩画』日本駄右衛門)では「五人男のせりふは皆覚えているだけに、間違えて人のせりふを言ってしまうことも…(笑)」と、マル秘裏話も。 
そして葛西さんが「これ相手役は絶対にやりたいですよね?」と梅枝さんに水を向けたのは、「そりゃあんまり袖なかろうぜ」(『籠釣瓶花街酔醒』佐野次郎左衛門)。「苦界にいる女性の辛さ、そこに嵌ってしまう男の悲しさもよく出ていて大好きな芝居です。花魁八ツ橋いつかはやりたい魅力的な役ですね」。
ほかに梅枝さんがやっていただきたい役として挙がったのは「由良之助か、待ちかねたわやい」(『仮名手本忠臣蔵(四段目)』塩冶判官)、「後とも言わず今ここで」(『本朝廿四孝』八重垣姫)など。八重垣姫だけでなく「濡衣も勝頼も三役ともやってみたい」そうです。また「身不肖なれども福岡貢」(『伊勢音頭恋寝刃』福岡貢)では「お紺は経験していますが、意地悪な万野がやってみたい」と意外な発言も。
こうして白熱のかるた合戦は終了。結果を待つ間、梅枝さんが「一番苦労したせりふ」として、12月に演じたばかりの阿古屋のせりふを披露してくださいました。恋人の行方など知らない、と決然と言い切る名ぜりふに、割れんばかりの拍手が。参加者からは「お年玉をもらったみたい」という声も聞こえてきました。「またいずれ阿古屋を演らせていただけるよう、またほかのお役も諸先輩方に少しでも追いつけるように頑張っていきます」という梅枝さんに改めて惜しみない拍手が贈られ、今年のかるた会はお開きとなりました。

 



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